第26話 炎よ、敵を飲みこめ! 俺だけの技 | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

まだ小学校中学年くらいの頃、大雪の降った中で遊んでいたら、胸まで雪に埋まった事がありました。足や手を踏ん張ってもますます沈むばかり。雪を崩して脱出しようとしても、周りは雪だらけで、子どものどけられる量ではありません。雪の冷たさが少しずつ体に染みてくるのが分かりました。

最終的に親に助け出されたんですが……それ以来、雪は単なる遊び相手じゃないんだなと思うようになりました。雪に対する恐怖心というか敵対心というか。


信也「……で、結局何が言いたいんだ?」


いや、最近あまりにも暑い話ばかりだったから、たまには涼しい話でもしようと思って。


信也「と、いうわけでかっこいい俺のでてくる本編が始まるぜ!」


話振っておいてスルー!?




☆★☆★☆★




「《邪炎龍(じゃえんりゅう)》!」

 迫ってくる赤い炎を、横に跳んでかわす。

 着地した瞬間、足が滑った。体勢が崩れる。

「《焔玉(ほむらだま)》!」

「やばい!」

 9つの火の球が襲いかかってくる。とっさに両腕で顔をかばう。

 腕はもちろん、わき腹にも痛みが走る。

「くっ……」

 腕を下ろしてみると、籠手(こて)が黒く焼けて、ゆがんでいた。これじゃ、《バーニングサラマンダー》も《ファイアダーツ》も撃てない。


 ヨウコモンが少し離れた地面にふわりと降り立つ。

「撃ち止めのようですね。さて、そろそろ貴方のスピリットを頂戴いたしましょう」





―――





 私達は暗い荒れ地の中を、炎の上がっている場所に走っていく。空をキツネが火をまとったようなデジモンが駆けまわっていて、アグニモンが下から必死に撃ち落とそうとしている。

 でも、このままじゃ絶対に不利。

「みんな! 進化して助けるわよ!」

 私は声をかけながら、自分のデジヴァイスを取り出す。


「待って、泉さん!」

 友樹が私の腕をつかんだ。そのまま立ち止まる。

「もう少し、様子をみようよ」

「どうしたんだ、友樹?」

 輝一と、少し遅れて純平も追いついてくる。

「いったん、こっちに来て」

 友樹の案内で、アグニモン達からは死角になる、岩の陰に移動した。

「どういうつもり? アグニモンが一人で戦ってるっていうのに」

 私の言葉に、友樹は真剣な顔で首を横に振った。

「だからダメなんだよ。今僕達が出ていったら、信也の努力が無駄になっちゃうんだ」

「えっと……もっと丁寧に説明してくれよ」

 純平が頭をかきながら言った。


「信也は、すごく負けずぎらいなんだ。拓也お兄ちゃんの事になると特にそうだけど。サッカーでも負けると一番くやしがって。練習の後とか、試合の前とか、人一倍練習してたんだ」

「もしかして、さっき信也が列車の中にいなかったのは」

 輝一が目を丸くする。友樹がうなずいた。

「夜中にみんなに内緒で特訓してるんだよ。きっと……足手まといになるのを気にしてるんだ」

「そんな、気にしなくていいのに……」

 私は思わずつぶやいた。信也は今のままでも十分頑張ってくれてると思う。私達だって、今の力をつかいこなせるまでとても長い時間をかけてきたんだから。他のみんなに比べて力の差があるからって、ムリしなくてもいいのに。


「分かった。ここで様子をみようぜ」

「純平!?」

 私は一瞬信じられなくて、まばたきした。

 純平は、腕を組んで迷いのない目をしている。

「ここで出ていったら、信也が隠れて特訓していた事が俺達にばれる事になる」

「輝一まで!」

 仲間がやられてるっていうのに、みんなどういう風の吹きまわしなの!?

「泉ちゃん、女の子には分からないかもしれないけどさ。これは男の意地ってやつなんだ。今の俺達にできるのは、信也を信じて見守る事なんだ」

「意地って……」

 全く、男の子ってどうしてこうなの?

 私は不満を抑えながら、デジヴァイスを握った。とにかく、本当に危なくなったらいつでも助けにいけるようにしないと。





―――





 考えろ。考えるんだ。

 俺はヨウコモンをにらみながら、炎のスピリットの記憶を探った。

 アグニモンの技の中で、あと使えるのは《サラマンダーブレイク》だけか。でも、あれは接近戦にならないと使えない。足技には自信があるってのに!



 ……足技?




 

 そうか、それなら!






 俺は右足を強く踏み込み、左足を後ろにずらした。

 全ての力を左足に集める。

「炎の闘士、覚悟! 《邪炎龍(じゃえんりゅう)》!」

 赤い炎が地面を駆けてくる。今の俺の体力じゃ、あの炎に近づいたらアウトだ。




 だから……近づく前に倒す!




 左足の甲から炎が噴きだす。

 左足に込めた力を、全て炎に変えて蹴りだす!


「《バーニングシュート》!」


 巨大な紅い火の玉が、邪悪な炎を飲みこんだ。



「馬鹿、な……!」

 ヨウコモンの体から、デジコードが浮かび上がる。

「悪しき者の魂よ、正義の炎で浄化する! デジコード・スキャン!」
 デジコードがデジヴァイスに吸い込まれ、デジタマが飛び去っていく。


「ふう……終わった」

 気が抜けると同時に、進化が解けた。そのまま地面にあおむけに寝転がる。力を使いきって、起き上がる気力もないや。夜空に向かって、大きく息を吐く。

 パンチで狙いをつけるなんて、アグニモンになるまではやった事もなかった。

 だけど、キックで狙うのなら慣れたもんだ。なんてったって、俺はサッカーチームのエースだからな!

 少し頭を動かして、手の中のデジヴァイスを見る。

 この中にあるスピリットは、兄貴が使っていたものだ。だけど、使い方は兄貴とまるっきり同じである必要はない。俺は俺流の戦い方をすればいいんだ。まっすぐ兄貴を超えようとする必要はない。自分なりのルートで兄貴の先に行ってやるさ。


「……やばい、安心したら眠くなってきた……」

 体が重い。トレイルモンの所に戻ろうと思うのに、まぶたが勝手に落ちてくる。

 いいやもう、ここで寝ても――。









「ほら信也! 早く起きないと朝ごはんなくなるよ!」

「何だようるさいな……」

 頬を叩かれて、俺はしぶしぶ目を開けた。横にしゃがんでいた友樹が立ち上がる。

 あれ? ここ、トレイルモンの客車の中?

 体を起して見回すけど、確かに列車の中だ。俺、ヨウコモンと戦った後、外で寝てしまったような……。まさか夢だったのか?

 デジヴァイスを取り出してみる。そこには、ちゃんとヨウコモンのデータが収まっている。

 じゃあ、誰かが俺をここまで運んできた?


「信也! 早くってば!」

 友樹が入口から顔をのぞかせる。その口元がにっと笑った。

 ……なるほど。さっすが俺とコンビ組むだけあるな。俺が特訓したり戦ったりしてたのばれないように、運んできてくれたんだ。

 今回のお礼は、またちゃんとしよう。

「待てよ! 俺の分残しとけって!」

 俺は走って列車から飛び出した。





―――





「男の子って、本当に分からない……」

 昨日の戦いがなかったみたいに飛び出してくる信也を見て、私はこっそりため息をついた。




☆★☆★☆★




女の子視点でのメンバーを語りたくて泉視点を入れました。

メンバー内でここまで女の子一人なのも珍しいですよね。パートナー制ではないからデジモンの女の子もいないし。



オリジナル技を出したので解説。


《バーニングシュート》

アグニモン(信也)の技。炎で包まれた足から火炎竜を繰り出す。《バーニングサラマンダー》と異なり、エネルギーを貯めるのに時間がかかる上に一発しか放てない。しかし、より精密で威力のある一撃である。



以前にキャラソンバトンでこの技の名前を使った事がありますが、その頃からいつ出そうかとうずうずしていました(笑)