最近暑さが収まってほっと一息ついています。
昔、友人に「星流が元気のない時は眠いかおなかすいてる時だ」って言われましたけど、暑くてもダメです。
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「起きるんじゃマキ!」
「起きろ~」
ったくなんだよ、昨日の戦いで疲れてるのに。
「もう少し寝かせてくれよ……」
俺は目をつぶったまま寝がえりを打つ。
「仕方がない、かくなる上は……」
俺の第六感が危険を告げた!
「なっ!?」
「「二体まとめて体当たり!」」
俺が飛び起きた直後、ベッドに強烈な体当たりが直撃した。そこ、さっきまで俺の腹のあった所!?
「おお、さすがの信也はんもわしらの攻撃にはひるんだようじゃのう」
「いやそれより、何でお前達がここにいるんだよ!?」
俺はボコモン、ネーモンに向かって叫んだ。
マルスモンとの戦いから一夜明けた。
俺達はハグルモンやガードロモン達に盛大に歓迎された。
肉リンゴやらキャベツやらを山ほど用意してくれたんだ。けが人も多いし、普段ハグルモン達は肉リンゴなんて食べないのにさ。
で、腹いっぱいになった俺達はこれまた用意してもらったベッドに倒れ込んだってわけ。
久しぶりに、夢も見ないほどぐっすり寝た。
「……で、起きたらボコモン達がいた、と」
朝ごはんのパンを手に、泉がまとめた。二体に強制的に起こされた後、全員を(丁寧に)起こして回って今に至る。
「いやぁ、昨日マルスモンを倒したと聞いていてもたってもいられなくなってな。朝一番にトレイルモンに乗ってきてしまったんじゃハラ」
「……おれ、眠い」
さっき俺を起こしたくせに、皿を枕に寝ようとするネーモン。
すかさずモモヒキをボコモンが引っ張る。
「食事しながら寝るな! ゴームパッチン!」
おお、いい音。
「で? で? どんな風に倒したんじゃ?」
ボコモンがはらまきから本を取り出し、鉛筆を構えた。黒い眼がきらきらしている。
「それが、昨日は俺がMVPでさあ!」
待ってましたとばかりに純平が食いつく。マルスモンが塔の頂上に現れた時から、臨場感と誇張をふんだんに盛って語り始める。
「あー、俺、出発の準備してくる……」
長話についていけず、俺はさっさと席を立つ。
荷物を取りに行く途中で、ハグルモンに会った。
「もう出発するんですか?」
「ああ。食事とかベッドとか、ありがとうな」
俺がお礼を言うと、ハグルモンは目を丸くして、両手の歯車をぐるぐる回した。
「そんなお礼なんて! 今まで誰も倒せなかったオリンポス十二神族の一体を倒してくれたんです! これぐらい当たり前です!」
こんなに感謝されると、照れるよりちょっと居心地悪いくらいだな……。
あ、そうだ。
「じゃあさ、これから俺達が行く場所について知ってる事を教えてくれないかな」
「どちらに行くんですか?」
「水のエリア」
まだスピリットを取られてなくて、元・三大天使の城がないのはそこだけだからな。
ハグルモンは少し考えてから答える。
「湖と森の多い、静かできれいな所だと有名ですよ。あそこの結界を守っているのは水の闘士、ラーナモンですね」
水の闘士か。
「どんなやつなんだ?」
「とにかくわがままなタイプね」
答えは後ろから返ってきた。
振り返ると泉が立っている。
「そっか。泉は本人と戦った事があるんだよな」
俺が言うと、泉はなぜかため息をついた。
「まあね。向こうが私ばっかり狙ってくるから大変だったわよ」
またため息。どうやらいい思い出がないらしい。
「あ、そうそう。私、信也を呼びに来たのよ」
「何かあったのか?」
「何かっていうか、ボコモンから話したい事があるんですって」
「へえ。でもさっき話せばよかったのにな」
俺の言葉に、泉は苦笑した。
「ボコモンもネーモンもマイペースな所があるから……。とにかく行きましょ」
「オリンポス十二神族のデータについて、分かった事があるんじゃハラ」
朝ごはんの席に戻ると、ボコモンが真剣な顔で話し始めた。
「オリンポス十二神族がわしらの世界に来ると次元の壁をゆがませてしまう……という話はメルキューレモンから聞いたようじゃの。図書館の資料にも似たような記述があったんじゃマキ」
ボコモンが指を一本立てた。
「オリンポス十二神族は強い力を持っとるので、こっちの世界にずっとおると、なんと周りのデータが破壊されてしまうんじゃ!」
「あの現象の事か!」
輝一が声をあげた。
俺も思い出す。マルスモンを倒した後、急に地面がデータ化し始めた、あれだ。
「じゃあ、オリンポス十二神族がずっとここにいたら、デジタルワールドが――」
友樹が言いかけて、止めた。でも言いたい事は分かる。
「だからマルスモンは、早くスキャンしろって言ったのか。あいつらも、デジタルワールドが壊れるのは困るみたいだな」
「どうだろうな? 案外その辺気にしない奴もいるかもしれないぜ?」
純平があっさり混ぜっかえす。
「とにかく、早めに倒してスキャンするか、追い払うかした方がいいってことね」
「そーゆーことー」
泉の言葉にネーモンがうなずく。こいつがしゃべるとまじめな話も緊張感ないな……。
「それなら、早く水のエリアに行こう。敵より先にその場にいた方がいい」
輝一が立ちあがった。
「あ、ああ。そんなに焦るなよ」
俺もあわてて立ちあがりながら、声をかける。
輝一が目をそらした。
「別に焦ってなんか――」
純平が手を叩いて止めた。
「はいはい。じゃあみんな忘れ物ないか確認して、トレイルモンの所に集合な」
「なんか純平さん、学校の先生みたい」
友樹が笑って肩をすくめた。俺も小声でのっかる。
「でも、授業教えるのは上手くなさそうだよな」
「小学生二人! 聞こえてるぞ!」
純平に突っ込まれて、俺達は笑って逃げ出した。
「気をつけるんじゃぞ。まだ敵は多く残っとるんじゃからな?」
「分かってるって。心配するなよボコモン」
「おみやげよろしく~」
「おみやげなんてあるのかな……?」
純平とボコモン、友樹とネーモンが何度目かのやりとりをした。俺達は水のエリアに行くトレイルモンに。ボコモン達は炎のエリアに戻るトレイルモンにそれぞれ乗っている。
「それじゃ、出発するぞ~!」
トレイルモンが汽笛を鳴らして、走り始めた。ボコモン達と、鋼の街が遠くなっていく。ガードロモン達が手を振っている。
俺達はそれが見えなくなるまで手を振ってから、行く先に視線を向けた。
次は湖と森の、水のエリア。
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ネーモン「おれ達の出番、これだけ?」
星流「……うん」
ボコモン「実はこれまで語られてきてないが、わしらには信也はん達についていけない深ーい訳があるんじゃハラ」
ネーモン「え!? そうなの!?」
ボコモン「……多分」
ネーモン「あ、ボコモンも知らないんだ」
ボコモン「ムッ。ゴームパッチン!」
星流「おあとがよろしいようで」