七色遠景 -12ページ目

カジノ


すべて賭けてよ わたしに
そう ためらわずに
他の客の射る視線も 集まった野次馬も
眼中にない
ムスクの匂いも葉巻の匂いも札束の匂いも
今は心地良い
あなたの力を 信じてるんだ
今ならまだ 逆転できる
チェリーみたいなダイスに口づけ
いつか観た映画みたいに
遠くに振って
黒い過去も 赤い過去も
現在(いま)の前には力を無くす

銀色の拳銃みたいに
撃ち抜いて砕いてよ
わたしの中の小さな迷い
回り出したルーレット
もう誰にも止められない
黒い罠も 赤い誘惑も
わたしたちの前では力を無くす

チップは全部
わたしに賭けてよ
後悔はさせない
あなたの力を 信じてるから
ディーラーに微笑み返して
シルクハットを取って 
さあ
ゲームは 今 始まったばかり

スノーグローブ



スノーグローブ
さかさまにして戻せば
小さなガラスの街に
雪が降り注ぐ

プラットホームの向こうの街のネオンが暖かく感じる
もう冬が近い
携帯の灯り握り締めた手の中で暖かく光る
もう冬が近い
その後で不意につくため息が白くて
もう冬が近い

春に生まれたわたしのなかの汚れたものたちを
夏に知りながら惰性で育ててしまったものたちを
冬は消してゆく
しずかに
しずかに
あとかたもなく

スノーグローブ
さかさまにして戻せば
大きな灰色の街に
雪が降り注ぐ
あらゆる汚れを消しさって







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冬眠のたね

リスは冬眠したくなかった


冬眠しなければ

あの子に会えるから

リスはたくさんあくびをした

あくびをすると

ほっぺの袋から

つやつやしたクリーム色のたねのようなものを出した

リスはそれを

「寒くてご飯もないから
冬のあいだは眠りたいよ」

と言う動物たちに配った


眠れないライオンにも

眠れないシマウマにも

眠れないオオカミにも

眠れないゾウにも

眠れないカモシカにも

眠れないフクロウにも


たくさん配った


眠れない動物たちは

みんなみんな眠ってしまった

月は青白かった

風にしか木々は揺れず

時間が止まったみたいに真っ暗だった

森の中はみんな冬眠してしまって

しんとしていた

リスの大好きなあの子も

眠ってしまった

リスはほっぺの袋から

つやつやしたクリーム色のたねを出そうとした

自分もそれを飲んで眠りたかったから


だけど

もうあくびはでなかった

だからリスは今も

しずかな森の北風の中で

春が来るまで

あの子の寝顔をずっと見ている






ジェリービーンズ

夕陽はいつも
あの夕べの日差しの色
焦げそうなマーマレードジャム
サンダルが吸い込む
アスファルトの熱
いつもの坂道
笑いながら歩く二人
きっと守られない約束
ジェリービーンズを道端にひっくり返したみたいな
賑やかな最後

今も
転がりつづける
最後の一粒
真っ赤な
ジェリービーンズ

つなぎとめたいと
思ったその瞬間から
もう二人
こんなにも離れていたのに

冬のひぐらし


ひぐらし遠い
遠い日の歌
ここには針のような木ばかり
ひぐらし鳴かない
もう鳴かない
横断歩道の一歩前
盲人用の黄色いタイルに
銀杏の葉が踏み潰されて
凸凹の隙間に 粉々の乾いた黄色
ひぐらし飛ばない
もう飛ばない
一歩飛び出せばすべて終わるなんて
夏の夜だけに見ていい夢
誰にも言えない
もう言えない
乾いた唇小さく動かし
信号の赤だけを
ずっと見ている