「天気雨」 1.膝を抱えて座る男の子は何を見る?【その1】

「天気雨」 1.膝を抱えて座る男の子はなにを見る?【その2】

「天気雨」 2.心理カウンセリング

「天気雨」 3.おねしょ【その1】

「天気雨」 3.おねしょ【その2】

「天気雨」 4.パニック発作と男と女【その1】

「天気雨」 4.パニック発作と男と女【その2】

「天気雨」 5.ちてきしょうがい?【その1】

「天気雨」 5.ちてきしょうがい?【その2】

「天気雨」 5.ちてきしょうがい?【その3】
「天気雨 5.ちてきしょうがい?【その4】

「天気雨」 5.ちてきしょうがい?【その5】

「天気雨」 5.ちてきしょうがい?【その6】

「天気雨」 6.『ママ、わたしを見て』 【その1】

「天気雨」 6.『ママ、わたしを見て』 【その2】

「天気雨」 6.『ママ、わたしを見て』 【その3】

「天気雨」 7.見る人 【その1】

「天気雨」 7.見る人 【その2】

「天気雨」 8.なにも見えない 【その1】 

「天気雨」 8.なにも見えない 【その2】

「天気雨」 8.なにも見えない 【その3】

[天気雨」 9.『わかってほしいわかってほしいわかってほしい』 【その1】

「天気雨」 9.『わかってほしいわかってほしいわかってほしい』 【その2】

「天気雨」 10.ただ、そばにいてほしい 【その1】

「天気雨」 10.ただ、そばにいてほしい 【その2】

「天気雨」 11.混沌 【その1】

「天気雨」 11.混沌 【その2】

「天気雨」 12.混沌 【その3】

「天気雨」 12.せみのはっぱ 【その1】

「天気雨」 12.せみのはっぱ 【その2】

 

「天気雨」 12.せみのはっぱ 【その3】

 

 

 

「そうかあ、クリスマスまで1か月切ったね・・・・。

保育園でもクリスマス会やるよね。学校でもやるの?」

桃子は俊哉の目を見ずに、ぎこちない様子で聞いた。

 

さっきの智の体の痣は、俊哉に見られたことで気づいたことであり、自分でも自覚がなく・・・・。

自覚なく子どもに危害を加えているとしたら・・・恐ろしいことだ。

俊哉に対してぎこちないのは、その自覚がなかったこと自体が気になっていたから。

もしも聞かれてしまったら、どう答えたらいいかわからない・・・・。

 

「早いなあ・・・・。学校では12月半ばだったかな、保育園のクリスマス会もそのくらいだろ。」

俊哉は何事もなかったかのように答えた。

 

 

あいこはふたりの表情を交互に見ていた。そして、いつものように元気な声で言った。

「わたし、まほうつかいの役!」

 

桃子は「そうなの?」と驚いた。

「クリスマス会の劇って、どんなのなんだっけ?まほうつかいなんて出るのね?」

 

「うん!」

あいこはふたりの間に時々入っては、こうして楽しく振る舞うのだった。

そのことにもふたりはまだ気づいていなかった。

 

 

 

そういえば、クリスマスのお芝居ってなにがあっただろう。

「くるみ割り人形」

「てぶくろを買いに」

えっと・・・ほかには・・・

キリストが馬小屋で生まれるお話し・・・・

あれなんて言うタイトルなんだろう・・・。

 

そもそもクリスマスってなんだったのだろうかと桃子は改めて思った。

子供が生まれる前まではクリスマスはもっと自分のそばにあった気がする。

自分は母親ではなくひとりの女性であり、パートナーは男性であった。

―パートナーの性別は人それぞれだと思うが、ここでいうのは桃子にとって、であるー

 

都内のなんとかというところで夜の街のイルミネーションを楽しみながら散歩したり

ドライブをしたり映画を観たり

ディナーも雰囲気の良いお店を予約してもらったり・・・・
クリスマスとはそんなウキウキした楽しいイベントだったことを思い出す。

 

ふと、「雄太」の顔が浮かんだ。

 

桃子は「雄太」と結婚していたけれど、

その前には数人の男性との付き合いもそれなりにあった。

今では俊哉という優しい人がそばにいてくれる。

 

でも・・・・「雄太」のことはまだわだかまっていた。

「雄太」のことだけがこころから離れない。

好きだとか、そういった感情だけではない気がする。

でも、桃子はその感情を「好き」という以外、自分に説明することはできなかった。

 

 

 

 

○桃子の部屋

 

 

 

ピクニックで疲れたのか、あいこと智はぐっすり眠っていた。

 

 

桃子の体も少しだるさを感じていた。

俊哉はいつものようにビールを飲み続けていた。

「なんだか今日はピッチが速いね」

桃子が覗き込む。

 

「うん、そう?」

また次の缶を開けながら顔を赤くした俊哉が口を開く。

 

「桃、おれさ、少しの間仕事休もうと思ってさ。

休んでいる間は、なにかビラまき程度はやろうかと思っているけどね。」

 

「やっと言ったね!わたし前から言ってたじゃん!

俊哉、すごく疲れていたし、無理しやすいタイプだからって。よかった!」

桃子は手を叩いて喜んだ。

 

「まあ、俊哉が疲れたのは、わたしのせいもあるかもしれないけど・・・」

桃子は缶チューハイをちょろっとなめて、

缶が空になっていたのを思い出し、冷蔵庫に向かって立ち上がった。

 

それを横目で見ながら俊哉も答えた。

「桃のせいじゃないよ・・・」

 

 

キッチンの換気扇の下で桃子は煙草に火をつけた。

「今日、気づいたでしょ・・・?」

 

「桃、煙草・・・・」

―煙草、また吸い始めたのかー

 

俊哉が言いかけると、桃子はたたみかけるように言った。

「なんとなく吸いたくなって買っただけだから。それより」

 

 

「智の痣」

 

 

俊哉も気にはなっていた。

でも、その話を今日、ここでするつもりはなかった。

どう切り出すか、どんな話し方をすればいいか、考えようと思っていたのだ。

今日はノープランだ。

 

「まさか桃、おまえ、虐待してるのか」

だなんて聞けない。

 

 

 

つづく