「天気雨」 1.膝を抱えて座る男の子は何を見る?【その1】

「天気雨」 1.膝を抱えて座る男の子はなにを見る?【その2】

「天気雨」 2.心理カウンセリング

「天気雨」 3.おねしょ【その1】

「天気雨」 3.おねしょ【その2】

「天気雨」 4.パニック発作と男と女【その1】

「天気雨」 4.パニック発作と男と女【その2】

「天気雨」 5.ちてきしょうがい?【その1】

「天気雨」 5.ちてきしょうがい?【その2】

「天気雨」 5.ちてきしょうがい?【その3】
「天気雨 5.ちてきしょうがい?【その4】

「天気雨」 5.ちてきしょうがい?【その5】

「天気雨」 5.ちてきしょうがい?【その6】

「天気雨」 6.『ママ、わたしを見て』 【その1】

 

 

「天気雨」 6.『ママわたしを見て』 【その2】

 

 

桃子は、保育園だけに、そう広くはない園庭の

右の奥のほうをじっと見ている。

とても真剣な目をした桃子に、尋常でない感じを受けた俊哉。

「どうした・・・・?」

その方向を見ると、木村弥生と娘の鈴音、そばには弥生の友人と川本がいた。

 

弥生は友人と立ち話に夢中になっていた。

娘の鈴音は保育園児なので当然背も低く、弥生と友人の間に立ってはいるが、

正面を向いているおとなの視界には入らない。

 

 

鈴音は、智と同じクラスの園児だが、とても体が小さい。

智も小さいほうで、太ってはいないが、体つきは子供らしくプクッとしている。

一方鈴音はとても痩せていて、子供らしいかわいさが、体つきという面では足りていないように見える。

いつも泣きはらしたような目をしていて、目の周りが腫れているようだ。

 

 

鈴音は、小さな体を弥生のほうに向きあうようにして、

服を引っ張りながら「ママ」と見上げる。

すると、弥生は初めて会話を止め、わが子の顔を見る。

そして、弥生は表情一つ変えずに鈴音のほほをたたく。

 

弥生はまた顔を上げて、再び友人との話に没頭する。

 

 

鈴音はまた「ママ」と呼びながら弥生の服を引っ張る。

弥生はまた鈴音のほほをたたく。

母親の弥生は娘の顔を見ない。

鈴音の顔を見る時は、娘のほほをたたく時だけである。

 

一瞬でも母親と目が合った鈴音は

その時だけ

その一瞬だけは小さなかすかな笑顔を見せた。

 

 

どのくらいの時間、これが繰り返されていたのだろうか・・・・。

そして、桃子が見ている今もまだ、これは続いているのだ。

 

桃子は微動だにせずその様を凝視している。

俊哉「なんだ・・・・?」

俊哉の表情が険しくなった。

「あれ、智と同じクラス・・・」

俊哉が言い終わらないうちに、レジャーシートの上に座っていた桃子が、裸足のまま駆け出した。

 

桃子「ちょっと!」

弥生の前に立つ桃子。

 

目の前には木村弥生と鈴音の母娘、隣には、立ち話の相手である弥生の友人と、

弥生の内縁の夫、川本が驚いた表情で立っていた。

 

桃子「やめて!」

桃子はすでに涙で顔がぐちゃぐちゃだった。

 

弥生は本当に驚いていた。

何があったのかといった様子であった。

 

たった今、自分の娘にしていた行為は、自覚なくやったことだったとでも言うのか。

 

その弥生と正反対な態度だったのはその友人と川本だった。

ふたりは桃子の様子を見て、一時的に驚いたものの、今はにやにやとしていた。

 

 

 

 

つづく