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「天気雨」 2.心理カウンセリング

「天気雨」 3.おねしょ【その1】

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「天気雨」 4.パニック発作と男と女【その1】

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「天気雨」 5.ちてきしょうがい?【その1】

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「天気雨」 5.ちてきしょうがい?【その3】
「天気雨 5.ちてきしょうがい?【その4】

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「天気雨」 8.なにも見えない 【その1】 

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[天気雨」 9.『わかってほしいわかってほしいわかってほしい』 【その1】

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「天気雨」 10.ただ、そばにいてほしい 【その1】

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「天気雨」 11.混沌 【その1】

「天気雨」 11.混沌 【その2】

「天気雨」 12.混沌 【その3】

 

「天気雨」 12.せみのはっぱ 【その1】

 

  

 

先週はひどかった。

 

タンスを作って智の反応に衝撃を受けたことにはじまり、

智には可哀そうなことをしてしまったと自己嫌悪に陥ってしまった。

 

そして、その話をしてしまったばかりに、村田の反応からまた衝撃を受け、

さらに智が「しょうがい」をもっていることの事実を改めて思い知ったのであった。

 

 

底知れぬ絶望感。

孤独。

桃子の中でなにかがごっそりとひっくり返った感覚。

 

 

桃子の母親は、桃子が高校生の頃病気で視力を失った。

だから、「障害者」ということに抵抗感はなかった。

母親は若いころから児童養護施設(当時は孤児院といったらしい)に勤めていたり、

元気な頃には障害児たちの保育などにも携わっていたらしい。

 

父親とは離婚して母子家庭であったため、

母親は飲食店でのパートの他に障害児のシッターなどもやって生計を立てていた。

桃子はしょっちゅうそんな母親の仕事について行っていた。

そんなことから、「障害児者」と呼ばれる人たちについて桃子は見聞きする機会は多かった。

 

それなのに

 

なぜこんなに絶望感を感じるのか。

なぜこんなに苦しいのか。

なぜこんなに悲しいのか。

わたしはたくさん見てきたし会ってきたけれど、決して「偏見」などなかった。

と、桃子は思った。

 

 

自分の子どもにおきた出来事だというだけで

なぜこんなにも立ち上がれないのだろう。

 

今までのわたしの「障害児者」への理解とはなんだったのか。

他人なら平気であって我が子だと心の整理がつかない。

今までの自分がいかに浅はかだったかを思い知る・・・・。

 

 

桃子のあまりの落ち込みように、俊哉は言った。

「今日は天気もいいから、ピクニックにでも行かないか」と。

 

 

おなじみの俊哉の持ってきたレジャーシートには、

コンビニで買ってきたおにぎりとサンドイッチ、

パックに入った野菜ジュースやペットボトルが乱雑に並んでいる。

 

「今から?お弁当の準備も時間かかるよ」と桃子が言うと、

俊哉は「ピクニックはお弁当だけが目的じゃない!」と笑い、見繕ってきた品々である。

 

桃子はレジャーシートに座り、目の前に広がる、

かつて夏には青々としていた芝生の丘を見ていた。

 

ぼんやりと智を・・・・・

俊哉と遊ぶあいこと智を見ていた。

 

 

しばらくすると桃子は空腹に気付いた。

「こんな時でもお腹・・・・空くんだな・・・。」

まだ精神的には大丈夫そうだなと自分の強さに呆れながら少し笑えた。

 

桃子はレジャーシートに散らばった昼食の品々をちらっと見つつ、3人の姿を探した。

「あれ、どこいったかな。そろそろお腹すいたんじゃないかな・・・」

 

 

桃子は目を細めた。

遠く丘の切れたあたり、木立の下に3人が小さく見えた。

 

まだお昼時だが、家族連れのピクニックを思いついたのは

桃子たちの他に4組ほどしかなく、閑散としていた。

この広い公園がいつも以上に広く感じた。

 

 

他に遮る声もなく、3人のいる方向から笑い声が良く聞こえた。

俊哉が笑いながら子どもたちを引き連れて戻ってくるようだ。

 

 

「もも!」

俊哉は嬉しそうに手を振って近づいてきた。

 

 

 

つづく