ニーナ・シモン 〜 魂の歌 | Get Up And Go !

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現在 全国で公開中の映画 『サマー・オブ・ソウル』。 コンサートを捉えた音楽ドキュメントとしては、かなりの盛況となっているようです。このアメブロにも多くの記事を見かけます。

出演者の中では、ニーナ・シモンに惹かれた人も多いのではないでしょうか。 フェスティバル前年の、1968年のキング牧師暗殺によって、全米各地で黒人暴動が起こったという史実を知らなかったとしても、「黒人のみんな準備はいい? 白い物を叩き潰す準備は? ビルを壊す準備は?必要なら殺す準備は?」と、活動家詩人による言葉を引用して、舞台上から聴衆に説く彼女の姿を見たなら、誰もが衝撃を覚えたはずです。

同時に「美しき黒人たちの声」「美しき黒人たちの心」といった言葉を用いて、黒人であることの誇りも訴えかけています。 当時のニーナ・シモンは社会活動家であり、ブラック・パワーを象徴する存在でもあったんですね。





僕自身ニーナ・シモンの音楽以外の部分についてはよく知らなかったので、この機会にと思い 『ニーナ・シモン 〜 魂の歌』というドキュメンタリー映画をNETFLIXで見つけ観ることが出来ました。 壮絶とも言える半生を送ったひとです。

幼少時からのピアノの才能を周囲によって見出され、やがてはジュリアード音楽院に進みアメリカ史上初の、クラシックの黒人ピアニストを目指すことになるのですが、人種差別によってそれを断念せざるを得なかったと、映画では語られています。

生計を得るためバーでピアノを弾き歌も始めた彼女は、50年代半ばにはヒット曲を出します。 黒人の公民権運動に参加するようになったのは60年代になってから。 人種差別主義者によるアラバマ教会爆破事件や、ミシシッピー公民権運動家殺害事件などが、プロテスト・シンガーとしてのニーナ・シモンを生み出す要因となったようです。 64年には「Mississippi Goddam」という曲を発表。 “ミシシッピーくそったれ!” と歌っています。 当初から過激な表現を持ったシンガーだったわけです。





黒人であるニーナ・シモンの音楽はどのジャンルに属するのでしょうか。 僕がジャズ売り場で働いていた頃は、確かにジャズのボーカルコーナーに置いてありました。しかしソウル/R&B のコーナーで探す客もいたし、ブルース・シンガーだと思っていた客もいました。

スタイルの幅は広く、ジャンル分けを簡単には出来ないアーティストですが、やがて彼女の思想は過激化していき、それは音楽にも反映することとなります。「アーティストが時代を反映するのは当然だ。 人々の声を代弁する」 と語り、自分の音楽をクラシックでもポピュラーでもなく、「公民権の音楽だ」と主張するようになっていきます。

キング牧師には 「私は非暴力ではない。権利を得るためなら暴力を容認する」 とまで言っていたそうです。「恐ろしい人だ」と言って、周囲が離れていったのは仕方のないことかも知れません。

1969年8月、ニーナ・シモンはニューヨークのハーレムで開催された 「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」 に参加します。 ここで歌われたのが、初披露となった曲 「To Be Young, Gifted and Black」です。「人々を助けるために歌う」 と語っていたニーナ・シモンの名曲のひとつです。 若い黒人たちに誇りと希望を説いた曲です。 この曲はシングルとしてもリリースされています。





若く才能に溢れ、そして黒人であるということ
なんて美しく尊い夢でしょうか
若く才能に溢れ、黒人であるということ
私の言うことに心を開いてください

世界には若く才能に溢れ、
黒人である少年少女たちが何百万人もいる
それは事実なのです

若く才能に溢れ、黒人であるということ
私たちはそれを若者たちに伝え始めるべきだ
世界はあなたを待っている
それは始まったばかりの探求の旅

落ち込んだ時でも
これは知って置くべき事実だ
若く才能に溢れ、黒人であるということ
君の魂は失われてはいないということを

Young, gifted and black
Oh what a lovely precious dream
To be young, gifted and black
Open your heart to what I mean

In the whole world you know
There's a million boys and girls
Who are young, gifted and black
And that's a fact

You are young, gifted and black
We must begin to tell our young
There's a world waiting for you
Yours is a quest that's just begun

When you're feeling really low
Yeah, there's a great truth that you should know
When you're young, gifted and black
Your soul's intact



黒人讃歌ではありますが、普遍的な価値を持ち得る素晴らしい曲であるのに、マサチューセッツ大学では、「1万8000人が通う学校の中で、黒人はたったの300人。この曲はあなたたちだけに捧げる」 と言って歌い出してしまいます。この頃になると相当に思い詰めていた様子が伺えます。

躁うつ病、双極性障害を抱えていたがゆえに、激しさは反動を伴います。反動の後に訪れた穏やかな感情を、曲として昇華させることが出来たのは才能のなせる技でしょう。





1971年、マネージャーでもあった夫と離婚し、娘もアメリカに置き「アメリカは悪夢。監獄だ」 という言葉を残して出国。しばらくは音楽を離れてリベリアで暮らすことになります。

映画ではヨーロッパに渡り、その地でライブに復帰するまでが描かれています。 ニーナ・シモンは2003年4月21日、フランスの自宅にて70歳の生涯を終えています。