エヴリデイ・ピープル (Everyday People) | Get Up And Go !

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映画 『サマー・オブ・ソウル』 の中では、ふたつの強烈な個性が際立っていたように思います。 ニーナ・シモンの “闘争” のエネルギーと、 “融和” を訴えるスライのパフォーマンス。 ふたつの力のベクトルは真逆を向いているようにも思えますが、音楽に乗せたコトバは大きな力を持ち得るということは、どちらにも感じます。

「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」 が開催されたのは1969年夏。 その年の初頭に、スライ & ザ・ファミリー・ストーンは 「エヴリデイ・ピープル (Everyday People) 」という全米No.1ヒットを飛ばしています。 バンドは旬の時にあったんですね。 ステージに押し寄せる客たちの様子からも、当時のスライの勢いを感じます。 同時期に開催された 「ウッドストック・フェスティバル」 にも出演し、こちらでも圧倒的なライブを展開しています。これはご存じの方も多いでしょう。





「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」 でのスライ & ザ・ファミリー・ストーンは、スタイリッシュに決める他の多くの出演者たちとは違った、異質とも言える輝きを放っています。 白人2人女性2人を含む人種・性別混合のグループは、それによってフェスティバルの中で雰囲気の違いを際立たせています。

「エヴリデイ・ピープル」 は、"やり方が違っても皆が一緒に生きていかなければ" と歌う、融和の姿勢を示した歌。 民族間の分断が進み激しい軋轢を生んでいた1969年のアメリカで、この歌が大ヒットしたことには大きな意味があったと思います。





2015年のドキュメンタリー映画 『スライ・ストーン』 の中で、スライは自らの若いころを回想して語っています。「家族は他人に嫉妬をすることのない人たちだったので、嫉妬という概念すらなかった。 高校に入って初めて人を羨む感情を学んだ」 と。おそらく差別はあったと思いますが、自分がことさらに "黒人だから" ということを意識しなかったという点で、ジミ・ヘンドリックスと共通するものを感じます。

スライ・ストーンにとっては、バンドに白人を入れたことは自然なことだったのでしょう。音楽を作るのに人種は関係ないという。 ブラックパンサー党という、当時の黒人民族主義者たちがスライに対し、「白人をバンドから追い出せ」 と要求してきた時もそれを拒否しているんですよね。





スライの育った西海岸のベイエリアが、リベラルな雰囲気を持った地域であったことも、スライの作り出した音楽と関係あるのかもしれません。現在は多様性という言葉もよく使われますが、それらの言葉を持ち出すと、理想主義を飛び越えて夢想家であるとしてネガティブにとらえる人たちも多くいます。

音楽の中にこそ理想郷が必要だと思うし、アーティストは夢想家であってもいい、というのが僕の個人的な見解です。音楽には世の中を変える力はありませんが、ひとの心に根付いたものは漢方薬のように少しづつ効いてくるものだとは思っています。

「人にしてもらいたいことを自分から人にしろ。戒律はひとつだけでいい。 全人類がそれを実行できれば世界は平和だ」
これはスライの言葉です。