『ペット・サウンズ』 50周年アニバーサリー・ジャパン・ツアー | Get Up And Go !

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4月12日 東京国際フォーラム ホールAにて行われたブライアン・ウィルソンのコンサートに行って来ました。 今回のジャパン・ツアーの初日となるものです。

『ペットサウンズ』 50周年記念アニバーサリー・ジャパン・ツアーと題された今回のツアー。 "最後" のアルバム再現ライヴと発表されています。 最近はどのアーチストであっても "最後" という言葉を信用しなくなっているのですが、今度ばかりは本当に最後になりそうな気がしています。

ライヴは途中20分の休息をはさんでの2部構成 (正確には3部構成)。 曲目リストを見ればわかるとおり、ビーチボーイズ時代のヒット曲も網羅された有名曲がほとんど。 もうそれだけで、どういったライヴであったかは想像できると思います。

今回のツアーメンバーは、ブライアンを含めて総勢12人。 元ビーチ・ボーイズのアル・ジャーディンも参加。 ブライアンと同い年ではありますが、歌もギターを持った立ち姿もまだまだ若く、ブライアンを良いかたちでサポートしていました。 メンバーには、彼の息子であるマット・ジャーディンも参加しています。
また、かつてビーチ・ボーイズのメンバーとして参加していたこともある、ブロンディ・チャップリンがツアーメンバーに名を連ねていることも特記しておきます。





~ SET LIST ~
<Greatest Hits & Rare Cuts>
Our Prayer
Heroes and Villains
California Girls
Dance, Dance, Dance
I Get Around
Shut Down
Little Deuce Coupe
In My Room
Surfer Girl
Don’t Worry Baby
Wake the World
Add Some Music to Your Day
Then He Kissed Me
Darlin’
One Kind of Love
Wild Honey
Funky Pretty
Sail On, Sailor


<Pet Sounds>
Wouldn’t It Be Nice
You Still Believe in Me
That’s Not Me
Don’t Talk (Put Your Head on My Shoulder)
I’m Waiting for the Day
Let’s Go Away for Awhile
Sloop John B
God Only Knows
I Know There’s an Answer
Here Today
I Just Wasn’t Made for These Times
Pet Sounds
Caroline, No


<Encore>
Good Vibrations
All Summer Long
Help Me, Rhonda
Barbara Ann
Surfin’ U.S.A.
Fun, Fun, Fun

Love and Mercy



第1部は、ヒット曲 & レア といった内容。 アル・ジャーディン、ブロンディ・チャップリンがメイン・ヴォーカルをとる曲も多く、ブライアン・ウィルソンは控えめな印象。 次に続くメインディッシュの前菜かと思いきや、個人的には、ビーチ・ボーイズの中でも最も好きな曲のひとつである 「Add Some Music To Your Day」 が演奏されたり、「In My Room」 「Surfer Girl」 という、ビーチ・ボーイズ屈指の美しいバラードが2曲続けて演奏され、さらに続いたのが 「Don't Worry Baby」。 最初から、聴衆の心を自分たちの世界に引っ張り込んでしまうのは、名曲の多いアーチストの強みですね。オリジナルの持つ美しいコーラス・ワークを、屈強なバンドが見事に再現しています。

第2部が、今回のツアー・タイトルにもなった、アルバム 『PET SOUNDS』 を収録曲順にそって再現した内容。 リリースされた1966年から、今年で50年ということになります。

アルバムについて簡単に
64年、ビートルズを聴いて脅威に感じたブライアンに、決定打となる衝撃を与えたのが、65年のアルバム 『RUBBER SOUL』 です。その衝撃によって、ブライアンの創造性が全開となり生み出されたのが 『PET SOUNDS』 です。

"ブライアンの創造性" と言ったのは、ビーチ・ボーイズ名義になってはいても、ブライアンがレッキング・クルーと後に言われるロスのスタジオ・ミュージシャンたちを集めて音を作り上げたアルバムであり、今日ではブライアンのソロ・プロジェクトのように語られるからです。

そしてその 『PET SOUNDS』 を聴いて触発されたポール・マッカートニーが、ビートルズとして 『Sgt.Peppers ~』 を作り上げた、というのが現在に伝わるブライアン・ウィルソンとビートルズの有名なライバル物語です。 ジョージ・マーティンは、「"ペット・サウンズ" がなかったら、"サージェント・ペパー" も生まれなかった」 とまで語っています。


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「Wouldn’t It Be Nice」 で始まった瞬間から、もう鳥肌です。再現するメンバーたちの演奏の素晴らしさをあらためて感じます。 「ポール・マッカートニーも気に入ってる」 というMCの後に歌われた 「God Only Knows」 は、ポップ・ミュージックの枠を超えた美しいバラード。 この日の聴衆の誰もが、この名曲の中にどっぷりと浸かっていたはずです。

アル・ジャーディンとは関係が悪化していた時期もあったとは言え、彼がすぐ傍らにいたのには、ブライアンも心強さを感じたのではないでしょうか。かつて山下達郎氏が 「アルバムのベスト・トラック」とライナーノーツに記した 「I Just Wasn’t Made for These Times」 では、ブライアンとアルの2人だけにスポットが当たり、ヴァーカルを掛け合う場面がありました。 最高の曲に、そんな美しさをも感じる場面も加わった夢の時間の中で、感情が頂点に達するのを感じました。

ブライアンの歌に衰えを感じたのは確かです。 でも生の演奏によって 『PET SOUNDS』 を聴けたというのは、はっきり言ってしまえばあの場にいたものにしかわからない喜びと幸福があるのです。「このまま、時間が止まって永遠にこの素晴らしい音楽の世界に浸っていたい」。 そんな風に思えるアーチストは何人もいません。

"成長することによって喪失してしまう無垢"。 「輝いていた君はどこに行ってしまったの?」 と歌う 「Caroline No」 によって、壮大なティーンエイジ・シンフォニー 『PET SOUNDS』 は終了となりました。

続いてイントロなしで歌から始まる「Good Vibrations」 という、これまた超ド級の名曲から客席は熱狂の時間へ。「Help Me, Rhonda」 「Surfin’ U.S.A.」 「Fun, Fun, Fun」 ・・・。
最後 「Love and Mercy」によって熱狂は鎮められ、"愛と慈悲" に溢れたライヴは終幕となりました。

全体的には、素晴らしいバンドのコーラスワークが、高音部で苦しそうなブライアンの歌を上手くカヴァーしていたと思います。 それから総勢12人となったバンドのディレクターを務めたポール・マーティンズが上手くバンドをまとめたのだろうな、とその力量が想像できます。 楽曲の素晴らしさと美しいハーモニーで語られるライヴですが、彼の要所での力強いサックスのプレイなどが、全体のサウンドを引き締めていた印象もあります。

ブライアンはと言えば、ときに身振り手振りのアクションも見られるのですが、顔の無表情とのアンバランスさにまた らしさも感じて、やっぱりそこにいたのは、まぎれもなくブライアン・ウィルソンでした   (^-^)/

 



BRIAN WILSON / God Only Knows (Live in LONDON 2002)