
デッドゾーン (原題:THE DEAD ZONE) (1983年・アメリカ)
● 監督 デヴィッド・クローネンバーグ
● 脚本 ジェフリー・ボーム ● 原作 スティーヴン・キング
○ 出演 クリストファー・ウォーケン / ブルック・アダムス / マーティン・シーン 他
最近 毎日のようにニュースとなってとりあげられるあのお方。 アメリカの大統領候補として、暴言 やトンデモ発言を繰り返し、世界中を騒がせているあのお方のことです。 アメリカでも日本でも、ネット上では「やはり」 といった感じで映画 『デッドゾーン』 が引き合いに出されたりしています。
それがきっかけで、もう一度じっくりと観直したというのもありますが、そうでなくてもとてもいい映画なんですね。 数あるスティーヴン・キング原作・映画の中でも傑作であるのは間違いないし、サスペンス・スリラーにとどまらない深い感動もあります。 お薦めの一本です。
ストーリー
(ネタバレ注意)英語教師ジョニー (クリストファー・ウォーケン)は、同僚であるサラ (ブルック・アダムス) との結婚を控え、幸福な日々をすごす平凡な若者。 しかし彼女を送った帰り、交通事故にあったことにより人生は大きく転回します。
事故による昏睡状態から奇跡的に意識を取り戻したのは5年後のこと。 サラはすでに他の男性と結婚。 自身は事故によって、相手の手に触れただけでその人間の未来や過去を見通すことができる超能力を身につけてしまいます。
看護婦の家の火事を予言し、主治医であるサムの母親の所在を透視し、殺人事件の犯人を捜し出すに至り、マスコミによって興味本位でとりあげられることにもなります。 身につけた能力はジョニーに激しい消耗をもたらし、世間との摩擦も生み出し疲弊し、住所を変え家庭教師をしながらひっそりと暮らして行くことに。
しかし自らの能力によって、教え子である少年に迫る死を予知し、それを行動を変えさせることで回避することが出来たことによりジョニーは、予知は 「すでにさだめられた運命」 を示すものではなく、「未来を変えることも可能な能力」 であるということを知ります。
やがてジョニーは、上院議員候補であり将来の大統領候補でもあるスティルソンと握手したことにより、恐ろしい未来を予知してしまいます。 頭に映し出された核ミサイルのボタンを押す映像を見たジョニーは、それを阻止すべく行動に出ることに・・・


この映画が魅力的である要因をいくつかあげてみると、まずスティーヴン・キングの原作の面白さでしょうか。 映画界でも、キングの原作は人気のようで、何本も映画化されていますよね。 ホラーだと、『キャリー』 『シャイニング』 『ミザリー』 などなど。 ホラー以外では 『スタンド・バイ・ミー』 『ショーシャンクの空に』などなど 他多数。
そして 『デッドゾーン』 は、それをデヴィッド・クローネンバーグ監督によって、映像化した作品であるというところが重要な点でしょうか。 80年代~90年代、クローネンバーグの作品は欠かさず観ていました。 『スキャナーズ』 『裸のランチ』 『戦慄の絆』 ・・・。
身体の異常な変化や破壊を独特な形で映像化するボディ・ホラーと呼ばれる作風の方ですが、当初はカルト的な人気を持った監督 といった所もありました。『ザ・フライ』(1986)あたりのヒットから、メジャーになっていったように思います。
それから何といっても、主役のクリストファー・ウォーケンの魅力ですね。 80年代は日本でも人気ありましたよ。 瞳に神秘的ともいえる深さがあって、全体的にも陰りのある雰囲気を持った美しい顔立ちなので、役のキャラクターにはまると とんでもない魅力を放つ役者さんなんですね。
『デッドゾーン』 という映画には、事故によって成就することができなかった悲恋の物語や、超能力を持ったが故の人間の孤独といった哀愁が背景にあって、そのことが作品に深みを与えているんですね。 ウォーケンの持つ雰囲気が、そういった哀愁を表現するにはピッタリであったと思います。
ところで、映画の中で 「もしヒットラー台頭前のドイツに行くことが出来たなら、君ならどうする?」 と、ジョニーが主治医のサムにたずねる場面があります。 サムは 「命がけでも殺す」 と答えるのですが、あなたならどうしますか? 歴史を知る人間であるならば、殺すとまではいかなくても、多くの人が何らかの手を打とうと考えるかもしれません。
生と死の境界域、その先は "デッドゾーン"。
頻発する無差別テロ、隣人として存在する無法者国家、無知で粗野な大統領候補 ・・・
「私たちはすでに "デッドゾーン" 近くにある」 などと考えるのは思い詰めすぎでしょうか。
