バッドフィンガー
BADFINGER
『 ウィズアウト・ユー / Without You 』
君なしでは 生きてはゆけない
君には もう与えることはできない
I can't live
If living is without you
I cna't live
I can't give anymore . . . .
１９７０年 アップル・レーベルよりバッドフィンガー２枚目のアルバムとして発表された、『ノー・ダイス / NO DICE』 に収録されています。
７２年 全米ナンバー１ ヒットとなったニルソンの歌唱であまりに有名なバラード・ナンバーです（９４年、マライヤ・キャリーもヒットさせている）。しかし、いまだにこの曲がバッドフィンガーのオリジナル・ナンバーであると知らない人も多いようです。
ニルソンのヴァージョンでこの曲を初めて聴いたときは、確かに良い曲だと思いました。「君なしでは生きてはゆけない」 という重い言葉を素晴らしいアレンジと歌唱で美しい曲に仕上げています。絶望を歌ってはいても、美しく奏でることでそれが救いとなり、また希望となるのが音楽の良いところであることは認めます。それでも、胸に迫ってくるのは圧倒的にこのバッドフィンガーのほうだと思います。
バッドフィンガーは悲劇のバンドだと言われています。ビートルズのアップルよりデビューし、ポール・マッカートニーの後押しによってヒットも出し、表面的には順調に見えた活動も、契約に絡む金銭上のトラブルから、当時のバンドは大きな収入を得ることはできなかったそうです。
この曲の作者でありメンバーであるピート・ハムは貧しさの中、音楽活動がままならず失意の中で自殺してしまいます。そしてもうひとりの作者でメンバーのトム・エバンスも、あろうことかこの 「ウィズアウト・ユー」 の印税をめぐるトラブルの心労から、８３年にピートの後を追ってしまいます。
現在１８０以上ものカヴァー曲があるといわれる、７０年代を代表するこの名曲の作者ふたりは、報われることなく悲劇的な結末によってこの世を去りました。
バッドフィンガーによって叫ぶように歌われる 「君なしでは生きてゆけない」 に生々しい迫力と重さを感じるのは、この曲を悲劇のフィルターを通して聴いてしまうからでしょうか。
この曲のエンディング、彼らの叫びはフェードアウトし、オルガンの音が残るアレンジは、バンドの行く末を暗示しているかのように悲しさを持って響きます。
