ゼノ話 その15
「私を殺しに来たの?」
自らに死をもたらさんと立ち尽くす男を前にして、少女は云った。
情操に乏しいその眼差し。
己と世界とを隔絶した者だけが放つ特有の色。
無彩色<モノクローム>の少女。
対する男は、緋に染まっていた。
自らが手に掛けた殉教者達の返り血を浴びて緋に染まっていた。
緋色の男は、少女の問いに答える変わりに無言で手にした剣を振りかざす。
男の氷の様な殺意が辺りの空気を支配する。
「―――そう、ありがとう。」
男の意に変わりがない事を看取ったのか、少女はそう云って嫣然と微笑んだ。
その一瞬だけ少女は彩られる。
死を迎えることを喜ぶ少女。
男は手にした剣を投げ捨てると少女に近づき、その細く、青白い首筋に両手を掛ける。その指先には明らかに生の鼓動が息づいていた。
男はじわじわとその指先に力を入れる。
少女はそれでも無言のままだった。
男の間近にその少女の深い、藍色の瞳が映る。
笑っている?
この期に及んでなにを笑う必要がある?
殺されることを望んでいるのか?
男はその瞳を見つめたまま、まるで凍り付いたように動きを止めていた。
偽善と欺瞞に満ちたこの常闇の世に、斯くも無垢で輝かしい笑顔があるものなのか。男の心の中でなにかが弾け飛んだ。
カレルレンとソフィア。
これが最初の出逢いであった。
上記の一節は拙作「About Karellen」という小説からの抜粋なのですが、わかる人にはわかると思いますが、実はPWにEP4の未収録脚本として載せられていた短い文章からインスパイアを受けて書いています。
ソフィアとカレルレンの初めての出会い。
ある意味この出会いは彼が「神を追い求め、そして神になろうとした」長いみちのりの始まりであり、ひいては「カレルレンとは一対どんな人だったのだろうか」という自分の疑問のはじまりでもあったわけなのです。
カレルレンという人そのものをイメージする。
それはゲーム本編から受ける印象というよりもむしろゲーム本編には描かれていない設定上の生い立ちから、そして上記のソフィアとの初めての出会いまでを知る必要があるかと思います。
カレルレン。
彼は地方の一領主の妾の私生児としてこの世に生を受けた。その母エルアザルはカレルレンを生んだ後、しばらくして病に倒れ、この世を去っている。
従ってカレルレンには母の記憶がない。彼は生まれてすぐに天涯孤独の身となった。
その後、果たして誰が彼を育てたのかはわからない。それを知りようにも彼自身の記憶の中から完全に欠落してしまっているのだから。
少年時代の彼は日々を生きるという事のみにその生を費やした。ただ生きるためにおよそ人が思いつく限りのことは何でもやった。
初めて人を殺めたのもこのころである。
彼には人の良心というものが果たして何であるかを理解できぬまま成長したにちがいなかった。だから、彼を知る人間は彼の存在自身を恐れた。彼の氷のように冷たく、剃刀のように鋭い眼差しが、彼に近寄ろうとする者に計り知れない畏怖と恐怖を与えた。
その後彼は若くしてニムロド傭兵団に入団することになる。
死を恐れず、情けを知らない彼の行動は瞬く間にこの世界では有名になった。
実際、彼の名前を聞くだけで慌てて逃げ出す輩も現れるほどであった。
至極当然のこととしてふるまっていた、彼の人間の感情という物を無視した残忍な行動は、敵のみならず、味方からも恐れられることとなり、彼の例えようのない存在感は何者をも寄せ付けることはなくなっていった。
程なく彼はその実績を認められ、傭兵団の団長に就任した。
同じく拙作からの抜粋なのですが自分がここに描くカレルレン像とは、幼少の頃の環境、すなわち妾の子であるカレルレンが、母エルアザルから一心の愛情を注がれて育つも、そのしあわせな環境を最愛の母の死によって一瞬にして奪われ、結果天涯孤独の身となり、生きるためになんでもやったという彼の多感な成長期の環境を考慮し、さらにはニサン時代にシェバトの三賢者のひとりであるトーラ・メルキオールからナノ・テクノロジーを学んだという事実から「良心の欠如、愛情の欠如、そして高い知性」といった言葉をイメージした結果としての描写とあいなったわけなのです。
まあ、簡単にいえばイケメンの知的悪役といったらこんな感じになりますよーっていうイメージだってことですね。もちろん一切の裏付けはありませんが肉体的にもかなりの人であったというイメージを加えてよいでしょう。
そしてプラスとして、成長期における「生きる」ことへの執着心(孤独の身となりながらも成長したわけですから)から培われた物事に対する異常なまでの執着心と高い知性からイメージする知的好奇心、探究心、といった要素が加味され自分の中のカレルレン像が形成されたわけなのです。
こういったイメージからするに、カレルレンにとってソフィアが初めての出会いで見せた「微笑み」とはかつて今まで自分の見たことのない「人の反応(それまでは皆恐怖したわけです)」であったわけで、衝撃を受けると同時に、彼の心の中に「なぜ?」という疑問、さらにはその疑問解明への執着心が芽生えたのではないでしょうか。
ソフィアとの初めての出会い以降、彼はその行動を共にするわけですが、その生活の中で彼は大きな変化をみせ、そしてその結果、彼のココロの中に芽生える一つの感情を追い求めはじめます。
この心の中の感情はいったいなんなのか・・・
彼は最初、それを「神」と置き換えました。
でも、本当の答えを彼がみつけだすのは500年後の話なのでした。
実際の小説はこちら→☆
PS:やったっー今月はなんとか毎日更新達成しました。もう取り置きのネタはありませんから来月からしんどいですけど、これからもがんばりますんでヨロシク。