「お二人がお見えになりました。」
褐色の肌の執事(?)が伝えると社長は無言でうなずいた。執事は音もなくドアを開けると久遠とキョーコが立っていた。心なしかいつもより二人の距離が近い気がしてローリィは目を細める。
「まぁ、入れや。何か話があるんだろう?」
ローリィに声をかけられ二人はソファまで近づいたが、久遠の手がキョーコの背におかれるのを見てニヤリと笑う。
「ほ~お。やっと、いい話が聞けるようだな。」
緊張していたキョーコはローリィの言葉に今度は頬を赤らめた。社長に隠し事ができないのは分かっているが、まだ何も話していないうちからお見通しなのだと思うと本当にこの人が敵でなくてよかったと思う。
「はい。やっとご報告できます。最上キョーコさんと結婚を前提にお付き合いすることになりました。」
久遠が直立不動で報告するのをニヤニヤと見ていたが、急に真面目な顔になりキョーコに視線を移す。
「で、最上君はそれでいいのか?」
「はい。そうさせて頂きたいと思っています。この件ではご迷惑をおかけするかと思いますがよろしくお願いします。」
キョーコと久遠は二人そろって深々とお辞儀をした。
「とりあえず頭あげて座れや。な~に、迷惑なんて思っちゃいねーよ。二人が決めたことは全面的に応援するさ。何より愛が優先されるんだからな。」
二人がソファへ腰をおろすとローリィは執事にシャンパンを持って来るように言った。久遠は遠慮しようとしたがローリィもお祝いだからと譲らない。
「このあと、用事でもあるのか?部屋も用意させてあるぞ。それにシャンパンの1本や2本、お前にしてみりゃどうってことないだろう?」
「えぇ。でも、ご挨拶に伺うのに一杯ひっかけていくなんて失礼でしょう?」
「ご挨拶?」
「だるまやさんに...。」
「なんだまだだったのか?」
「真っ先に伺おうと思っていたのですが、お店が閉まってからの方がゆっくりできるかと...。明日はだるまやさんはお休みですし。」
「ほ~?で、お前の仕事はどうなんだ?一発くらってもどうにかなるのか?」
「そうですね。明後日から仕事です。それまでにどうにかなる程度で勘弁してもらいたいとは思っていますが...。できれば顔ではなく体のほうにお願いできれば問題ないです。」
久遠とローリィがシャレにならないことをさも天気の話でもするようにしていることがキョーコには空恐ろしかった。二人が冗談ではなくいたって真面目なことも信じられない。
「大将がそんなことする理由がないですから、大丈夫ですよ。」
キョーコが口をはさむと久遠とローリィが同時にわかってないなという顔をした。
「最上君?そんなことあるに決まっているだろう?彼は君のことを実の娘のように思っているんだよ。それなのに、こんなどこの馬の骨とも知れないヤンキーが突然やってくるんだ。1発ですめばラッキーだろうな。」
「どこの馬の骨って...失礼ですね。でも、本当に1発ですむならラッキーだと思うよ。」
久遠はため息をこぼしながらキョーコを見やる。
「でも、それぐらいで君との結婚を祝福してもらえるなら安いもんだ。どうしてもお二人には祝福してもらいたいからね。」
それはキョーコの気持ちでもあった。だるまやの二人がキョーコに向ける気持ちが何なのかはわからないが、家庭を知らないキョーコにとってだるまやで過ごした日々はもっとも家庭に近い場所だった。キョーコは二人のことを身内のように慕っている。できることなら、祝福してほしいと心の底から思っている。そして、久遠が同じように思っていてくれることが嬉しかった。
「大丈夫です。最初は驚くかもしれないけど、きっと喜んでくれます。だって、相手が久遠さんですもの。」
キョーコがはにかんで久遠をみると、久遠はそのままフリーズしてしまった。キョーコが指輪を受け取ってから、時折こんな表情を久遠にみせるのだがその表情は久遠にとっては諸刃の剣だった。自分に気を許してもらっているという嬉しさとともに、どうしようもなく抱きしめたくなるのだ。そして、それは抱きしめるだけではすみそうもない。婚約者なのだからもういいだろうとも思うし、どうせここまで待ったのだから正真正銘きちんとバージンロードを歩かせてあげたいという思いもある。久遠が葛藤しているとローリィが呆れた声を出した。
「あぁ~あ。いちゃつくなら俺のいないところでしてくれ。どうせ、店はまだ終わらないんだろう。部屋も用意してある。少し休んで来たらどうだ?日本に着いたばかりなんだろうから...。」