「じゃあ、次は・・・実家だね。」

相も変わらず、貴島はのほほんと話しかけてくる。貴島の為にもキョーコを手に入れろと言うけれど、この頃ではもう遊ばれているだけなのではと思わなくもない。それでも八方塞がりでどうしてよいのか分からない蓮にとって、貴島は「藁」なのだから今はすがるしかない。

それにしても「実家」だって?!実家ってことはキョーコの母親だよな。キョーコと母親の関係が一般的なそれとは異なることを知っているだけにどうアプローチしたものか。確かに結婚となれば当人同士だけの問題ではなくなるが。

が、それにしてもだ。

黙り込む蓮に貴島は訝しげな視線を送る。

「どうしたのさ。敦賀君のことだから彼女の家庭のことも知ってるんだろう?家族構成とかさ。」

「会ったことはないけど、少しならね。」

「何?実家遠いの?あっ、京都だっけ。さらに父ちゃんがほしいってつとか?」

「いってつ?何それ?」

「えぇ、敦賀君っていくつさ?知らないの?ほしいってつだよ。野球嫌い?」

「野球は好きだけど。それとこれとは関係ないだろ。」

「う~ん、となるとジェネレーションギャップかぁ。俺とそんなにかわんない筈なんだけどなぁ。年齢詐称してたわけじゃないんだな。」

勝手に話を逸らす貴島にイライラがつのり先を促す。

「で、実家の話は?」

蓮のイライラなんてどこ吹く風でどこまでも貴島はマイペースだ。

「あぁ、そうそう。実家だよね。やっぱり家族に反対されると面倒だろ。この業界浮き沈みが激しいから敬遠されることもあるし。京子ちゃんも同じ業界とはいえ、だからこそ婿は堅気がいいって考える人もいるしね。う~ん、京都はちょっと遠いよねぇ。そこにわざわざ行ったら警戒されるよなぁ。誰か親代わりとかいないの?未成年でこっちにいるんじゃ保護者代わりがいるんじゃないの。そういう人を味方につけておくのがいいよね。本当の親御さんが信用して預けてるんだからポイント高いでしょ。」

家出同然に上京して来ているからキョーコの母親に託されているわけではない。しかもキョーコの母親は京都ではなく東京にいる。会おうと思えば会えるのかもしれない。だがドライな人のようだからお付き合いもしていない自分が会いに行くのはいかがなものか。キョーコを産んでくれたことには本気で感謝しているが事情があるにしろキョーコへの接し方は許しがたいものがある。いや、でもそれがあったから今のキョーコができあがったといえなくもないのか。そうでなければキョーコと会うこともなかった?いや、だとしてもやっぱり子どもは愛されて育つべきだ。ん、それでも彼女なりにキョーコのことを愛してはいたのか?う~ん、どう考えればいいんだ?

「つるがく~ん、戻ってきて。つるがく~ん、聞こえてる?」

気がつけば貴島が宇宙人でも見るような目で蓮のことを覗きこんでいた。蓮の焦点があうと、やっと戻ってきてくれたと安堵する。

「もう、敦賀君てば心ここに非ずでまるで京子ちゃんみたいになるんだもの。ビックリするだろう。」

「えっ、そうかなぁ。」

なぜか頬を染める蓮に今度はあきれ顔になる。

「まさか、京子ちゃんとお揃いで嬉しいとか思ってないよね?痛すぎるから。」

貴島は蓮にジロリと睨まれて話を元に戻した。

「で、東京での保護者は誰かいないの?」

「社長か・・・あっ、下宿先のご夫婦かなぁ。」

キョーコは以前に下宿先のご夫婦には返そうと思っても返しきれない恩があると言っていた。旦那さんのことは職業人として尊敬しているようだし、奥さんは彼女のことを娘のように思ってくれているようだし。親代わりだといってもいいかもしれない。

「下宿先ね。何やってる人?」

「確か、飲食店をしているよ。」

「それはそれは。それならメシ食いにいっちゃえばいいじゃん。もともと春の日差しとか言われて猫被るのは得意なんだからお手のものだろう?」

本当に最近の貴島は容赦ない。一体どんな風に思われているのやら。まぁ、蓮にしても今さら貴島相手に本性を隠す気はないのだが。



〈だるまや 押さえられる?〉

「敦賀さんって鯖味噌が本当に好きなんだねぇ。あんなバタくさい顔してるから、てっきりナイフとフォークで食べるようなもんが好きなのかと思ってたけどねぇ。でもなんであんな図体であれっぽちで足りんのかね。あれじゃ、キョーコちゃんが心配していろいろ食べさせようとするわけだわ。せっかくうちの料理を気に入ってくれたんだから、あたしらも協力して食べさせるようにしてやんないとね、ねぇ、アンタ。」

女将の独り言に苦虫を噛み潰した顔を大将は見せたが後ろを向いていた女将は気づかなかったのだった。




☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


本当に本当にお久しぶりです。

生きてます。

どうにか。

でも、仕事に追われています。

次がいつになるかはわかりません。

でもでも、絶対に終わらせる気はあるんです。

時どきのぞきにきてやってくださいませ。

ただ、ひっぱるほどの内容じゃないのが申し訳ないです...




女友達を押さえろと貴島は宣った。

「京子ちゃんの友達って誰かわかる?」

「琴南さんだね。」

「へぇ~、黒髪美人の?話したこと無いけどツンな感じであぁいうのもいいよねぇ。でも、意外な気もするなぁ。へぇ~。」

貴島の感想なんてどうでもいい。先を続けろと目で促すと小さく咳払いをして続けた。

「まぁ、女友達を知っていたことは及第点をあげよう。」

「それぐらいわかるだろう、普通。」

「いやいや、結構知らないもんだよ。趣味とかを通じて知り合ったんならともかく、それぞれの生活範囲が違うと全然だね。で、どの程度の仲良しかまでわかるかい?」

「程度?」

「そう、程度。たまにでかけるだけとか。悩みを打ち明けられるとか。生涯に渡ってつきあいが続きそうかどうか。」

「悩みねぇ。それはわかんないけど、生涯に渡ってっていうのはありえると思うよ。」

蓮はいつかのキョーコの誕生日に駆け込みプレゼントに敗北したことを思いだし苦い顔をした。貴島はその表情をとらえてニヤリとする。

「ダメダメ。生涯に渡ってつきあいが続きそうな女友達は邪険にしたら絶対にダメだから。扱い方によっては味方にも敵にもなる。敵にするとこれほど厄介な相手はいないよ。」

「敵って…。彼女の友人なら味方だろ?」

チッチッチッと人差し指を振りながら、貴島はわかってないなぁという顔をした。

「そう、味方だよ。でも、彼女の味方であって敦賀君の味方じゃない。そこは肝に命じておかないと痛い目をみるよ。例えば、敦賀君が浮気をしたとする。」

『浮気』の一言にそんなことあるわけないと貴島を睨み付けた。

「睨むなよ、例えばの話だろ。」

「例えでもイヤだ。するわけない。」

子どもぽっく拗ねる蓮に貴島は呆れ顔で続ける。全く、温厚紳士って誰のことだ?

「とにかく、何か敦賀君がヘマをしたとする。京子ちゃんが琴南さんに愚痴をこぼす。このとき、敦賀君が良く思われていないと『そんな男なら別れてしまえ』となるわけだ。行動力もありそうだから、いざとなったら別れる段取りまでつけてくれそうだし。京子ちゃんのためにならないと判断したらテコでも動かなそうじゃないか。」

なんで、話したこともないのにそんなことがわかるのか。蓮だってたいして話したことはないけれど貴島の言う通りの気がしてならない。俺から彼女を奪うならいないほうがいいか…なんて黒い考えが浮かぶ。

「今、なんか黒いこと考えたろ?ダメだって言ったろ。仮に敦賀君が全くヘマをしなかったとしても長く一緒にいると不満はでてくるんだよ。女子はねそれを誰かに言うだけでストレス発散になるんだから、口の堅そうな彼女の友達は大事にしなきゃ。いわゆるガス抜きだね。敦賀君と琴南さんが上手くいってれば、『こんなことを不満に思ってるから気をつけなさい』みたいなアドバイスもしてくれるかもしれないし、曲解思考を正してくれるかもしれない。不満の芽は小さいうちに摘んどかないとね。」

「不満があるなら直接俺に言ってくれればいいんだ。」

「直接、言えないこともでてくるんだよ。京子ちゃんって何でも我慢しちゃいそうじゃないか。我慢できるうちはいいけど、キャパ越えたら心が壊れちゃうよ。そうなってもいいの?」

そこまでなる前に言ってほしい。

「俺じゃダメなのか?」

「友達みたいな恋人もいるけどね。でも、男はどんなに頑張っても『女友達』
の代わりにはなれない。」

半信半疑だが、初めてできた彼女の友達を大切にしてあげたいのは本当だ。

「で、どうやって『押さえる』のさ。」

「そうだなぁ。京子ちゃんと琴南さんの時間を奪わないことだね。二人で出掛けたり電話したりしてるのを邪魔しないこと。それから、時々敦賀君も同じ時間を共有すること。」

「一緒に出掛けるってこと?」

「何もそこまでしなくていいんだよ。二人が会っているときに迎えに行ったついでに琴南さんも送ってあげるとか、少しお茶するとか、その程度でいいんだ。下手に馴れ合いすぎると浮気?とか思われるしね。理想は琴南さんの彼氏ごとお近づきになることだね。」

「ふ~ん。」

▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲



<奏江、押さえられる?>

最近、敦賀さんがヘン、だ。

前は私がいても全神経をキョーコにだけ向けていたのに、今は私にまで話を振ってくる。この間なんてつい芝居について話し込んでしまった。役を掴みかねていた私はその言葉で救われた。キョーコに対しては『ヘタレ』の一言だけど、役者としてはやっぱりすごいと思う。何かあったらメールしてなんてメアドまで渡された。いったい、何なの?!まぁ、役にたちそうだからありがたくもらっといたけど。

本当にヘン、だと思うわ。

「それって、そんなに重要?関係ないんじゃ…。」

「なくないよ。だって、敦賀君のアプローチは軒並みなぎ倒されてるんだろ?思い込みの激しい京子ちゃんにどんな『刷り込み』をしたかは作戦をたてるのには重要じゃん。」

自分がヘマばかりしてきた自覚はそれなりにあるが、それを貴島に話さなきゃならない義理も道理もない。ここまでだって随分譲歩してる。黙りこむ蓮に苦笑いで貴島はたたみかけた。

「そんなに話したくないほど?だったら尚更、他人の意見は大切だと思わない?もうどうしようもないほどコジレてるんだからさ。それでも自分でどうにかする、話したくないっていうんならいいけど。ただし、俺も協力しないよ。敦賀君のいないところで京子ちゃんに群がる男どもを牽制してあげようと思ったけどそれも必要ないんだろ。」

貴島は痛いところをついてくる。キョーコが易々とその辺の男に落ちるとは思わないけれど、煩い蝿はいないにこしたことはない。貴島は蓮とともにその手のランキングに必ずあがってくる、そばにいるだけでその場の半分はよってこないだろう。なによりも人間関係をそつなくこなせるのだ、キョーコに不利にならないように巧みに牽制してくれるだろう。それにミイラ取りがミイラになるという心配も、何故だか沸いてこない。そういう意味では信頼しているのだ。

あいかわらず、視線を明後日の方に向けたまま不承不承という体で蓮は話し始めた。



「えっと。お礼でした頬チューは挨拶、泣くと困るから手は出さないと。さらに先輩風をビュンビュン吹かせて男のいるメシにはいかせないし、プレゼントは受け取らせないと。しまいにはラブミー部なのをいいことに純潔まで守らせる。ざっと纏めるとそんなところかな。」

貴島は蓮の話を要約するとたっぷりと間をとって深い深いため息をはいた。

「敦賀君、僕は今、呆れるを通り越して憐れみを感じている。今時の小学生だって、もっと上手くやってるよ。あぁ、どこから攻めればいいのか全く思い浮かばないね。」

「そんな無責任な。ここまで言わせといて、それはないだろ。」

「でもなぁ、こんなにヒドイと思わないだろ。う~ん、この際、押し倒して既成事実作っちゃえば?そんでもって責任とって結婚します!とかさ。」

「それも考えたんだけど、彼女はなんかこう思考が曲解してるから。俺に襲われたのに、不甲斐ない後輩を戒めたんだとか、魔が差しただけなのに責任なんてとらなくていいとかワケわかんないこと言いそうじゃないか。それに初めてがそんなのは悲しすぎる。俺は彼女を泣かせたくないし、彼女の中から抹消されたくもない。」

貴島は『イタイ子』を見るような目で蓮を見つめた。

「本当に考えたんだ…。敦賀君って、実は鬼 畜…。」

「だっ!!だから、本当にしてないだろ。ちょっと上手くいかないからほんのちょっと自棄になって思い浮かべただけだよ。」

「ちょっとって言うわりに随分、具体的だったけど。まっ、いっか。俺、思うんだけどもう敦賀君だけで何とかするのはもう無理じゃないかな。周りの人に協力してもらって外堀から埋めるのはどう?」