魔人様に勝手に捧げます

(人魚フェア勝手に参加中)


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蓮はいつものように陸にあがっていきました。


辺りを伺い、周囲に人間がいないことを確認すると濡れたズボンを脱ぎ隠しておいた乾いた服を着ます。水中と違って陸では上半身にも服を着ます。人間の男は時として上半身をさらすのに、普段は服を着ていないとはしたないと言われるのです。陸で目立つ行動は控えなければなりません。蓮は人間界の掟に従うまでです。


とはいえ、蓮はこの近辺の人間の間ではちょっとした有名人でした。時折ふらりとあらわれる蓮の素性は誰も知りませんでしたが身なりもきちんとしていて金払いが良かったので、どこかの貴族の落としだねではないかと囁かれていました。しかし、蓮を有名にしていた一番の理由はその輝くばかりの美貌でした。漆黒の髪に瞳、整った顔立ち、類まれな体格...。女たちも誘いをかけるのですが、一向に振り向かない蓮に歯噛みしたものです。


蓮は女たちが褒めるこの黒髪と黒い瞳は大嫌いでした。それこそ、蓮ができそこないの印だからです。人魚の世界では黒い色素はまれでした。いえ、それだけではなく「足」があることがまれでした。人間たちはあまり知りませんが実は人間と人魚の間に生まれた子どもは割といるのです。子どもは尾ひれを持った人魚か足を持った人間かのどちらかで生まれてきます。人魚の女が産んだ子どもが人魚なら海で育てられ、人間ならどこかの浜辺にそっと置いておきます。人間として生まれてしまうと水中で呼吸ができないからです。人間の女が産んだ子どもが人間の場合はそのまま陸で暮らしますが人魚だった場合は反対に海にそっと返します。すると、人魚の誰かが必ず見つけて連れ帰るのです。そんなわけで人魚と人間の間に子どもができた場合はどちらが生まれてもいいように海と陸の境で出産をするのです。


人魚の世界では人間のように結婚というものはありません。短い恋を繰り返すのです。子どもは一族で大事に育てます。父が誰かは問題にはなりません。場合によっては母が誰かも問題にはなりません。海辺で拾われた人魚は連れ帰った者が一族で大切に育てるからです。女系家族で男は大人になると一族を出て一人で暮らします。人間よりも大人になるのは早く、一度大人になると年をとってもあまり老け込みませんし人間より長命です。そのあたりが人魚を食らうと不老不死が手に入ると噂のもとになったのかもしれませんが、それは単なる噂であって本当のところは不老不死になどなりません。


蓮の母は人魚でした。人間の男と恋に落ち蓮を生みました。


人魚の世界では恋は自由でしたが、人間との恋はさすがに褒められたものではありません。噂を信じて人魚を食らおうとする者がいるからです。とはいえ、人魚と人間の間の子が少なからずいるのですからやっぱり人魚は恋に生きる種族なのでしょう。


蓮が生まれた時、蓮の母はどうしてよいのか悩みました。一つは黒い髪に瞳であったことです。これが人間として生まれたのであれば問題はありません。蓮の父は黒髪だったからです。そして一番問題だったのは蓮は足があったにも関わらず、生まれ落ちたその瞬間に人魚のように水中で泳げたのです。よくみると首には人魚特有のエラがありました。人間ならば慣例通りこの浜辺に置いていくのですが、果たして自分の産んだ子は人魚なのか人間なのか...。母は困り果てて、一度子どもを連れて海に戻ることにしました。魔女の判断を仰ごうと思ったのです。


蓮を見た魔女もさすがに迷いました。姿かたちは人間です。首にエラはありますが、陸上で使わなければいずれ目立たなくなり痣くらいですむでしょう。問題は成長速度と寿命です。人間と同じならば問題はありませんが人魚と同じだとしたら問題です。人間は異質なものを嫌うからです。魔女であっても蓮がどうなるかは全くわかりません。迷った末に魔女は海で暮らさせることにしました。姿かたちがどうであれ、エラがあり水中で生活ができるのですから、万が一短命でもそれはそれで仕方がありません。そして、蓮は魔女の家で生活することになったのです。もともと蓮は男で大人になれば家を出ることになっています。それが少し早くなっただけです。


大人になった今では一緒に住んでこそいませんが魔女の使いとして魔女に必要なものを陸に上がって調達しています。お金は腐るほどありました。難破船からいくらでもみつかったからです。

そんなわけで蓮は今日も陸にあがってきたのです。




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コミックスの扉絵は私もすごくお気に入りです。

しばらく眺めていましたよ。


このお話はどこに落ちるかは不明です。

まったくの見切り発車...。

そのため、タイトルもいい加減。

人魚が産むのは卵だろうとか言わないでぇぇ。


こんなんでもあげちゃおうと思っている私を許してください (;´Д`)ノ




蓮がアメリカから戻ると特に用もないのにちょくちょく社が顔を出すようになった。


「チーフ、私何かしてしまったでしょうか?」


小夜子の言っている意味がわからず、社は首を傾げる。


「いえ、こんなにチーフがいらっしゃるのは何故なのかと思いまして。私が何か失敗したのなら教えていただきたいのですが。」


「あっ、あぁ、そんなことはないよ。よくやってる。スタッフさんたちにも評判いいよ。」


それならば、なぜこんなに頻繁にくるのだろう。小夜子が担当し始めた頃だってこんなに頻繁に顔を出したことはない。小夜子が怪訝な顔をしたので社は慌てて説明を始めたが、やはり小夜子が納得できるものではなかった。そんなやりとりがあった後からは社は以前のように小夜子の休みの日や、本当に用事のある時にしか蓮の現場には来なくなった。その分、警備員が増えてはいたが目立たなくしていたので気づく者はいなかった。



その日は、しばらく続いた雨もあがり穏やかな過ごしやすい日だった。小高い丘にある公園で撮影をしていた。


昼休憩のためにロケバスに戻る時だった。小夜子と蓮が狭く急な階段を降りているとぬかるんでいた土が突然崩れた。バランスを失って小夜子が倒れそうになったが、すんでのところで蓮が抱え込んで助けた。遠まきに見ていたファンからは黄色い声があがる。小夜子は一旦蓮から身体を離し、一歩前に出したが支えを失って膝が崩れた。蓮はもう一度小夜子の腰を支え耳元で囁くとニッコリと笑って小夜子を立て抱きで抱えあげた。続けて先程より大きな悲鳴がファンの間からあがる。

蓮はそんなことおかまいなしに小夜子を抱えた。小夜子も落ちないように必死に蓮に捕まっていた。蓮が常と違い、自分より高い位置にある小夜子の顔を見上げて極上の笑顔で何かを言った。すると小夜子もマネージャー顔ではなく、素の顔でとびきりの笑顔を返した。そしてさらなるファンの悲鳴…。

慌てて小夜子はマネージャーの顔に戻す。蓮は階段を降りきると一度、小夜子を地面にそっと降ろした。それでも支えることはやめなかった。小夜子が慎重に足首に体重をかけたが、やはり膝がくずおれる。その様子を確認すると蓮は今度はお姫様抱っこをしてロケバスに向った。途中、ファンの前でとびきりの笑顔でマネージャーの負傷を伝える。その笑顔に先ほどまでのファンの悲鳴は『蓮、やさし~』に変わった。


たった一人を除いて…。









久遠は何となく気配を感じて目を覚ました。

するとジッと己を見ていたらしいキョーコと目があった。


「おはよう。キョーコ、どうかした?」

「おはよう...何でもない。」

「何でもなくなさそうだけど?」

「触っていい?」

「どうぞ、お好きに。」


キョーコは久遠の頬にそっと触れる。最初はそっとだった手に徐々に力がはいる。ムニムニと擦られ伸ばされ引っ張られ...。いくら久遠でも変顔になる。


「キョーコ、痛いよ?」

本当は痛みなどないがキョーコの意図がわからずに久遠は少し拗ねたように言う。

「そう?」

キョーコも痛みがないということは百も承知だ。久遠の抗議などどこ吹く風で頬や顎をいじっている。

「キョーコ?」

キョーコは手をとめずにふふと笑いながら答える。

「あのね、王子様みたいだって。」

「王子様?」

「うん、久遠の映画見ながら、あの娘(こ)がそう言ってたの。」

キョーコのいうあの娘とは今年4歳になる愛娘のことだろう。

「本当にそうね。」

なおも引っ張ったりしながらキョーコは顔を近づける。

「綺麗な瞳...。」

敦賀蓮として撮影中のため黒髪だがコンタクトは外しているので裸眼だ。翡翠色の瞳に映る自分を見ながらキョーコは頬を強くひっぱった。さすがにこれは少々痛みがあり久遠が声をあげる。

「本当に痛いよ?」

先ほどから王子様のようだという割にはその扱いがぞんざいでキョーコが怒っているのかと思えてしまう。

「なんで怒ってるの?」

「怒ってないもん。」

「じゃあなに?」

「だって、いつも私たちがあの娘のことお姫様って言ってたからあの娘ったら大きくなったら王子様のダディと結婚するんだよねっていうのよ。」


キョーコがいうのもおかしいが本当にお姫様のようなのだ。黒髪で白い肌、小柄(ヒズリ家の中では小柄になる)なのはキョーコゆずりだが瞳は久遠に似た翡翠色、顔のパーツは...祖母のジュリエナに似ている。家族の中で自分だけがいたって平凡なのだ。

なんとなくキョーコの意図がわかり久遠はニヤリと笑う。


「娘にヤキモチ?ダディと結婚するなんて言ってもらえて父親冥利につきるけど?」


キョーコだってわかっている。幼い娘はその時々で結婚相手がコロコロと変わる。ダディやジージだったり、運転手だったり。さすがに幼稚園の男の子の名前が出た時は久遠とクーで全力で反対していたが...。


「だって、ダディのことがスキとかじゃなくて王子様とお姫様だから結婚するんですって...。」


再び、頬をビロンと伸ばされて久遠が話そうとしてもモガモガと聞こえるだけで何を言っているかわからない。


「この顔を見たら百年の恋も冷めるかしら?」


ようやくキョーコが手を離すといたずらっ子の顔で久遠が問いかける。


「冷めちゃった?」

「どうかしら?もともと王子様じゃないし...。」

「あれ、さっきと言ってることが違うよ。」

「子どもっぽく拗ねるし、嫉妬深いし...。」

「し?他は?」

キョーコは再び久遠の顎に手をやる。

「ヒゲ生えてるし?」

「何それ?」

久遠はわざとらしくグリグリと頬を寄せる。

「ん?生身の人間だなぁって。」

「よかった。天上人とか言われなくて。」


久遠はニコリと笑うとキョーコに覆いかぶさる。


「キョーコを愛するただの男だよ。俺だけのお姫様...。」


くだらない嫉妬だと思う。今では久遠にもクーやジュリエナにも友人たちからも愛されているとわかっている。『地味だ』というコンプレックスももうない。この上、娘にヤキモチなんてと思うがなんとなくモヤモヤするものがあるのは、ある意味、人間らしいのか...。


「機嫌直して...。ね、愛してる...。」


久遠の手は起き抜けだというのに、不埒に動き始める。


「ダディ!マミィ!おはよう!!」


さすがに娘の乱入に久遠は手をとめてとびきりの笑顔で挨拶を返した。

愛妻の耳元で「続きはあとでね」と囁いた。



゚・*:.。..。.:*・゚゚・*:.。..。.:*・゚


一時間クオリティのため伝わらないところは、各自妄想で補ってください (^▽^;)

ヤッシーはスキだけど、やっぱり蓮(久遠)×キョ

というわけで、蓮が帰国してキョーコ充電中のお話。

娘の名前が思いつかず、『あの娘』表現でちょっと不自然なのは許してくださいませ。

甘いのか甘くないのか...だから?という感じもアリアリですが、せっかくなのであげてみます。