蓮がアメリカから戻ると特に用もないのにちょくちょく社が顔を出すようになった。
「チーフ、私何かしてしまったでしょうか?」
小夜子の言っている意味がわからず、社は首を傾げる。
「いえ、こんなにチーフがいらっしゃるのは何故なのかと思いまして。私が何か失敗したのなら教えていただきたいのですが。」
「あっ、あぁ、そんなことはないよ。よくやってる。スタッフさんたちにも評判いいよ。」
それならば、なぜこんなに頻繁にくるのだろう。小夜子が担当し始めた頃だってこんなに頻繁に顔を出したことはない。小夜子が怪訝な顔をしたので社は慌てて説明を始めたが、やはり小夜子が納得できるものではなかった。そんなやりとりがあった後からは社は以前のように小夜子の休みの日や、本当に用事のある時にしか蓮の現場には来なくなった。その分、警備員が増えてはいたが目立たなくしていたので気づく者はいなかった。
その日は、しばらく続いた雨もあがり穏やかな過ごしやすい日だった。小高い丘にある公園で撮影をしていた。
昼休憩のためにロケバスに戻る時だった。小夜子と蓮が狭く急な階段を降りているとぬかるんでいた土が突然崩れた。バランスを失って小夜子が倒れそうになったが、すんでのところで蓮が抱え込んで助けた。遠まきに見ていたファンからは黄色い声があがる。小夜子は一旦蓮から身体を離し、一歩前に出したが支えを失って膝が崩れた。蓮はもう一度小夜子の腰を支え耳元で囁くとニッコリと笑って小夜子を立て抱きで抱えあげた。続けて先程より大きな悲鳴がファンの間からあがる。
蓮はそんなことおかまいなしに小夜子を抱えた。小夜子も落ちないように必死に蓮に捕まっていた。蓮が常と違い、自分より高い位置にある小夜子の顔を見上げて極上の笑顔で何かを言った。すると小夜子もマネージャー顔ではなく、素の顔でとびきりの笑顔を返した。そしてさらなるファンの悲鳴…。
慌てて小夜子はマネージャーの顔に戻す。蓮は階段を降りきると一度、小夜子を地面にそっと降ろした。それでも支えることはやめなかった。小夜子が慎重に足首に体重をかけたが、やはり膝がくずおれる。その様子を確認すると蓮は今度はお姫様抱っこをしてロケバスに向った。途中、ファンの前でとびきりの笑顔でマネージャーの負傷を伝える。その笑顔に先ほどまでのファンの悲鳴は『蓮、やさし~』に変わった。
たった一人を除いて…。