社は小夜子よりも先に目を覚ました。


自分にピッタリと身をよせて眠る小夜子の項をなでながら時折、柔らかい髪を指にからませる。項にひとつ、鎖骨の上にひとつ、目に触れないところには無数にあるうっ血の痕をみて苦笑いがもれる。髪をくるくると指に巻いたときに引っ張ってしまったのか小夜子がゆっくりと目を開けた。


「くすぐったいわ。」

「ごめん、起こした?」

「今、何時?」


時計に目をやるともうすぐ6時というところだった。


「いいの、もう起きるから。」


体を起こした小夜子の腕を引き、社は小夜子をベッドに戻した。


「なに?」


一度、家に帰るならもう起きなければならない。小夜子は怪訝な顔で社を見た。


「なぁ、ちゃんとつきあわないか、俺たち。」


小夜子は社の言葉に瞳を輝かせたが、すぐにすました顔に戻した。


「私のこと、スキになっちゃった?」


女王然として生意気な口をきく小夜子がかわいくて仕方ない。しかも、それが様になるところが憎らしい。負けるが勝ちというではないか。ここは大人の余裕を見せなくては...。


「そうだね、スキだよ。でも、この口は生意気だね...。」


社はゆっくりと唇を重ねた。じっくりと説得するように。いつしか熱がこもり小夜子に火をつけたところで社は唐突にやめた。


「どう、わかってくれた?それで返事は?」


小夜子はトロンとした目で社を見上げる。


「ん?」

「いいわ。」


YESの返事を得た社は小夜子を支え起こす。


「じゃ、そういうことで。仕事の時間だ、起きて。」


すっかり今のキスの続きだと思っていた小夜子は拍子抜けだ。ポカンとする小夜子に社は余裕の笑みを見せる。


「仕事、遅れたくないだろ?」


もう一度、時計を見ると確かにもうタイムリミットだ。スキだと社に言わせたのに、自分の方が余計にスキだと知られたみたいでなんだか悔しい。ふくれっ面で渋々起き上がる。社はもう一度、小夜子を引き寄せると「続きはあとで」と囁いて離した。


「先に風呂使って。小夜子の方が先にでないといけないだろう。」


小夜子は頬を真っ赤にしながら社をひと睨みするとバスルームへ消えた。社はため息をついた。本当は余裕なんてカケラもない。シーツの下がその証拠だ。


寝返りを打とうとして、何かに腕を掴まれ阻まれた。もう一度試みたもののやはり動けない。確かめるために目を開けると小夜子が自分を見下ろしていた。


「さよこ?」


小夜子はなにもこたえず、ただわらっている。社は起き上がろうとして初めて自分の状態を知った。手首が縛られていてヘッドボードに括り付けられている。どうりで寝返りが打てなかったはずだ。気づいてみれば、腕をあげているせいで痺れてもいる。


「小夜子、これはなんの真似?」

「さっきはユキヒトが好きにしたから、今度は私の番。でも私の力じゃかなわないからちょっとだけ拘束させてもらったの。」


悪びれもせずわらう顔が妖艶でそそられるなんて、そんな趣味が自分にあっただろうか。とりあえず、縛られた手首を引っ張ってみるが外れそうもない。


「だめよ。外れないから。」

「ガールスカウトでもやってたのか?見事だな。」

「ふふ。まぁ、その手のことは一通りね。意外とアウトドアなのよ。」

「で、どうしたいの?」

「だから、私の好きにするの。」


小夜子は社の横に寝転がると、社の身体を探索し始めた。少しでも反応するとその場所をしつこいくらい攻めたてる。最初は抵抗していたが、徐々にそれは難しくなっていった。目の前に小夜子がいるのに触れない。小夜子は社のシャツと下着をはいているだけの格好で触れないだけに目の毒にしかならない。なまじ、その肌の味を知っているだけに触れられないことがもどかしい。しかも、あと少しというところで小夜子はやめるのだ。できることなら小夜子の中に入りたい。それがためなら、今はその暖かい手でもいい。それなのに最後が見えかけたところでやめるのだ。何度めかの後に社はたまらず懇願した。


「もっ、もう、勘弁して。」

「だめ。私がスキにするの。」

「これ以上されたら、おかしくなる。小夜子に触れたい。中に入りたい。」


社は決して女っぽくない。体格だって細身だが肩幅はしっかりとあるし、締まった腰は男としての色気がある。眼鏡男子で通っているが、外した様も整っていてハンサムだ。なのに、今の社の色気はそこらの女より数倍ましの女性的な色気だ。拘束されているからなのか、懇願させられているからなのか…。社の懇願は至極、男性的なのだが。


「だからだめ。第一、ユキヒトが全部使っちゃったから箱の中身がないのよ。」


そう言われればそうだ。あんな理性をすっ飛ばした状態でそこだけはどうにか死守した。自分で自分を褒めてあげていくらいだ。だからといってこの状態が辛いのは変わらない。


「なら、せめて、これ、外して、小夜子に触れたい…。」

「どうしようかしら?」


小夜子は小首を傾げて思案顔をして見せたが、外す気がないのは明らかだ。


「キス…キスして」


あまりの切なげな声に小夜子が折れた。社を跨ぐように四つ這いになるとそっとキスをした。すぐに顔をあげ『これで我慢しなさい』といいたげに見下ろす。そんなキスで今の社に満足できるわけがない。


「もっと…。」


社は片肘をつき、どうにか身を起こそうとした。「仕方ないわね」と小夜子はもう一度キスをした。今度はさっきよりも長く深く。ほんの少しの油断、深く侵入した舌に警戒が薄れた隙を逃さず社は身体を反転させた。手首は拘束されたままだが小夜子の上にいる。小夜子の顔の横に肘をつき息をつかせる間もなく唇を貪る。唇が小夜子の身体をなぞりたくて下へ向かおうとしたところで手首の拘束に阻まれた。


「くそっ!」


社の舌打ちに小夜子はニンマリする。その顔は社を煽るのに十分だった。膝で膝をわり脚の間に身体を滑りこませ、キスをしながら膝で少しずつ小夜子を押し上げていく。いつしか、小夜子はヘッドボードに寄りかかるように座らせられていた。そこまでいけば社の唇は胸に届く。待ち焦がれた肌はいつもより余計に甘い。ふと自分がつけた鬱血痕が目についた。「ごめん」とつぶやいてそれぞれの痕に優しいキスをする。痕は消えないけれど優しいキスは小夜子の嗜虐心を消していく。小夜子が社の背中に腕を回した。社はその温もりに安堵して甘くねだる。


「ちゃんと触れたい。ねっ?ほどいて。」

「でも…もうないし。」


行きつく先がわかっている小夜子はためらってしまう。


「大丈夫だから、わかってるから。」


優しいキスに説得されて小夜子は拘束をといた。その後、二人はゆっくりと手と口でお互いを愛した。









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削除されたらどうしましょう?

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「小夜子…?」


自分でもどうするのかわからないまま、社は寝室のドアを開けた。小夜子はベッドにもたれるように床に座っている。背を向けているので表情はまったく見えない。もう一度名前を呼ぶと顔をあげたものの社のほうを向くことなく話しだした。


「いいの!気にしないで。ただ、いつか…。そう!いつかその時のために練習しとこうかと思って。それだけだから!」

「いつか?その時って?」

「そのうち、本当の彼氏ができた時のために。」


小夜子の言葉に社はカッとなった。スッと目を細めて低音でささやきながら横に座る。それでも小夜子は社のほうをむこうとはしない。

「本当の彼氏ねぇ…。」

本当の彼氏でないことは社自身が一番わかっている。社の立場が悪くならないように適当な期間付き合っているフリをしているだけだ。体の関係があるから付き合っていると言ってもいいのかもしれないが、いつか終わることが予め決まっている。始まりが同情だから仕方ない。


「小夜子は偽物の彼氏にこんなことさせるんだ…。」

社は背中から小夜子に覆い被さると噛み付くように項にキスをした。突然の乱暴なキスに驚いて社から離れようと身を捩るがベッドに抑えつけられ身動きがとれない。

「これも本当の彼氏のための練習?だったら、俺の持てる限りを教えてあげる。」


小夜子の両手首をベッドに抑えつける。華奢な手首は社の片手でも簡単に拘束されてしまう。あいている手で胸を探られる。こんな乱暴に触れられたことは今までに一度もない。いつだって優しく宝物のように扱われてきたのだ。


「やっ!やめ…。」


抗おうとすると抑えこまれる。声を出せば唇で塞がれる。小夜子の弱い所をこれでもかと攻められる。抗議の声はいつしか嬌声にかわった。すぐ横にあるベッドにあがることもせずそのまま、思うままに貪った。二度目からはベッドにあがったが、味わうとか思いやるとかいったことはできなかった。何度目かのあとにサイドテーブルの箱を探り、中身がないことにきづいて始めて理性が戻った。俺は何をした?自分の下で息も絶え絶えの小夜子を見下ろす。目は硬く閉じ、浅く早い呼吸をしている。強制的に何度もイカされてどこまで記憶が残っているのか…。快感も過ぎれば苦痛になる。過ぎるほどの快感を自分が誰かに与えられるとは思っていなかったけれど、小夜子とならそれもあるかもしれない。奇跡といってもいいぐらいの相性の良さなのだ。


「さよこ?」

社の呼びかけに小夜子はそうっと目を開いた。徐々に焦点があってくると、それは社を睨みつけるものにかわった。

「どいて。」

「…」

「ど い て」


挑発するような物言いに社は小夜子から下りると、部屋から出た。キッチンから水をとり寝室へ戻るとそこかしこにある生々しい痕跡が目についた。脱ぎちらかした服、充満する独特の匂い…何よりベッドに横たわる小夜子には鬱血した跡が無数にある。水を差し出すと首をあげたものの受け取る力もないようで手はださない。それでも睨みつけることだけはやめなかった。社は小夜子を支え起こすと水を飲ませてやった。よほど喉が渇いていたのかゴクゴクと飲んだが、飲み終えても動く気力はないらしい。小夜子を横たわらせたままシーツをかえ体を拭いてやる。散らかったものの後始末をするとシャワーを浴びにいった。


寝室に戻ると先ほどまでの生々しさは薄らいでいた。穏やかに眠る小夜子を見下ろしていると自分がしたことの意味を考える。小夜子の言葉にカッとなったのだ。それはわかるが、なぜカッとなったのかがわからない。


いや、本当はわかっている。『本当の彼氏』ではないと言われて頭にきたのだ。見たくない現実を言われたから頭にきたのだ。真実とはこんなにも苦いものなのか。もう、二度とこんなヒドイことをしないためにも認めてしまおう。小夜子との時間がいかに心地よく手放したくないと思っているかを。いつか現れるまだ見ぬ『本当の彼氏』に嫉妬したかを。だが、それを認めたところでこの先はないだろう。いつかではなく、きっとこのあと小夜子が目を覚ましたらこの関係は終わる。こんなヒドイ扱いを受けてそのままにするような小夜子ではない。あと少しだけで終わってしまうならばその貴重な時間を堪能したい。社はベッドに横たわると小夜子をそっと抱きよせた。大切なものが消えてなくならないように。