それにしても
あらためて基本の基本ですが
五輪開会式の演出というのは
本当に難しいと思います。
そりゃ例の『オリンピッグ』に
比べたら何をやっても許される、
という達観が2021年以降
多くの日本人の心の中に
確立されましたけれども。
たとえば今回登場した
ラッパーのRim'sKさんとか、
彼が全力で表現しようとしたのは
『クールでカッコイイ俺』
だと思うんですが、それは
パフォーマーとして絶対に
間違っていないと思うんですが、
声もいいし見た目もいいし
たぶん歌詞の
フランス語がわかれば
その世界に私も
入れたと思うんですけど
・・・関係者は何故あそこで
字幕を用意しなかったのか。
『フランスの歴史を
作った女性10人』の像の
紹介の際は多言語で
説明を入れたじゃないですか!
節回し、メロディって
大事なんだなって・・・
勿論そういうものなしで
気後れすることなく最大限に
己のクールさを表現した
ラッパーも見事だとは
思うんですけど、
私の心の中に住む
皮肉屋のパリっ子が
「これは外しましたね」って
遠い目をしてしまって・・・
ともあれ!
ここから今回の開会式で
ある意味一番力の入っていた
『橋の上での
ファッションショー』。
始まった当初はその
メッセージ性の強さに思わず
眉を顰めるというか
「こういうの、最近
食傷気味なんですよ」な
気持ちになりかけたところ、
この企画の担当者はそこらへん
計算ずくだなと思ったのは
最初に結構な
プラスサイズの女性が登場し
「ああ、昨今流行の
『太っていることは恥じゃない』
精神ね、それはいい、でも
健康に支障が出るほど
太ってしまった人を
『それでよし』というのが
許されるなら不健康なほどに
痩せた人のことも
許容せんと駄目でしょ」と
こちらが思ったところに
昨今滅多にキャットウォークでは
お目にかからない程
細身のモデルをカメラ前に登場させ
・・・私は思わず姿勢を正しました。
あ、演出家は勝負する気だ、と。
で、ここでいったん
選手団にカメラが戻り
オランダ選手団のチームカラーが
オレンジじゃないことに驚いたり
トンガ選手団の旗手が
変わったことにがっかりしたりして
さてまたパフォーマンス、
今度は『ユーロ万歳』の時間です!
このダンス!
これ、よかったですね!
途中で青塗りの
デュオニソス(?)が
登場した時は関係者の
正気を疑いましたが
(あれ、何だったんでしょう、
私が幻覚を
見たんじゃないですよね?)、
そこからまたダンスに戻り、
この振り付けがなんというか
もう「現代の日本の夏に
こんな踊り方を屋外で絶対に
してはいけません!」みたいな
心肺機能と持久力の限界に挑戦!
といった趣の激しさで、
隣で観ていたわが夫(英国人)は
「この人たちの関節は
どうなっているんですか?」
「これ、怪我をしないんですか?」
「関節が無事だとしても
こんな踊り方で隣の人に
万一ぶつかったら大怪我
必至じゃありませんか!」
圧巻。
たぶん日本にもこれくらい
レベルの高い踊りを踊れる
ダンサーはいる、
観客の心拍数さえ上げる
怒涛の振り付けをつけられる
振付師もいる、でもきっと
日本の『五輪開会式』で
これだけ冒険的な尖った
パフォーマンスはたぶん
生み出せない気がする・・・
「ダメダメ、観客がひいちゃうよ、
もっとわかりやすく、そう、
皆が手をつないで輪になって
ニコニコするような感じで!」
私はフランスの開会式
関係者上層部の
懐の深さに感心しましたね。
さて、で、ここで『イマジン』。
これは今大会から
そういう『縛り』らしいですよ。
五輪関係者のセンスって謎。
どうでもいいけど
ピアノを燃やすな。
そしてここから
展開は一気に冗長に。
まずは『女性騎手』が
セーヌ川を疾走、しかし
時間がかかる、かかりすぎる、
ともあれそこから五輪旗掲揚。
旗が上下
さかさまだったのはご愛敬。
そして
『偉い人たちのスピーチ』。
世界中で多くの人がここで
トイレに立ったり
お茶を入れ直したり
したことでしょう。
で、聖火が登場するんですが・・・
せっかくの聖火を
どうしてここ
(トロカデロ広場)から
ルーブル美術館
(直線距離で2キロ
ちょっとはある)まで
移動させないといけないのか。
聖火を一度五輪旗の前に
持って行くべき、みたいな
規則があったんでしたっけ?
それこそあの
『覆面の怪人』に
瞬間移動とか
させればよかったのに!
ともかくそれで
トロカデロ広場から聖火は
舟でルーブル方面に
運ばれるわけですが
ここが本当にダラダラ
ダラダラダッラダラ
時間がかかってですね。
あのボートに乗っていた
セレブ4人(ナダル、
カール・ルイス、コマネチ、
セレーナ・ウィリアムズ)の
視聴者間好感度は間違いなく
下がったと思います。
あの4人のせいでは
まったくないんですが!
そもそも開会式は
『全体で3時間』って
話だったのに
この時点でもう結構
『おして』いましたからね?
私は全世界の中継テレビ局
チャンネル統括責任者の
悲鳴が聞こえましたよ・・・
で、ボートが着岸して、
走者が聖火をつないで、
その間トロカデロ広場では
ダンサーが踊りを披露し
その背後でエッフェル塔が
レーザー光線を夜空に
放射していたんですが
・・・正直、あそこは
尺が長すぎたし
ダンスもその・・・
全体のセンスがあまり
よろしくないと感じました。
2020東京五輪開会式的
「夜空にレーザー光線を走らせて
ダンサーに躍らせとけば
『ここが盛り上がるところ』って
馬鹿にも理解しやすいだろ」みたいな
観客に対する侮りを感じる・・・
私の心のパリジャンは
世界に謝罪をしていましたよ。
しかしそれら
すべてを吹き飛ばしたのは
聖火台のあの斬新なデザイン。
パリの天気は悪いという話なのに
あんなの2週間大丈夫なのか。
でもこれはきれいだ・・・
冒険的なデザインだ・・・
本当に変なところで
この開会式は尖っているな・・・
と、そこに流れて来た
『愛の賛歌』イントロ。
あーあ、開会式関係者ったら
やっちゃった、最後の最後で
『わりやすいフランス』感を
出しすぎちゃった、
ハイこれ失敗、センスが東京並み、
よーしパリ市民と東京都民は
今後はお互いの感性を
仲良く相哀れみながら
生きて行こうな、と
勝手に親近感を抱いていたら
・・・なんなんだ
セリーヌ・ディオン!
あんな歌を披露されたら
ひれ伏すしかないじゃないか!
まさに怒涛の終幕。
五輪開会式愛好家として
感想を述べさせていただきますと
「安易な発想・尖り過ぎた演目に
走り過ぎた面もあるにはあったが
それぞれの道で『鍛え抜かれた
芸術家』がその妙技を
披露することで
無理矢理に観客を
ねじ伏せにかかった」式典で
あったかと思われます。
いやしかし尖っていましたね。
一部から批判が出て
組織委員会が
謝罪をしたという話ですが
私はこういう反応は
関係者は織り込み済み
だったと思います。
織り込んだうえでの
あえての挑戦・挑発、
これが現代美術展覧会で
発表されたならまだしも
・・・五輪開会式での披露。
パリの度胸を
観させてもらった心境です。
一部地域・国ではばっちり
放送禁止コードに
引っ掛かる場面が
多々あったかと思うんですが
・・・まあそこらへんの
地域・国のテレビ局は
レディ・ガガの脚が
画面に登場した時点で
中継を切り替えたかな、と
演出家は明らかに一部の人に
不快感を抱かせることを
恐れていなかったと思います
「どこが不快だった?
それは何故?逆にじゃあ何故
他の場面は受け入れられたの?」と
視聴者に己の内面を探らせる
ある種のモダン・アート精神
「すべての人に賞賛される
表現は芸術ではない」という
攻撃的とも言えるほどの
「嫌なら見るな」の姿勢
パリはこれをやるのか、
振り返ればロンドンは
そこらへんの匙加減が
本当に上手だったんだな、と・・・
「女王陛下をヘリコプターから
パラシュート降下させるなんて
不敬の極み!」とそしりたくとも
陛下自らがノリノリで撮影に
ご協力なさっている時点で
バリバリの王室派さえも
アレを受け入れなくてはならない、
英国人って本当に妙なところが
お上手だから怖いですよね
五輪開会式という舞台で
エンタテイメントはどこまで
『攻める』ことを許されるのか、
関係者の勇気を感じる
セレモニーでございました
パリの戦闘精神に
魅了されたアナタも
いや、あれは到底
受け入れられませんよ、と
首を横に振るあなたも
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