さて『ゴジラ -1.0』を

スコットランドで観た時

映画館には私と

夫(英国人)のほか

もう一組しかお客が

入っていませんでした。

 

まあそれは前宣伝が

弱かったから

仕方ないとは思うんですが。

 

で、このもう一組のお客は

我々の斜め前の席に

陣取っていたんですけど、

このうちの一人が

何を考えているのか

話がちょっと真面目というか

社会派的主張みたいなものを

含むと捉えられる個所になると

「イヒッ、ヒヒヒッ」て

変な笑い声をあげるんですよ。

 

冒頭でいうと主人公が

射撃をためらうところとか

そのあとその行動を

なじられるところとか

・・・私は怪獣映画の物語に

それほど重きは

置かないほうですけど

それはあくまで

個人の受け止め方の話で

テレビで一人で

映画を観ているならともかく

映画館で他のお客もいるところで

観る人によっては真剣な

感動のシーンである場面に

茶化すような笑い声を入れるのは

ちょっとマナー違反と違うか。

 

ゴジラの雄姿に免じて

今回は黙っておいてやったが

もう少し血気盛んな

学生時代の私だったら

間違いなく

「耳障りだ、静かにせい」

とか言いに行っていたぞ

・・・いや、やっぱり

ゴジラに免じて許しちゃうかな、

だってゴジラの前で

あんまり自分の粗暴な面は

見せたくないし・・・

 

(セッシュー・ハヤカワの

映画を観に行く際に

盛装をしていた

当時の女性ファンなら

この気持ちをわかってくれる)

 

連中はエンディングの途中で

席を立ったんですが、帰り道

「あの笑い声は何だよまったく」

と夫に愚痴をこぼすと

「僕も気にはなったんですけど、

でも見ましたか、あの男の人、

年恰好からして・・・もし過去に

軍にいたならアフガニスタンに

送られていたと思うんです」

 

「・・・ああ!」

 

「あれって映画を

馬鹿にしていたんではなく

もしかすると『nervous laugh

(緊張・不安の笑い)』だったんじゃ

ないでしょうか。この映画、

戦争PTSDを抱えている人には

ちょっときつい作りでしょう」

 

「なるほど・・・あの場面も

この場面も、ああいう体験を

実際にした人からすると

思わず奇声の一つもあげたくなる

筋立てだったかもしれないな」

 

戦争を実体験していない私でさえ

ゴジラが銀座のビルの隙間から

ぬっと顔を出す場面では

「これ、今のガザの人とか

ウクライナの人とかには

すすめてはアカン映画だ」と

思いましたからね。

 

ただ戦後すぐの日本人は

初代ゴジラを

熱狂的に受け入れたからなあ・・・

 

あれは己の恐怖感情に

折り合いをつけるために

映画を愛した感じなのだろうか・・・

 

ゴジラを何の

メタファーとするかは

観る人それぞれの

自由なんですが、

私の場合は『個人では

抗いようのない

圧倒的に理不尽な暴力』です。

 

だから私はゴジラには

恐ろしくあって欲しいし

「このゴジラはその点

怖いから大正解だったよな」

 

「お言葉ですけど

怖くないゴジラって

存在するんですか?」

 

「過去にはシェ―をするゴジラとか

子煩悩になったゴジラとか

存在したんだよ。この間の

『ゴジラvsコング』のゴジラも

怖さの演出は控えめだったし」

 

 

 

 

「・・・このゴジラは

とても怖かったですよ」

 

「よかったよなあ!私が

子供だったら何度か画面から

目をそらす恐ろしさだった」

 

「・・・たしか君のところの

甥っ子3号がこの冬ゴジラ映画を

観たって言っていましたけど

それがこれですよね?

あの子、いくつですか?」

 

「10歳とかそこらへんかな」

 

「・・・10歳の子供に

このゴジラを観せる、

それは完全に虐待でしょう、

周囲の大人はいったい

何を考えているんです」

 

「いやこれ日本では

全年齢向け映画だし」

 

「・・・僕はね!日本の

映画関係者は子供のことを

守る意識が低いと思いますよ!

この『ゴジラ』は

全年齢にしちゃ駄目でしょう!」

 

私はそこらへん

日英の文化の違いくらいに

考えているのですが、

このあと割と延々とわが夫に

日本の誇る名作映画

『千と千尋の神隠し』

(夫の主張:両親豚化の場面

子供にとってはトラウマ必至)

『南極物語』

(同:犬に感情移入させてから

その死を子供に見せるという

鬼畜演出の作品をよりによって

文部省が特選するって何)

『銀河鉄道の夜』

(同:カムパネルラの

別れの場面は大人にだって

耐えられないだろうに

やはりこれも特選とする

文部省はいったい以下略)などを

『子供向け』と称することの

残酷性について説かれました。

 

 

 

 

 

 

 

まあ文化の違いですよね。

 

(断言)

 

 

夫の言いたいことも

わからないではないんですが

人生後半戦に入った今思うと

10歳くらいの時に観た

恐怖映画って

本当に怖いじゃないですか

 

フィクションで

あの恐怖感を味わえるのは

貴重な経験であると

思うんですよね

 

大人になるとどうしても

『ゴジラ -1.0』のような

ウェルメイドの

怪獣映画を観ながらも

「何故ゴジラは海面から

頭だけではなく胸まで出して

直立できるんだろう、

浮力の原理に反するだろ」とか

「海から出てきたゴジラの顔が

濡れていないのは

下手に水を滴らすと

特撮の手間が

かかりすぎるからか」とか

気になっちゃうんですよ

 

嫌ね大人って!本当に嫌!

 

あ、でももちろん

「ゴジラ怖い、観たくない」と

泣く子供を無理矢理

映画館に連れ込むのは

絶対にやっちゃ駄目なことですよ

 

恐怖を嗜好として楽しめる

大人として

理性ある行動を実践しましょう

 

Norizoさん、あなたがいうと

ものすごく説得力がない

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