オークスの最後の直線。進路を外に取ったルメール&チェルヴィニアが、早めに抜け出した先行馬との距離をグンと詰めてきた。このエンジンの掛かりと加速力を見た瞬間、勝利を確信した。内では桜花賞馬ステレンボッシュが渋太く抵抗していたが、着差は半馬身でも勢いがまったく違った。やっぱりチェルヴィニアは強かった。
兄ノッキングポイントからPOGで追いかけ、その兄と互角以上のパフォーマンスを兄と同じ2歳6月の第1週から演じ、アルテミスSで世代トップクラスの資質を示した。その後のアクシデントや桜花賞大敗は、今となってはちょっと辛めの味付けにすぎず、それでも2番人気に支持してくれた賢い日本の競馬ファンの期待に応えるために、信じた者にとってはまさに想像していた通りの走りで、真のチェルヴィニアの強さを東京2400の舞台で示してくれた。
ただ、信じているとは言っても、実際には生観戦せず、自宅のテレビで観ていた。チェルヴィニアの復調を心の底から確信できていれば、無理してでも東京競馬場に足を運んだはず。だが、心がそこまで動かなかった以上は、いくら信じていても本音は半信半疑だったのだと思う。
そんなワタシの中の不安を、チェルヴィニア自信が少しずつ払拭していった。パドックは柔らかそうな筋肉が艶々に輝いていた。返し馬ものんびりしているくらいに落ち着いていた。レースでは、中団後方の外でしっかり折り合い、内にステレンボッシュを見る形でがっちりマーク。桜花賞から進めてきた完全復調への地道な作業を、直線で抜け出すその瞬間まできっちりとこなしながら手繰り寄せたことで、樫の栄冠に手が届いた。
3冠日のオークス制覇はこれで、ブエナビスタ(09年)、シンハライト(16年)、ソウルスターリング(17年)に続く4勝目。ワタシ自身はエアグルーヴ(96年) を含め通算5勝目となった。これまでの4頭は、2冠目だったり桜惜敗や回避のリベンジだったりと、絶対に負けられない状況での戴冠だったが、今回はいくら信じていてもそこまでの確信がなかっただけに、勝った瞬間のゾクゾク感は格別だった。
秋の話をするのはまだ早いが、秋華賞で2冠、もしくは札幌記念、大胆に天皇賞でもいい。とにかくひと叩きしてジャパンCに挑戦するくらいの女傑へと成長してくれることを願っている。
さて、POG。
今週はいよいよダービー。今年はプリンシパルSで権利を取ったダノンエアズロックがスタンバイしており、3冠日としてはオークスとのW獲りを本気で狙える状況になった。
今年のダービーの勢力図は、オークス同様、皐月賞3着の2歳王者ジャンタルマンタルがマイル路線を選択したことで、皐月賞組から強力なピースが1つ欠け、2冠目のここで復活組や別路線組が食い込む余地が出てきたように思う。
3歳になって急激に成長し、皐月賞馬に輝いたジャスティンミラノの強さは認めているし、それに食い下がったコスモキュランダの地力強化もさすがだが、東京2400を戦う上でこの2頭の競馬スタイルがまったく違うことを考えると、ダノンエアズロックの自在性や牝馬レガレイラの切れ味が、展開次第ではぴったりハマって大きな輝きを放つかもしれない。
いずれにしても、ダノンエアズロックにとっては弥生賞後の骨折で一度は完全に諦めた舞台だけに、不幸中の幸いで間に合って得たこのチャンスを最大限に生かしてもらおう。