iRacingで問題相次ぐ、ラーソンは解雇に
多くのカテゴリーでCOVID-19で中止・延期となったレースの代わりにeレーシングによるオンライン対戦イベントが開催されている中、NASCAR iRacingで立て続けに”不祥事”が発生してしまいました。 4月5日に開催されたFood City Showdownでは、10周目にクリント ボイヤーとバッバ ウォーレスが接触しコーションが発生。即座にFOXの放送席から何が起きたか聞かれたボイヤーは「バッバにやられたよ。実際よりひどいね。150周のレースだってこと忘れてんじゃねえの?おーいバッバ!」と、コメント。テレビ向けにちょっと面白おかしく言った部分もあったと思いますが、ウォーレスはこのアクシデントに納得がいかなかった模様。確かに、最初の接触はボイヤーが下手に寄って行った側面が大きいですし、それでいてボイヤーは軽くペイバックのような動きを見せています。これで怒ったウォーレス、このままレースをやめてしまい、オンラインゲームで『キレ落ち』などと呼ばれる行為に出てリタイアしてしまいました。 すると、これに反応したのはウォーレスのスポンサーだったBlue EMU。すぐさま声明を発表し、途中でやめるようなやつの支援はしない、とばかりに支援打ち切りを表明。リチャード ペティー モータースポーツと協議を行い、チームがこのレースのスポンサー料を受け取らないことで合意、ゲーム上の話のみならず、RPMとの関係そのものを打ち切ることになり『リアルに』スポンサーを失いました。ただ、Blue EMUはNASCARの公式パートナーも務めており、こちらは継続するとしています。何もレースが開催されない中、初回放送で130万人が視聴したとされるNASCAR iRacingはスポンサーにとっても重要な広告媒体の1つであり、ドライバーにとっても「ただのお遊び」では済みません。 なお、日欧のレースではメインのスポンサーは年間通じて1社なことが多いですが、NASCAR、とりわけ中堅以下のチームは複数のスポンサーが持ち回りしているため、Blue EMUが撤退するとウォーレスのスポンサーが全くいなくなるというわけではありません。また、一部誤解が生じているようですが、あくまでスポンサーを失っただけで、シートを失ったわけではありません。オマケでiRacingnのリザルトもちゃんと掲載しているRacing-Reference.infoエリック ジョーンズのリタイア理由には「インターネット」という見慣れない文字がw そしてさらに重大な事案となったのがカイル ラーソンでした。こちらは、NASCAR iRacing Pro Invitationalではなく、他のカップ ドライバーが主催するiRacingのイベント、その練習の際に起こったもので、スポッターとの無線の際に「おい、聞こえないのか、ニガー」と発言。ニガーとはアフリカ系アメリカ人を指す蔑称、「絶対に言ってはいけない言葉」に属するものです。 これを受けて即座に物事が動きました。NASCARは「日曜日のiRacingイベントで行われた不適切な言動について調査している」と表明すると、チップ ガナッシ レーシングがすぐさまラーソンに「無給での出場停止処分」を発表。NASCARも、規約の12.1、および12.8に基づいて、ラーソンに出場停止処分、iRacing、シボレーと立て続けにも処分を発表するに至ります。 ラーソンは動画で謝罪コメントを出しました。「本当にすみませんでした。昨夜、私は間違いを犯して、決して言ってはいけない言葉を言いました。そのことについて言い訳はありません。そのように育てられれはいません。ひどいことでした。 。家族、友人、パートナー、NASCARコミュニティ、特にアフリカ系アメリカ人のコミュニティに本当に申し訳なく思います。損害はおそらく修復不可能であることを理解しています。 申し訳ありません。私がどれほど申し訳なく思っているかお伝えしたかったのです。最後に、私はこのようなクレイジーな時間の間、皆が安全を保っていることを願っています。ありがとうございました。」 しかし事態は収束しませんでした、主要スポンサーであるCredit One Bankがスポンサー撤退を表明すると、McDonald'sがこの動きに追随して同じく撤退。Credit One BankはNASCARのオフィシャル パートナー、McDonald'sはプレミアム スポンサーであり、事態を看過できませんでした。 いずれも、CGRとの契約は打ち切らず、ラーソンが乗るなら支援しない、という立場であったため、チームが事実上ラーソンを乗せる限りスポンサー費用を受け取れない状態となって外堀を埋められました。 そして、最初の騒動からほぼ1日という短時間で、CGRはラーソンとの契約を解除すると発表しました。シボレーも同様にラーソンとの関係を絶つと表明、軽率な言動で、わずかな時間の間に次々と物事が動きました。 ラーソンはどうやらこのやり取りが公開されるものだとは知らなかったようですが、そもそもそうした単語が軽率に出て来る、ということは、普段からそうした単語を口にしていると考えるのが妥当。気が緩んだところで自身の軽率な行いが跳ね返ってきたわけで、たとえ発言がジョークだったとしても許されるものではありません。同じスラングでもいわゆるFワードとは重みが異なります。 ラーソンはご存知の通り日系4世(一部ネット記事で『母が日本人』と書かれていますが誤りです)、母方の祖父母は第2次世界大戦の際に強制収容所に入れられたという歴史があります。そうした背景もあってか、彼のミドル ネームには『ミヤタ』と日系の血筋を示す名前が入っており、彼もまた息子にはミヤタのミドルネームを入れています。自身のルーツに対して一定の思い入れがあるのでは、と思っていましたが、それだけに他者にたいしてこうした態度を取ったことが余計に残念です。 状況的に、来季即座にどこかのスポンサーを得て出場することは簡単ではなく、そもそもシボレーが縁を切る決断を下したドライバーを他メーカーも安易に支援できないことを考えると、よほど何か社会奉仕活動などで失地を回復しない限り、早期の復帰は難しいのではないかと思います。 なお、ラーソンの後任ですが、CGRの契約ドライバーであるロス チャステインが最有力とされています。ただ、彼は現在ライアン ニューマンの代役としてラウシュ-フェンウェイ レーシングのNo.6に乗っています。もちろんニューマンの回復具合にもよりますが、経験の浅いチャステインは名前の面でも対スポンサーで知名度が低いことなどから、昨年のデイトナ500で引退したジェイミー マクマーリーが現役に復帰するのでは?との憶測も出ています。 個人的には、チャステインを速い車に乗せて見てみたいと思いますし、引退時既にラーソンに負けていたマクマーリーが、そのラーソンよりも結果を出しているカート ブッシュと組んでも遅さが際立つだけのような気がしてがっかり感しか残らないのでは?と感じます。 顔の見えないインターネットでは心のタガが外れがちです。どこで誰が見ているか分からない、もっと言えば、常に世界の目がある、こうした視点が常に必要です。これを他者の問題として捉えず、自分自身への問題としても捉えたいですね。