約1か月前、マッキーさんによるレースの「再現性」に関するコラムを掲載しましたが、

https://ameblo.jp/scfromla/entry-12578268560.html

今回なんとその続編ともいうべきコラムを執筆・提供いただきました。

「長い上にあまり一般向けの内容にならなかったので、

まずGT SPORTのニュースフィードではなくこちらへ掲載を」

とのご依頼をいただきましたので、喜んで掲載いたします。

では早速お願いします。赤いおじさーん。

 

 

 

 前回は、「再現性」の重要さについてコラムを書かせていただきました。

くどくどと振り返るつもりはありませんが、要は

場面場面における最適なライン、スピードで走れること」

そのために常に全力で走るのは良くない」という風に書いたと思います。

 今回は、とあるフレンドのレース配信を見たときに気づいたこと、小さな修正で飛躍的に安定性が

上がりそうなことがありましたので、それについてご紹介したいと思います。
テーマは「予備動作と角度」です。尚、今回も中級者向けに書いています。ご了承ください。

 スポーツドライブにおいての基本事項の一つに「アウトインアウト」というものがあります。
これはGTSでレースをしている方には最早一般常識、守っていない人はいないと思います。
アウトインアウトをする意味は、皆さんご存知の通り

旋回によって生じる遠心力を、回転半径を大きくすることにより小さくする」ためです。
 

 遠心力をF、車重をm、回転半径をr、速度をvとしたとき、
F=mv^2/r
で表されます。回転半径に反比例し、速度の2乗に比例します。当然、回転半径が大きくなれば、

遠心力は小さくなります。
 一方、車が遠心力に負けないように内側に向けて留める力を出すのはタイヤの役目です。
タイヤが支えられる遠心力を超えたとき、外側に向けて滑っていくわけです。だから、

少しでも回転半径を大きくして、遠心力を小さくすれば、その分速度が上げられます。

 コーナーの速度を上げることはとても重要で、特にすぐ後に全力区間があるコーナーの脱出速度を上げることは

イムに直結します。

例えば富士の最終コーナー、ここは脱出に成功したかどうかで0.3秒ほどラップタイムに影響しますね。
だから、コーナーの回転半径を上げることは重要です。

 しかし、ここには「アウトインアウトの罠」が潜んでいることもあります。
これは、ある程度自分の中でラインが出来上がって、そこそこ攻められる人が陥りがちな罠です。

 それは、「走行ラインを重視するあまり、ラインを外れているときに無理やり車をラインに戻そうとする」行為です。
特にこれが多いのが、左右の連続コーナーの途中や、直線からの単一コーナーでも他車と争っているときに

起きがちです。これがなぜいけないのか?答えは非常に単純です。
 

 例えば、左、右と続くS字コーナーを抜けようとしたところ。最初の左で少しオーバースピード、

いつもよりも右寄りに出てしまいました。個人的に「切り負け」が起きていると言っています。
まぁ勝手に作った用語はどうでもいいんですが、この時に多いのが「無意識に左に寄せてから

右コーナーに侵入しようとする」ことです。これは非常に「良くない行為」です。

 上記の例で、右コーナーへの侵入を楽にしようと左に無理やり寄ろうとすると、「車は左向き」になります。
まっすぐ向いた状態から右コーナーに入るのと、左を向いた状態から右コーナーに入るのとでは、

その「回転半径」が大きく異なってしまうのです。
当然、左を向いた状態からだと、「まずコーナー側(右)に車を向ける」旋回が入ります。

これが回転半径を殺すのです。
 もちろん、こんなことにならないように「最初の左コーナーの脱出を調整する」のが普通です。
しかしこれに失敗した場合、「再現するべき最適なライン」は変わっています。
例え、やや右よりから右コーナーに入ってしまっても「そのまま体制を作って右コーナーに入る」のが、

実は一番タイムを失わない方法なのです。

 これが顕著なのが、ニュルブルクリンクGPコースの「メルセデスアリーナ」です。

ターンでいうと4~5の左、右のコーナー。

いずれもターン4~5、メルセデスアリーナ

小さく左に回るターン4から右コーナーのターン5へと向かう


 ここはその後の全開区間は短いのですが、Bitカーブに次いでタイムに影響する区間です。

 

※編注:Bitカーブ→バックストレート手前のターン12のこと

 

 多くの人は、左コーナーでなるべくイン寄りに立ち上がって次の右コーナーでのマージンを稼ぐという方法を

とっていると思いますが、この左が中々の曲者。単純に回転半径がきついのもありますが、バンクが少なく

アンダーが出やすい、内側の縁石が案外跳ねる、中途半端に回り込んでいる等、見た目以上に

難しいコーナーです。
 尚且つ、左から右への繋ぎが短く、最初の左をミスしても「立て直す」時間も距離もありません。

ここで外側に膨らんでしまうと、次の右コーナーへの入りが非常にしんどくなる。ミスったら、思わず左に

無理やり寄せて次への繋ぎを作ろうとすることが多いと思います。それも無意識にやってしまう。
しかし無理やり左に寄せて回転半径をきつくしてしまうと次の右コーナーの立ち上がりで失速してしまいます。
それよりも、ミスったラインのままでいいので「次の右コーナーへの角度を作ることを優先する」のが正解。

その方が失うタイムは小さくて済みます。これが車の向かう「角度」を作るということです。



 実は連続コーナーで無くとも、直線から入る場合にもこれを守れていないドライバーはちらほら見かけられます。
直線を走る際には、なるべくハンドルを切らずに抵抗を減らす、なおかつ斜めに走って距離を短くするという

意識があるのでしょう。コーナー入り口の入りの所まで斜めに走っていく人は時々見かけます。
その場合でも、「コーナーへの侵入箇所まで斜めに走る」と、車は外側を向いたままコーナーに入ってしまいます。

アウトに着こうとするのだから、車はアウトに向いているのが当然ですね。
それよりも、早めにアウト側によって、「車の進入角度を作る」ことが大事です。

 

編注:実際のレースでは、進入時に一度車両を少し外へ向けた状態からターンインする『フェイント』を活用した

    ライン取りが多く見られますがここでは考えないものとします。

2019SUPER GT最終戦もてぎ

右コーナーである90度コーナーにやや車を左に向けながらブレーキングする2台のLC500

2019DTM開幕戦ホッケンハイム予選

右コーナーのMobil1コーナーに一旦左へ車を向けて進入するロイック デュバル

2019DTM最終戦ホッケンハイム

ターン1で一度アウトに膨らんだ後コースを大きく右→左を横断して右のターン2へ向かう車


 そしてコーナーに侵入する際の角度作りに重要な項目がもう一つ。「タイヤは剛体ではない」という意識です。
当たり前ですが、車のタイヤ表面は基本的に「ゴム」です。もちろん力がかかったら変形します。
これは一般用のラジアルタイヤであってもレース用のスリックタイヤでも一緒です。

 車が曲がろうとするとき、ステアリングを切ることでタイヤの転がる方向が変わります。
すると、それが抵抗となり、「楽に転がる方向」に車が向く、曲がる理屈の基本です。
その時、タイヤは「撚れて変形」します。ここで案外意識にないのは「撚れるまでに一瞬時間がかかる」ことです。

 車の免許をお持ちの方は、教習所で習ったかと思いますが、車の運転において「急」がつく操作は危険。
急ハンドル、急ブレーキ。これらが危険な理由は、「周りから見て急に動きが変わるから事故の元」

ということが一つ。
 レースにおいてはもう一つ、「タイヤが変形する時間が足りず、撚れる前に滑る」という要因が加わります。
これはコーナーよりも、スタンディングスタートの時に一番実感しやすいかもしれませんね
いきなりフルパワーをぶっこんでも、タイヤは滑るだけで前に進みませんよね。トラクションコントロールは

この状態を感知して、アクセルを抜く装置です。

これは「タイヤが縦に滑る」例です。では「横に滑る」場合は?もちろんコーナリングです。
これも乱暴にステアリングを切っても、侵入アンダーが出たり、MRの車なんかだとリアが吹っ飛んだりします。
この時に「タイヤが撚れる」ことを意識すると、格段にコーナーへの侵入が安定します。

おそらく、文章で書かれてもどうすればいいのか、うまく伝わらないと思います。そこでコーナリング、

特に侵入の方法の例を挙げてみます。いわば、コーナーに侵入する際の「段取り」の紹介です。

例1.全開状態からブレーキしながらコーナーに侵入

 

 例えば鈴鹿の1コーナーですね。ここは、多くの人が

ブレーキを踏みつつステアリングを切りコーナーに侵入」

としていると思います。これをほんの少しステアリングを早くして

ステアリングを切ってからブレーキを踏み、コーナーに侵入する」

という「段取り」に変えると、侵入が格段に安定します。

例2.フルブレーキからタイトコーナーに侵入


例えばニュルブルクリンクGPコースの1コーナー。
フルブレーキから徐々にブレーキを緩めつつステアリングを切る」という手順が多数派かと思います。
これもフルブレーキを踏んでステアリングを切ってブレーキを緩める」のが正解。

この2つが理解できれば、後は応用だけです。要は「タイヤを変形させる時間をとってから曲がる」という意識。
これを個人的に、コーナーに入るための「予備動作」と呼んでいます。

「横向きの力を前もって与えておく」ということですね。

くだらない話ですが、「車は女性に似ている」という話を聞いたことがあります。男性が車を選ぶとき、

女性の好みに似た感じの性格で選ぶそうです。馴染みの車屋さんの親父が言ってたことですがw
だから「車は女性」なんです。いきなりや無理やりは嫌われるでしょ?それと同じですw

余計な話をしてしまいましたね。申し訳ございません。今回私が伝えたかったことは
「走行ラインを重視するあまり、車の角度を失うのは良くない」
「コーナーに侵入する段取りはステアリングが先。車(タイヤ)にこれからこっちに曲がりますよと教える」

の2点です。

上級者の方は当たり前のようにできていることで、読む価値もなかったかと思いますが、中級者の方、

特にコーナーの侵入で悩んでいる方には参考になったかと思います
よく「MRは難しくて乗れない」という方も多いですが(私も苦手ですがw)これを実践することにより、

フロントタイヤへの荷重のかけ方が変わって少し乗りやすくなる・・・かな?

実は「予備動作」には、これ以外の副次効果があるんですが・・・話が煩雑になりそうなので

今回は論じないこととします。興味がある方はご連絡くださればお答えいたします。

それでは今回はこのあたりで。
皆様、良きGTライフを!

 

 

 いかがでしたか?タイヤの捻じれは、私はレーシングミディアムを使用する際に大きな壁になりました。

ハードとソフトで全くタイムが変わらない!と悩んでいたら、ハードよりも柔らかくて反応が鈍いらしく、

ハードよりもステアリングの切り始めのタイミングを早めたら多少速く走るようになりました。

元々GT4なんかでは車両に全くそぐわない極端にグリップの低いタイヤを使って難易度を上げて

遊んでいた影響で、減速とステアリング操作を完全に分けないとタイムが出なかった、というのが

スタイルの原型にあるため、未だにこの癖には結構悩まされます。ちょっと話が脱線しましたね。