【シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you 島ちゑ】 月夜のスナフキン⑥ | シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you 島ちゑ

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シナリオ・センター大阪校代表取締役 小島与志絵 ペンネーム 島ちゑのブログです。

 太古、妻――月の光は、夫――日の光よりはるかに強く明るいものであった。処が夫が羨望の余り、夜歩む者には、この様な目を眩す光は不必要だといふ口実で、少し光を自分に譲る様、屡月に願ってみた。然し妻は夫の願を聞き入れなかった。そこで夫は妻が外出する機会を攫むで、急に後から忍び寄り、地上に突き落とした。月は盛装を凝らしてゐたが、丁度、泥濘の中に落ちたので、全身汚れて了った。この時、水の入った二つの桶を天秤棒につけて、一人の農夫が通りかゝった。泥の中でしきりに踠んでゐる月の姿を見て、農夫は早速手を貸して泥から出してやり、桶の水で綺麗に洗った。それから月は再び蒼穹へ上って、世界を照らそうとしたが、この時から、明るい輝ける月の光を失って了った。月は謝礼として農夫を招き、この招かれた農夫は今尚留まってゐて、満月の夜、この農夫が二つの桶を天秤棒につけて運ぶ姿がはっきり見受けられる。
(沖縄宮古列島多良間島の伝説。『月と不死』ニコライ・ネフスキー著より)

 男と女は太古より添えないものなのでしょうか? 通りがかっただけで永遠に巻き込まれてしまう農夫の運命にも、沖縄ならではの明るく大らかなウイットが感じられますね。

 ネフスキーは13世紀にチンギス・ハンにより消滅した謎の国、西夏語の研究にも勤しんでいました。辞書が完成する寸前にスパイ容疑でシベリアへ投獄され、研究も途絶えざるをえなくなること七年後に処刑。「なんという、悲劇、損失だろう」と坂本龍一氏は著されています。

 坂本氏の『坂本図書』が出版、重刷されました。小津、黒澤、漱石、武満徹、中上健次、ミヒャエル・エンデ、ネフスキー…その他、垣根を越えた作家たちの、坂本氏にとっての〝人そのもの〟がどのようなインスピレーションを与えたのか? 芸術への情熱に包まれて…