アメリカンホームドラマは良きパパママが居て、電化製品をスマートに使いこなし… そんなドラマの時代もあったんですよ。家に秘密なんてありません。戦後どうやって復興する、その時代に家庭の居間のテレビで家族の秘密を追及すれば落ちつかないことこのうえないですね。
ラジオドラマ『お父さんはお人好し』の原案となったアルフォンス・ドーデの『川船物語』。原作では冷血な守銭奴への辛辣な批判が描かれていましたが、時代にそぐわないニュアンスはカットされました。その部分に仏文学の味わいがあったのですが… 家族が秘密を抱えているドラマのショッキングな登場は、1977年放送の、やはり『岸辺のアルバム』ですね。
家族の秘密について考えさせられる文学と云うと、夏目漱石の『こころ』です。
或る学生、のちに〝先生〟。下宿のお嬢さんに恋をしていた。同宿の友人もお嬢さんに恋を。それを知った先生は友人をだしぬいてお嬢さんの母上に取り入り、先生とお嬢さんの縁談は進む。友人は傷つき自殺。その後お嬢さんと先生は表面的には良き夫婦であったものの…
哲学者の小原信氏が解説されています。先生は妻をherではなくitとして視つづけた。妻への己が視線に苦しみ苛まれ続けていた。
herとは彼女そのものであり、itとは? 秘密。罪の意識。友人をだしぬいた自身のこころの卑しさこそがit。
近距離で競うこころ。近距離だからこそ勝つか負けるかに囚われるこころ。本能的であり、アフリカの平原の動物の本能となんら変わりません。知性も理性も教養も兼ね添えた人間は、勝つことのみに囚われはしないはずです。手段を選ばずだしぬいて妻にしたお嬢さん。己がこころの卑しさの象徴、itを愛せるはずもなく。
令和の今に友人から異性を奪った悩みを表現する人がいたなら? 未熟だったから。若い時はそんなことくらいあるもんだ。などとスルーして生きる現代人を描くでしょう。おもしろおかしく。AIに聴いてみたら? などと。


