映画の印象はあまり記憶に残っていないのに音楽がいつまでも残る。そんな映画ってありますね。『黒いオルフェ』もそうですが、イタリア映画『刑事』も音楽が人々を魅了しつづけます。
ピエトロ・ジェルミ監督・主演の『刑事』。21歳のクラウディア・カルディナーレの小麦色の健康美。あい反して演じられる庶民の女性の悲恋。音楽にかさなり忘れられないシーンでした。
『アモーレ・ミオ』。多く歌われていますが、私にとってはジュリー・ロンドンが最高です。むかし法善寺横丁の近くのジャズバーにガラスの真空管スピーカーがおいてありました。アルバムジャケットは洗練された大人の女。抑えたヴォイスがくぐもり漂うようでした。
ピエトロ・ジェルミは「これぞ、イタリアンホームドラマ」の名作を残されています。なんといっても『鉄道員』のお父さん。
小学生の頃、『パパは何でも知っている』『うちのママは世界一』などのアメリカンホームドラマがありました。すんなりとらえがたくて、それはなぜなら、うちのお父ちゃんはキュッと肩をすくめたりなんかする訳がなかったからです。
中学の頃、友だちと通った三本立ての映画館。ちょっとお尻が痛かったけれどなんせお金がなかったもので。ピエトロ・ジェルミ描くお父さん像にすごく惹かれました。それはなぜだったのでしょう? 今になってですが、きっとお父さんに人間としての葛藤が描かれていたからだと思います。
丁寧に表現される人間の葛藤を感じることから家族への、他者への理解が生まれる。子どもにも作り手の狙いが伝わっていたのでしょうね。シナリオを描くことは責任のあることですね。
歌舞伎や文楽では「父もの」が胸をうちますが、三組に一組が離婚する今、別れしか結論はないのでしょうか? 想いを伝えられない人のジレンマ、辛さへ想いを馳せましょう。父の葛藤を丁寧に描いたシナリオが読みたい。