シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you 島ちゑ -2ページ目

シナリオを書いているあなたへのお手紙 for you 島ちゑ

シナリオ・センター大阪校代表取締役 小島与志繪 ペンネーム 島ちゑのブログです。

 大阪のお父さん二人目は『夫婦善哉』(織田作之助原作、八住利雄脚色、豊田四郎監督)の柳吉。妻子ある身で曽根崎新地の芸者、蝶子に惹かれ親に勘当されたぼんぼん。妻は病で亡くなり、遺された一人娘のことが気がかりで……
 
 蝶子が稼いだお金で遊ぶ柳吉に愛想は尽きそうなものなのに、それでも蝶子が惚れつづける男の魅力がみごとに描かれています。妻の死の知らせを受けた夜。悲しみを蝶子との部屋へ持ち帰りたくないので深酒を。とはいえ浮足だって遊びにいったのが発端で呑む途中で妻の死を知り結果としての深酒。井原西鶴調のいきあたりばったり人生の洒脱さが妙味です。しかし蝶子を思いやる心に嘘はなく。遊ぶ柳吉を折檻して叱る蝶子も柳吉の愛を知りぬいているのです。

 ひたすらまじめに娘と孫娘を育てた『わが町』の他吉お父さんに較べ、柳吉お父さんは根っからのぼんぼん。娘が気になってしょうがないのに娘が現れると腑抜けたように可愛がる。それでも蝶子と別れることなど到底できない。

「おばはん、頼りにしてまっせ」
「おおきに」

 八住利雄先生の名台詞。おおきに、と答える蝶子は柳吉の優柔不断のせいで自殺未遂までしているのですから、今で云う共依存関係。しかしそのような冷ややかな言葉で言い表しはできない愛がひしひしと伝わります。

「こ、こ、ここの善哉はなんで、二、二、二杯ずつ持って来よるか、知ってるか、知らんやろ。こら昔何とか太夫ちう浄瑠璃のお師匠はんがひらいた店でな、一杯山盛りにするより、ちょっとずつ二杯にする方が沢山はいってるように見えるやろ、そこをうまいこと考えよったのや」

 夫婦善哉のお店での柳吉の台詞。野暮なフラッシュバックはなくとも自由軒でカレーライスを啜りあう二人のシーンへ観客の想いはなぞらえられ、大阪庶民の愛の華に包まれます。

 今、町のカフェでは独り席で壁に向かいPCと睨めっこしている人たちが。愛を映画から。