
昔、私の勤務していた事務所に、
元名フィル指揮者の外山雄三先生が
おいでになることが多かった。
仕事の合間に事務室の椅子に座って、
いつも楽しく気軽に話し相手になって
下さっていた。
私は休憩時間になると、事務所の2階に
小さな音楽ホールがあったので、
グランドピアノに触れて遊ぶことがあり、
ビートルズの曲を弾いて遊んでいるのを、
外山先生に聴かれていたことがあった。
外山先生から
「なんだ、今の、君が弾いていたのか、
君って、なんか持ってるんだよね~
人の心に響くってのは、、
上手い下手じゃないんだな
指揮していても、
お客さんに満足してもらえる演奏が
できる日ばかりじゃないからね」
と、ぼんやり独り言のように呟いておられた。
先生はいつも自信に満ちているようだけど
指揮者はプレッシャーの塊なのだなと
先生の心の繊細さに触れたのを感じながら、
私は「下手でも何か持ってる」と聞こえて、
褒められた気がして有頂天になった。
そんなことを言われたのが24歳頃だったから
今64歳だから、ちょうど40年位前になる。
外山先生の呟きによって、
「え?私って何か持ってるのか!」
私の勘違い人生は始まった。
巨匠が言うのだから間違いない。
先生の言葉を信じてみようかなぁ、、
「よし!やっぱり音楽を仕事にしよう!!」
その言葉を頼りに
ひたすらピアノの演奏研究を続けた。
「上手い下手ではなく、
人の心に響く何かを持っている」
私は、きっと何かを持っている?!
外山先生のお世辞を信じて
そう、呪文を唱え続けて
自分で自分を洗脳し思い込ませた。
案外、
外山先生のその言葉を信じて良かった
と、思うことがある。
音楽なんて形がないものだから
基準なんてものもないし
信じる者は救われる。
外山先生は、本気でおっしゃった
言葉ではなかったかもしれないけれども、
嘘から出たまこと
褒め言葉と信じて思い込むと
その鈍感力と勘違いが実を結び
不思議と実力以上のことが
できるようになるもので、
なんとかなるものなのだ。
音楽、やりたいことだけど
諦めようかな~と
八方塞がりな事が続いても
呪文を唱えて諦めずに粘り続けると
必ずどこかに風穴が見つかるものだ。
次第に協力者の方々が現れて
自然に進めたい方向に形ができていく。
いろんな選択肢がありルートがある中で
何度も転機は訪れていると思うけども
外山先生の一言は、
私に影響を与え続けブレずに
音楽から離れないで仕事を続ける
原動力になり、
それを信じてきて良かったのだ、、
と、ふと思い出す日がある。
今年65歳になるけれども、、
まさかこの年齢で仕事でも趣味でも
細々と音楽を続けているとは
思っていなかったので、、
自分自身が一番驚いている。