メモリー44:「限りある時間」の巻 | 天然100%!今日もがんばるオレンジブログ!

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基本的にはポケモンの二次小説で、時折色んなお話を!楽しく作りたいですね!

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 チカにはもっともっとそばにいてほしいな。ダンジョンの中を旅する単なる仲間とか、そんな関係じゃなくて…………もっと親密な関係になりたい。でもきっとなれないんだろうな。だってボクは人間の世界で、彼女はこの世界で。別々の場所で生まれ育ったのだから。そう思うと、なんだか切ない。



 「バッジが強く光始めたよ!!」

 「うん、この地下3階のどこかにヒノアラシが待っている。早いとこ見つけて安心させてあげなきゃね!」



 ボクの言葉にチカが頷いた。改めて表情を引き締めて。そんなボクたちに向かって何か丸い物体が飛んできた!!初めは壁をすり抜けるようにタネを投げつけられたのかと思ったが、どうもそれは違うように感じた。



 「ユウキ、多分“たまなげ”だと思うよ!連続して投げつけられてるところを見るとね!!ダメージが蓄積されて大きくなるかもしれないから気を付けて!!」



 チカがいつものように背後からアドバイスを送ってくれる。でも、今回はボクに迷いは全く無かった。



 「ありがとう、チカ!!でも大丈夫!!これくらいだったらボクの炎で焼き払えるから!!」

 「え!?」



 そんなボクの自信満々な姿にチカはビックリした様子だったが、すぐに納得することになる。なんたって自分たちに向かって飛んでくる丸い物体が炎に巻き込まれて、次々に落下したのだから。彼女は思わず手を叩いて喜びを表現してくれる。



 「す、凄い…………。凄いね、ユウキ!!炎がまた強くなったんだね!!」

 「ありがとう。だってチカが一緒だから。ケンカして嫌な気持ちになったのに、ずっと一緒にいてくれたから頑張れたんだ!」

 「そんな……………褒めすぎだよ////////」



 チカのことを讃えるボク。決してお世辞なんかじゃない。これは全て本音なのだ。ボクの“リーダー”という役割へのこだわりから一旦は関係が壊れそうになったことを考えると、本当にチカのやってきたことには頭が上がらない。素直になれなくてついつい心にもないことを突き付けたりしても彼女は“パートナー”として、ずっとそばを歩いてくれたのだから。



 「っ!!危ない!!」

 「え!?」

 「チカに手を出すなあぁぁぁぁぁ!!」

 「うわあああ!!」



 階段から降りたそこはかなり広いフロア。そのため至るところから他のポケモンに襲われる危険があった。お互い向き合って話をしている間に別のポケモンも近づいていたようで、ボクは叫んだ!!キッと表情が変化したことにチカは一瞬動揺した様子。しかもボクがしっぽを地面に叩きつけることで反動をつけ、彼女を飛び越えてその敵に向けて腕を振り下ろしたものだから、更に驚きは続いたことだろう。それくらいボク自身も無我夢中だったのだ。直後にそのポケモンの叫び声が耳に飛び込んで来たわけだが、それさえも彼女は驚いた。



 「ポッポ?」

 「うん、コイツが遠くからキミを狙っていたんだよ。多分“でんこうせっか”だと思うんだけど」

 「“たまなげ”してきたポケモンのことはまだ迎え撃ててないってことなんだね」

 「まぁね…………」



 だんだんとチカの表情もキツくなっていく。とは言え、あんな特殊な技を繰り出してくるポケモンなんてそんなに数は多くないし、大体の検討はボクもチカもついていた。問題はどこからやってくるかだ。



 (いいや、とにかく先に進まないことには意味が無いんだから。それに…………今のチカなら、多少のポケモンにも問題なく対処できるだろう。いや、ボクが信じてあげなきゃね!こんなに頑張ってくれているんだから!)



 見えない相手との闘いはこれまで何度も経験してきたこと。とにかく動じないことが大事なことはボクもチカも熟知していた。いくら遠距離から攻撃が可能だとしても、それには限界があるはず。そのように結論づけたボクは無意識のうちにチカの手を繋いだ。だって自分をサポートすべく後を付いてくれてる彼女と離ればなれになるのが怖いから…………。



 

    ドォォォォォォォォン!!

 「きゃあ!!」

 「チカ!!」



 おかしいと思ったのはこのときだ。明らかに今の爆発は“ばくれつのタネ”を使用したのとかなり似たような感じ。ということはボクたちはまた別のポケモンからも狙われてることになる。衝撃で崩れてきた壁の一部がぶつかったチカの悲鳴が聞こえた。ボクは更なるダメージを防ぐため、無我夢中でチカの体を強く抱きしめる!!その瞬間、ビックリした彼女が顔を赤くしたことなんて知らずに。



 「チカ、逃げるよ!!走るよ!!」

 「え!?う、うん!!」



 ボクの言葉に動揺したかもしれない。それでもチカは頷いてくれた。そして自らの手が離れないように、もっとボクの手を強く握ってともに走り出したのである!!!



   ガツン!!ガツン!!

 「イタッ!!」

 「キャッ!!」



 その間にも“たまなげ”は続いた。おかしい。相当離したと思ったんだが……………!



 「そうか!!“ねんりき”で玉をコントロールしてるんだな!!」

 「これじゃ逃げようが無いよ………」

 「大丈夫、あと少しでこの部屋の出口だ。もうひとふんばり頑張るんだ!!」

 「う、うん…………」



 チカが不安そうに頷く。その間も何度も玉が飛んできたけど、なんとか避けながら移動できた。さすがに体の近くに飛んできたものは彼女が“でんきショック”を使って破壊してくれたけど、そうやって時間稼ぎをしている間に何とかこの大部屋の出口へとたどり着くことが出来たのである。すぐさまチカに自分の背後に回るように指示をした。彼女はそれに従い、ボクの背後へと移動した。あくまでも彼女には自分のサポート役としてアイテムの管理をしてもらうのが、ボクの目的だった。いざとなれば自分が壁になることで彼女にダメージが及ぶこともない。それにボク自身も背後から別のポケモンが襲ってきたとしても、チカに守って貰うことで自分の目の前の相手に集中することが出来るだろうという考えだった。



 

 (よし。あとはこの狭い通路に相手のポケモンを呼び込むことが出来れば………!)



 態勢が整ってしまえばあとは相手を迎え撃つだけ………!あるいは逃げ道が他に無いこの状態を察して向こうが退散するか。いずれにせよ果報は寝て待て。ボクとチカはじっと“そのばでたいき”し続けたのである。









 (ん?…………静かになった?)



 それなりの時間は経過していた。しかしいつまで待機を続けても他のポケモンが現れる気配は無い。むしろシーンと静けさが増したような気がした。ということは…………退散したということで良いのか?



 (そうだ。チカならきっとわかるかもしれない………!)



 ボクはひらめいた。たしかチカのあのハート型のしっぽは周りの様子を探れるレーザーの役割をしているってことを。それならば近くにポケモンがいるかどうかも判断できるのではないか……………と、そんな風に思ったのである。



 「え?私なら相手の居場所がわかるんじゃないかって?自信はないけど…………やってみるね」




 チカはまた不安げな様子になった。それでも両手を地面につけて、四つ足態勢になりながら自らのしっぽを天井に向けて立ててみる。しかしながらこの姿勢を男の子相手に見せるのは抵抗があったかもしれない。何となく顔が赤いし瞳は潤んでいる。他のポケモン相手だったらきっと拒否していたかもしれない。そんなことさせた自分を猛省した。でも、以前のチカならそんなことを考えてなかったと思う。ボクの気のせいだろうけど、本当は彼女だって少しずつ気持ちがボクの方へと向いているのだろう。そうだ。きっとそうなんだ。そういうことにしよう。



 「……………大丈夫かな。なんも異変は感じないし、遠くから声が聴こえるような感じもしないから。もしかしたら、もうこの近くにはいないのかも知れないよ」

 「そうか…………それならもう安心だね。ありがとう、チカ。頑張ってくれて」

 「え!うん♪私もユウキの役に立てて良かったよ♪」



 ボクの言葉にチカは安心した様子で答えた。そしてボク自身、こんなに尽くしてくれる彼女のことが大好きでたまらなかった。だからこそどんなに大変なことが起きたとしても頑張れるのだ。



 (でも今は救助活動中だ。浮かれちゃいけないや。集中集中!)



 フーッとひと息をついたボク。あとはこのフロアで待っているヒノアラシのことを見つけ出すだけ。何としても今回も救助依頼を成功させるんだって考えたら、自然としっぽの炎がメラメラと燃えてくる。



 (よ~し、がんばるぞ!!)

 「ユウキ!?もう…………いつもビックリさせるんだから………フフフ………!」



 気持ちが入ってついついチカのことを置いてきぼりにしそうになった。そんなボクに彼女は一瞬不満げな表情をしたが、すぐに呆れたように笑顔を見せて四つ足態勢で追いかけてきたのである。



 「どうもありがとうございます。なんとなく森の中を散歩しようかと思って奥に進んだら、出口がわからなくなってしまったんです。本当に助かりました!!」

 「いえいえ。こちらこそボクたちが来るまで頑張ってくれてありがとう。このバッジを使えば地上に戻れるから安心してください!」



 それから少ししてヒノアラシを見つけることが出来た。自分よりも大きな岩陰に体を丸めながら隠れていたわけだけど、バッジが輝き始めたことやチカがしっぽでその気配を感じたことが、この結果につながった。優しく声をかけてヒノアラシのことを安心させたところで、ボクはバッジを誇らしげに高く掲げる。



   パァァァァァァァァァァ!!

 「あ、あの…………僕はどこにワープするんでしょうか?」

 「心配しなくて大丈夫♪ペリッパー連絡所だから。受付のペリッパーたちが親切に案内してくれるはずだから、それに従えば良いよ♪」

 「ボクたちも一緒にワープするから。一緒に地上に帰ろう!」

 「は、はい!何から何まで本当にありがとうございます!」



 元々おくびょうな種族だと言うヒノアラシ。この依頼主も例外では無いのだろう。凄く不安そうにあれこれボクたちに尋ねてくる。しかし、そのひとつひとつに丁寧に答えることで安心しきったのだろう。ボクたちと一緒にバッジから放たれた光を浴びてダンジョンからの脱出が完了する頃からは何も尋ねてくることはなかった。









 「助けてくれて本当にありがとう、“メモリーズ”」

 「こちらこそ。喜んで貰えたようで良かったよ♪」



 無事にダンジョンから脱出し、気持ちの良い海原を眺めることが出来る崖の先端にあるペリッパー連絡所の隣に、ボクたちはヒノアラシと対面してやり取りをしていた。タイミングを見計らってヒノアラシは一歩前に出て来て、このように言ったのである。



 「あいにくこれくらいしかお礼として差し上げることが出来ませんが、どうか自分の気持ちとして受け取ってください、それでは」

 「ありがとう!この後の救助活動に是非とも役立たせて貰うね!!」



 ヒノアラシはボクたちに“ピーピーマックス“を2つ、“ゴローンのいし”を10コ、それから100ポケを渡すと、その場を後にしたのであった。



 「良かったね、チカ。きょうも救助活動が上手くいって」

 「そうだね♪それじゃあ忘れずに連絡所でこの“ふっかつメール”を提出しようね!」

 「うん!」



 ヒノアラシのことを見送った後、チカの指示でボクは連絡所の中で依頼成功の報告を兼ねたメールの提出を行った。受付のペリッパーがボクたちのことを労ってくれ、救助ポイントが今回もまた5ポイント入ったことを教えてくれた。“ブロンズランク”まであとどれくらい頑張ればわからないけど、前に進んだのは確かなことである。何よりも…………、



 (今回もチカの喜ぶ姿が見れて凄く幸せだな!!チカの笑顔が本当に癒してくれる…………)



 そう、今はただチカの笑顔見たさに頑張っている自分がいる。彼女が喜んでくれるなら、もっともっと頑張りたいし………、そうすることでどんどんお互いの距離が縮まるようにと願うばかりだった。



 「そろそろ帰ろうっか、ユウキ♪」

 「え?…………あ、うん。そうだね」



 事が済んでしまい特にやることも無くなったので、基地に戻ることになった。そう、ボクにとっては一番気持ちが苦しくなる時間。愛想良く笑顔で首をちょこんと傾げながら、「もう。早く♪」なんてボクの手を引いてくるものだから余計に苦しかった。



 (チカが帰っちゃったら、ボクはまた独りぼっちで夜を過ごさないといけないんだ…………)

 「どうしたの?そんなに暗い顔して」



 ネガティブ感情が一気にボクの心を支配した。心配そうにチカが寄り添いながら話しかけてくる。ボクは小刻みに首を左右に振ってなんとかごまかそうと笑顔で頑張ったが、無理だった。知らない間に笑顔が崩れて半泣き状態に変わってしまうのである。なんと情けない。



 「ユウキ…………。不安なんだね、寝るときに私がいないことがそんなに…………。嬉しいよ。そこまで自分のことを考えてくれるなんて………」



 そんな自分にチカは嫌な顔ひとつ見せず、優しく接してくれた。背中に小さな手を回して撫でてみたり、もっと寄り添ってみたり。彼女なりに愛情表現をしてくれたのだ。そう………。初めて自分がチカに甘えて、一緒に歩いたあの時のように。



 (なんとかユウキが寂しくならないように出来ないかな。毎日こんな調子だと辛いよね、ユウキだって………)



 ユウキは私が寄り添ってる安心感があるのでしょうか。少しずつ元気を取り戻しているのを感じました。もちろん私はそんな彼の姿に安堵したのは事実でしたが、夜はまた独りにさせてしまうんだって考えると、何だか申し訳ない気持ちがありました。正に異性同士のチームならではの問題。何か解決策が見つかったり、ユウキ自身の気持ちが落ち着くようにと………願うほかありませんでした。無責任な感じがして、もどかしい気持ちになりましたが。




 「着いたね。私たちの基地に。きょうも一日頑張ったね」

 「うん、そうだね………」



 チカが嬉しそうに笑顔で声をかけてくるが、ボクとしては正直「着いてしまったか………」という感じだった。ずっと繋いでいた手もここで離さないといけないし、また明日の朝までは一人でこの基地で過ごさないといけない。まあ、風雨や寒暖差なんかに苦しむことが無いだけマシなのかも知れないけど。



 「ひとまず帰ってゆっくり休もうね。それじゃ、また明日♪」

 「うん、またね…………」



 チカはより一層笑顔を浮かべて一言告げると、足早にその場を去っていた。多分いつまでもボクのそばにいると、ボクのことが気になって帰るに帰れなくなるからなんだろう。その証拠に彼女は立ち去る前に一瞬だけボクの方をチラッと振り返り、「ゴメンね」と口元がそんな風に動いた気もしたのだから。



 「……………なんとかチカに頼らないように、強くならないとな…………」



 自分のそばからどんどん離れていき小さくなっていくチカ。そんな彼女をボーッと見送りながらボクはぼそっと呟いた。寂しくて仕方ないのは事実。だけどそんな姿ばかり見せていたらきっとチカだってボクのことばかり考えてしまって、余計に疲弊させてしまう。自分はともかくとして、彼女の気分が沈むような姿は見たくない。彼女にはずっと幸せそうな笑顔でいて欲しいし、それがボクのエネルギーになるのだから。くどくなりすぎて読者の皆さんも飽き飽きしてるかもしれないけれど、



 ボクは今、失いたくない存在が出来たと言っても過言ではない。いつの日か人間に戻れる日が来たとしても。









 「どうすれば良いのかな。ユウキにあんな寂しそうな表情をされちゃったら、私だって辛くなってきちゃうよ。せっかく救助活動が上手くいって嬉しいはずなのに…………」



 いつものように木の幹の中で丸くなって体を休めていた私でしたが、いつまでもユウキの寂しそうな姿が頭から離れませんでした。そのせいでなかなか寝ることも出来ず、そのままボーッと彼のことを考えてしまったのです。



 でも本音は私だってユウキと同じ場所にいたい気持ち。エーフィさんに追い出されてからはこの狭い場所で凌いでるけど、この状態がどこまで持つかわかりません。夢だった救助隊をユウキが一緒になって出来ていることは嬉しいけれど、心身ともに毎日ちゃんと疲れを回復出来ているかどうかは微妙で、むしろだんだん回復出来ていない感じがしました。



 (毎朝早起きしてユウキを迎えに行くのも大変だし………、一緒の場所に住んでいれば、いざと言うときは守ってもら

える………確かにメリットはたくさんあるけど………)



 私の心から不安が消えることはありません。なぜなら彼の正体がわからないままだから。最初の頃は強がっていたのか、どんなことにも勇気を出して立ち向かうカッコいい姿だった彼が、段々と寂しがりで弱い姿を見せるようになってきたところを見ても、ユウキが自分のことを「記憶喪失になっている元人間」嘘をついていることも無いでしょう。



 でも、それを確かめる手段もありません。それにもしかすると「今は記憶喪失で幼いヒトカゲになっているから純粋であって、人間時代は逆に荒々しい性格で周りに危害を与えていた」という可能性だってあるのです。



 (だからユウキの記憶が戻ったとき、もしかしたら今までのユウキがいなくなって今よりずっと辛い目に遭う可能性も、怖い想いをする可能性もあるってことだよね?だから一緒にあの基地で過ごすのは、ちゃんとユウキの正体がわかって安心できたときにしよう…………。私も寂しいし、ユウキには嫌な気持ちにさせちゃうけど…………仕方ないよね)



 あの山火事のときのように、大切な人に見捨てられて独りぼっちになるのは嫌だから。そんなことを思ううちに疲れてしまったのか、私はいつの間にか寝入ってしまったのでした。



 (ああ………やっぱりダメだったか)



 その頃ボクは藁のベッドの中で独り泣いていた。男としてのプライドを削ってこれだけ寂しい気持ちや弱い姿をさらけ出しても、チカは優しい声をかけるだけ。結局夜になるとこうして独りで過ごさないといけない現状を変えることが出来なかったのである。



 (でも、ボクも情けないよな。一旦自分で決めたことを最後まで成し遂げる勇気が全く無いんだから。結局チカの優しさとか温もりが無いと頑張れない弱虫なんだ…………)



 人間時代の自分がどうだったのか確かめる手段は無い。だけど、一番初めにチカが惹かれていただろう「どんなことにも立ち向かうがんばりや」な面影がすっかり薄れている感覚には陥っていた。そればかりかどんどんチカのサポート無しでは、前に進む勇気さえ持てなくなる軟弱者に成り果ててしまったのである。



 (ごめん。ごめんよ、チカ。もうボクはキミが頼りにしてるユウキじゃ無いのかもしれない。このまま“メモリーズ”を続けて良いのか、不安になってきたよ………)



 “一体どうすれば?”…………その答えを見つけることが出来ないまま、ボクはうつ伏せ状態でいつの間にか眠ってしまったのである。



 “ユウキ、昨日は独りぼっちにさせてごめんね………。もうこれからは心配しないで………。どんなときもずっとそばにいるからね………”

 “チカ…………好きだ。大好きだ………。嬉しいよ…………。ボクもがんばる。もっとキミが笑顔でいられるように……………”

 “クスッ。ユウキ、私も好きだよ…………”



 その日ボクが見た夢の中では、チカと一緒だった。










 ……………翌日。これまでと変わらない朝日が窓から差し込んできて、小鳥のさえずりなんかでボクは目を覚ました。



 「チカ………チカは!?」



 当然のことながらここには彼女はいない。ガバッと起き上がってみて、あの幸せな時間が単なる夢だという現実を思い知ったのだ。でも、ボクはそこまで気落ちすることはなかった。



 (朝になったってことはチカに会えるんだ!早く外に出ていよう!!!)



 そう。きょうも変わらず“メモリーズ”として救助活動を行うことになる。いつもならきっとチカはエーフィたちの基地を出て、自分を迎えに来てくれるはず。そのように考えたボクは急いで、基地の外へと飛び出す!



 (一刻も早くチカに会いたい!彼女と一緒に過ごしたい!)



 今のボクは彼女抜きで生きていくことなんて不可能だった。本当に人間に戻れる日が来たらどうなってしまうんだろう…………。



 「おはよう、ユウキ」

 「おはよう、チカ!きょうもヨロシクね!」

 「えっ?う、うん…………」



 外に出ると、やっぱりチカは迎えに来てくれた。声をかけられたボクは嬉しい気持ちを抑えきれず、テンション高く返事をした。だが彼女は本当に普通のテンションだったので、ボクの姿に正直困惑している感じだった。



  バサッ!バサッ!バサッ!バサッ!

 「あ、ぺリッパーだ!手紙を運んできてくれたのかな?」

 「急いでチェックしないとね!」



 そこへ姿を現したぺリッパー。青空や朝日とマッチしていて正直地上からはどこを飛んでいたのか、羽ばたく音が聴こえるまではわからなかった。でもその音は確実にボクたちのいる場所に近づいてきて、くちばしを器用に利用してポストの投函口へ「スコン!」と手紙を入れたかと思うと、また上空へ羽ばたき姿を消したのであった。



 赤いスカーフを揺らしながらボクとチカはポストを開いて探ってみる。一通だけだったけど、手紙は確かに入っていた。問題はその内容だ。どうか救助依頼の手紙でありますように………と、思わず二匹で願ってしまう。なぜなら救助依頼の手紙が配達されてくるってことは、ボクたちのチーム、“メモリーズ”も少しずつ浸透してきているという何よりの証拠になるのだから。



 「…………救助依頼の手紙だ!!」

 「やったね、チカ!!」



 次の瞬間、駆け出しの救助隊は喜びを隠すことが出来ずにいた。ボクたちは不安の中でまた一歩、前進したことを感じることが出来たのである。頑張ってきたことは無駄にならないんだと実感したのである。



 依頼の内容は“ちいさなもり”3階にある“モモンのみ”を拾って、依頼主のココドラに手渡すというものだった。本人いわくお守りにしたいということらしく、本当に欲しがっていることは容易に理解できた。



 「ひとまずダンジョンに行く準備を済ましてからいこう。手慣れたダンジョンだからと言っても万が一ってこともあるし」

 「私も賛成だよ♪頑張っていこうね、ユウキ♪」

 「あ、うん……………////////」



 依頼を受けると気持ちが自然と入るのか、引き締まる想いになる。一番そばにいるパートナー…………チカが笑顔で反応してくれたから、なおさら嬉しくて堪らなかった。それにしてもチカって本当に可愛いな…………。




 まずはカクレオンのお店で道具を買い、今は使わない道具をガルーラおばちゃんの倉庫に預ける。余ったお金はぺルシアン銀行に預ける。…………“ポケモンひろば”ではこのようにお店を巡ることが、少しずつ習慣になってきているのを感じる。



 「ついでだから掲示板も確認しておこうよ。もしかしたら“ちいさなもり”に関する依頼があるかもしれないよ?」

 「そうだね」



 チカのアドバイスで“ぺリッパーれんらくじょ”方面に向かう。そういえば同じダンジョンであれば、同時に複数の依頼もこなすことも出来るんだっけ。とにかく少しでも多く依頼を引き受けて、救助経験を積んでいかないと。



 「あった!何々?」



 そんなこんなで連絡所の掲示板を二匹で眺めていると、丁度よく一通の手紙を見つけることが出来た。内容は“ちいさなもり”の地下2階で依頼主の友達、アサナンを助けてくれというものだった。



 内容を読み上げてから、隣にいるチカの表情を見る。「私は全然構わないよ」という相槌。さっきのような笑顔をここでも観られたことにまたしても勇気を貰ったボクは、すぐにその手紙を受付に提出したのである。



 「きょうも一緒に頑張っていこうね!」

 「もちろんだよ!!」



 ボクたちは握りこぶしを作った右手を青空に向かって突き上げる。こうしてきょうもボクたち“メモリーズ”の一日が始まりを告げたのであった。




 “ちいさなもり”の造りは今回も変化をしている。変わらないのはここに住むポケモンたちの神経質さ。特にボクたちのようにバッジ付きのスカーフを巻いているポケモンを見つけると、牙を向けるのは容易に想像できた。



 「僕たちのすみかを荒らしに来るな!!」

 「ただでさえ毎日自然災害に怯えてるんだ!!これ以上余所者には邪魔させないぞ!」



 ダンジョンの中に潜るやいなや、すぐにボクたちに襲いかかってきたケムッソとポッポ。幸いその場所が広いフロアであり、しかも背中合わせだったボクとチカの目の前にいたものだから、追い払うことに特に難しさは無かった。



 「“ひのこ”!!」

 「うわあ!!」

 「“でんきショック”!!」

 「ぎゃあ!!」



 以前のボクたちなら話し合いで何とか解決策を見出だそうとしただろう。正直この場面でも安易に技を繰り出すことには迷いがあった。でも、この先に待っているポケモンはもっと辛い目にあっている。そこから救い出すと約束したからには自分たちの私情はこの際捨てていこうと思った。“ハガネやま”での衝突、そして失敗がそんな結論を生んでいるのである。



 「キミたちには可哀想な目に遭わせてしまうけど、ボクたちだって必死なんだよ」



 技を受け、体から小さな煙を出しながら気絶している二匹に向けてボクはこのように言った。そしてチカを連れて足早に階段を探す作業を始めたのであった。



          ………メモリー45ヘ続く。