メモリー45:「寂しさに注ぐ小さな光」の巻 | 天然100%!今日もがんばるオレンジブログ!

天然100%!今日もがんばるオレンジブログ!

基本的にはポケモンの二次小説で、時折色んなお話を!楽しく作りたいですね!

←目次   ←メモリー44 

 不思議だ。ほんの少し前までは衝突までしてチームが解散する危機にまで直面して、人間に戻りたいと強く願っていたのに。今では1秒でも長く彼女と一緒にいたいと感じてしまう。でも彼女はどうなんだろうか。ボクのことはチームの仲間ってくらいに留まっているんだろうか?



 「えい!!」

 「負けないよ!!」

 「チカ、危ない!!」

 「ユウキ!!」



 昨日に引き続き、“ちいさなもり”で救助活動に挑んでるボクたち“メモリーズ”その道中、次々と襲いかかってくるポケモンたちにも怯むことなく、ボクたちは戦い続けた。造りは絶えず変化してるとは言え、そこに住んでいるポケモンの種類や強さまでは変化しないので、ボクたちも予測しやすかったのである。そしてそれぞれの技もパワーアップしてるので、体力の消費も抑えることが出来た。ボクはこの変化がバトルの経験を積んだという証拠なのかも知れないと思った。



 「見えたよ!!次のフロアへの階段だ!」

 「やったね!早く進んで依頼を達成しなきゃ!!」

 「うん!」



 そうしているうちに地下2階への階段を見つけた。これまでのように、ボクたちはハイタッチを交わして喜びを分かち合う。この瞬間がひとときの心の休息なのだ。




 「まずはここでアサナンを助け出すんだったな」

 「うん。バッジを見て、ユウキ。早いところ見つけて安心させてあげよう」

 「そうだね」



 チカの言うように赤いスカーフについているバッジが強く輝いている。これがこのフロアのどこかに救助すべきポケモンがいることを示している証拠なのだ。いくら手慣れたダンジョンの中とはいえ、この瞬間は一層の緊張感を覚える。それはきっとチカも同じだったに違いない。後ろを振り向いたときに何となくだけど、ボクとの距離が縮まっているような気がしたのである。まあ、自分としては彼女が必要としてくれてる感じがして満更でもなかったけど。



 ……………と、そんなときだった。

 


  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………

 「きゃっ!?」

 「地震か?」



 突然下から突き上げる感じで地面が揺れたのである。幸いにもそこまで大きな地震ではなかったようで、しばらくして揺れは収まった。



 「もう大丈夫だよ?」

 「ありがとう」



 何度か地震に遭ったとはいえ、やはり急に揺れが襲ってくると動揺してしまうし、慣れようにも慣れないものだ。だが、それ以上に体をブルブル震わせるほど怖がっているのはチカだった。ボクは少しでも彼女のことを安心させてあげたいと思い、優しく声をかける。しかし、それもその一瞬だけ。



 「さぁ、頑張るよ?アサナンがボクたちを待っているんだから。ボクたちが怖がっている場合じゃないんだ」

 「ユウキ…………」



 次にボクはチカを鼓舞する。だって彼女はもう弱くて“おくびょう”な存在から成長を続けているんだから。ここでその歩みが止まってしまったら、“メモリーズ”が世界一の救助隊になるなんて到底不可能だろう。だからこそ、今までより少し厳しめな対応になっても仕方ないだろうと思った。もちろんこれが本意ではない。むしろ不本意だし、少しずつ芽生えている自身の恋心にも反していて苦しかった。



 「…………うん、そうだよね。頑張っていかないと………。もっと強くなるためにも」



 だけど彼女は本当に優しい。始めはショックを受けたような表情をしていたが、すぐにボクの意図を察してくれたようで、温かな笑顔を見せてくれた。彼女だって本当は苦しいだろう。自分なりの考えがあっても、あくまで“リーダー”の考えを尊重して支えていく存在、“パートナー”という役割に徹しないといけないのだから。そのことを考えると、これで良かったのかと疑心暗鬼になってしまった。



 この地下2階でもバトルを何度か経験した。だけどそれらも簡単に乗り越えていく。今はただ、「目の前の救助活動をひとつずつこなしていく」ことに徹するために。そうしているとやがて、大きな部屋でアサナンを発見することが出来たのである。困り果てた様子で辺りを右往左往してるところを見ても、それが元からダンジョン内に住んでいるポケモンがする行動にしてはかなり不自然なのは明らかだった。



 「早く助けに行かなきゃ!!」

 「ちょっと待って………キャッ!?」

 「どうしたの、チカ!?」

 


 ボクは急いでアサナンの元に近づこうと考えた。チカも遅れまいと後を追いかけてきたが、そのとき正に異変が生じた。彼女はその場で倒れ込んだのである。ボクが慌てて振り返って駆け寄ると、涙ながら彼女は言った。



 「急に力が抜けちゃって。自分でもなんでこんな風になっちゃったのかよくわからないの!」

 「そうなのか。でも安心して。ボクがそばにいる。キミに何かあったときでも決して離れたりしないから………」

 「ユウキ…………」



 ボクは懸命にチカを庇った。こうしているだけで彼女を襲った異変が解消されるわけがなかったけど、少しでも不安な気持ちから守ってあげたい想いがあったから。



 それに「万が一チカに不測の事態が起きて最悪なことが起きたら?」なんてことを考えると、ちょっとでもチカが傷付いたりするのが恐ろしくて仕方がなかった。今のボクはそれくらい彼女が好きだったし、また完全に依存していた。



 ところがチカは違った。キッと険しい表情になると、ボクに向かってこう告げたのである。



 「しっかりしてよ!私のことより救助の依頼を優先して!こうしている間にも他の場所からポケモンたちが集まってくるかも知れないんだよ!?早くアサナンにバッジをかざして、ここから脱出させてあげるんだよ!!」

 「でも、その間にチカが他のポケモンに襲われたら………」

 「ユウキの弱虫!!さっき自分でも言ったじゃない!私たちが怖がっちゃダメって!!私のこと本当に気にしてくれてるなら早く行動してよ!!」



 チカは叫んだ。でも自己犠牲に徹するくらいに彼女が成長を続けている証拠なのだろう。1週間前なら萎縮して何も出来なかったに違いない。その点に関してはなんだか嬉しい。だけどそれ以上に強い覚悟を持って臨んでいる彼女の気持ちに応えきれてない自分が情けなく感じた。



 「わかったよ!だったら…………少しの間、頑張っててね。アサナンを脱出させたらすぐ戻ってくるからね!」



 それでもチカの想いを無駄にするわけにいかない。その気持ちでボクはアサナンのもとへ急いたのである。



 …………一方私は彼の背中を見送りつつ、自分を襲った相手に一言こう言いました。



 「ユウキを襲おうなんて調子に乗らないでね?こんなところで倒れちゃったら、みんなに迷惑かかるんだから」

 「でもキミだって動けないじゃないか?馬鹿みたく身を呈してまで、自ら“すいとる”のターゲットにここからどうやって打開するのかな?」

 「動けない…………フリをしているって気付いてないみたいだね?」

 「なんだと!!?ウソをつくなよ!!」



 私はらしくないほど、そのポケモン…………たねポケモンのヒマナッツに挑発的な態度を取っていました。確かに相手の言うように“すいとる”で、自分の体力が奪われているのは確かでした。先ほど倒れ込んでしまったのもそれが原因でした。だけどそれでも強気でいられたのは、バッジの「じっとその場で待機してるだけで体力が自然に回復する」効果のおかげだったのです。



 「ウソかどうかは自分で確かめてみてね!!“でんきショック”!!」

 「わっ!!うわああああああああ!!」



 私と超至近距離だったので、いくら“こうかがいまひとつ”な技でも大ダメージは避けられなかったことでしょう。ヒマナッツは大きな悲鳴をあげた後、体から黒い煙をブスブスと昇らせてその場に倒れたのです。



 「こうしちゃいられない!早くユウキと合流しないと!」



 私はダッシュしやすい四つ足態勢をとって、小さくなりつつある彼との合流を目指すことにしました。



 「なんか変な声が聞こえる。チカに何も無ければ良いけど」



 …………ボクが飛び込んだこのフロアの広さは相当なものだろう。背後の異変があっても、それが何かハッキリと確認出来なかったのだから。思わず不安を感じたボクだったが、だからといってここで足を止めてはいけないと踏ん張った。待たせているチカのもとへ戻るためにも。



 「早くアサナンを脱出させて、チカのところに戻らないと」



 幸いだったのはアサナンを既に見つけていたこと、それから他のポケモンたちと遭遇せずに済んだことか。瞬く間にその距離は縮んでいく。



 「アサナンだね?ジグザグマが心配してるよ。早く帰ろう?」

 「キミは?」

 「救助隊“メモリーズ”のリーダー、ユウキ。ジグザグマから依頼されてここに来たんだ」

 「ジグザグマから!?アイツと“ちいさなもり”入口でバトルごっこしてたら、いつのにかダンジョンに入ったみたいで途方にくれていたんだよ!!ありがとう!!」

 「どういたしまして♪こっちこそ無事で良かったよ。このバッジの脱出機能を使えば“ペリッパーれんらくじょ”まで行ける。そこでジグザグマも待っているはずだよ♪」

 「そうなんだ…………。なんだかワクワクする!」



 不安から解放された為なのか、アサナンに笑顔が見られる。ボクも嬉しい気持ちを抱きながらバッジを天井に掲げた。次の瞬間、眩い光がアサナンを包んだかと思うと目の前から姿が消える。ダンジョンからの脱出が無事に成功したことを意味していた。



 この結果はボクにも少しだけ希望の光を与えてくれた。それまでの迷いなんかがウソのように消えて元気が出てきたのである。パートナーはその場にいなかったけど、思わずガッツホーズをする。



 「さあ、あとはチカのところに戻るだけだ!!」

 「ユウキ!!」

 「えっ、チカ!?」



 ボクは驚きを隠せなかった。なんと自分のすぐそばには最愛のパートナー、チカの姿があったのだから。



 「心配かけてごめんね。私ならもう大丈夫。ユウキも知ってるでしょ?バッジには体力を自然に回復させる効果があるって」

 「うん………わかるよ。良かった…………元気になって………。チカがいないと心細いから………本当に良かった」



 ボクは思わずチカのことを抱きしめた。彼女は一瞬ビックリして赤面していたが、「もう。大袈裟なんだから」と苦笑いしつつもボクの頭を優しく撫でてくれた。温もりを感じて物凄く安心感を覚えたのは言うまでもない。出来ることならずっとこのままでいたいなんて思ってしまった。きっと彼女も察していただろう。何度も「でも………心配かけてゴメンね。もう大丈夫だよ。安心してね」とボクに優しく声をかけてくれたのであった。






 その後少し時間が経ってボクの気持ちが落ち着いたところを確認すると、チカは「もう大丈夫だね♪」と優しく微笑んだ。ボクはハッとしていたのだが、その間に彼女は自分を抱きしめめているボクの腕をそっと離してスッと立ち上がり、首を傾げながら再び笑ってこのように言ったのである。



 「さ、気持ちを切り替えて…………もうひとつの依頼を達成しないとね!頑張ろうね、ユウキ♪」

 「うん!もちろんだ!頑張るぞ!」



 ボクはガッツポーズを作ってチカに応えた。今度は自分が頑張る番。頑張って彼女にどんどん勇気を与えたいと思った。



 (例え一緒に暮らせなくてもいいや。ダンジョンの中だけでもチカがそばにいてくれるから)



 いつ人間に戻る日…………つまりチカとの別れの日が来るかわからない。でもボクは今のこの………チカと一緒にいられる時間を大切にしていこうと思った。



 その後ボクたちはこの地下2階の全てを歩き回り、依頼達成に必要な“モモンのみ”を隅々まで探した。途中で何度かバトルにはなったけれども、もうそのポケモンたちを寄せ付けることはなかった。むしろ段々とポケモンたちを倒している噂が広がっているのか、自分たちを目撃すると恐れをなして逃げていくポケモンたちの姿が目立つようになってきたのだ。これにはボクも驚かされてしまったが、「出来るだけポケモンバトルを避けたい」と考えていたチカの想いが叶いつつあることに嬉しさを感じたのも事実である。



 (もちろん他のダンジョンでは同じように上手く行かないだろうけど、一ヶ所でも多くこんな風になっていけば良いな)



 しかし、残念ながらこのフロアでは“モモンのみ”を見つけることは出来なかった。救助隊をやっている以上これくらいの結果はそれなりにあることだろう。本来的にイチイチ気にしてはいけないだろうけど、まだまだ駆け出しで経験不足なチーム、“メモリーズ”にはやはり意気消沈する出来事だった。次の地下3階へ続く階段を見つけても、いつものようにハイタッチを交わすことが出来なかったくらいなのだから。



 「もし、次のフロアで見つからなかったらどうしよう…………」

 「チカ………」



 不安そうなチカに上手く言葉をかけることが出来ない。なぜなら自分も同じような気持ちだったから。それに彼女の場合、“ハガネやま”で失敗したときにダグトリオから非難の言葉を浴びたと言うらしいから、なおさらそのことが頭に過って不安が強くなっても不思議ではなかった。



 それでも前に進まなければ何も始まらない……………そのように考えたボクは、黙って彼女の手を引いた。



 「え?」

 「……………ダメだったら仕方ないよ。今回はボクだっている。だから安心して?」

 「うん…………//////」



 少しばかりチカが赤くなる。逆にボクの手をつなぎ、そして腕を掴んできた。その方が安心感があるのだろう。ややバランスが悪かったけれど、ボクはチカと共に階段を下ったのであった。



 「さ、あと少しだ。頑張るぞ!」

 「うん!」



 地下3階。ここが“ちいさなもり”では最後のフロアとなる。正確に言えばまだもうひとつ、この下にもフロアが存在しているけれど、そこはかつてピジョンとオニドリルが棲みついていただけで、行き止まり。しかもキャタピーちゃん救出時に倒したその二匹は、その後目撃情報が無い。そういったところを踏まえても、この先に進むこと自体が無意味だと言っても過言ではなかった。



 「何とかして見つかると良いな、“モモンのみ”」



 もし見つけることが出来なかったら……………そんな不安が消えることはない。二つ引き受けた依頼のうち、一つ成功している………ということは、連絡所に戻ったときにお礼を言われるだけでなく落胆されてしまう微妙な結果になることを意味している。不思議なものでボクたちはこれまで救助活動をしてきて「成功した喜び」よりも、「失敗した悔しさ」の方がずっと印象に残っている。そういう不安を払拭して自分たちに自信をつけるためには、とにかく依頼を成功していくしか無いのだ。だからこそ、今回も絶対に二つの依頼を成功しようと思っていた。



 (大丈夫!絶対になんとかなる!)



 不安な気持ちを無理やり振り払う。しっぽの炎の火力も強まった感じだ。ボクがブレてしまったらチカはもっと不安がるだろう。好きな彼女を少しでも守りたいから、ボクは気持ちを強く持とうと思った。




 「さ、行こうか!」



 チカに声をかける。ところが彼女から返事は無い。おかしいなと思ったボクは後ろを振り返る。と、そのときだ!眩い光と共に「バリバリッ!」と言う大きな音が聴こえてきたのは!一体何が起きたと言うのだろうか!?



 「悪いけどユウキに邪魔させないよ?“さいみんじゅつ”をかけようなんて…………」

 「ううう……………ちくしょう…………」



 どうやらボクのことを狙っていたタマタマから、いち早く守ってくれたようである。ボク自身が油断していたのは論外だが、それよりも彼女がしっかりサポートしてくれていることに安心感を覚えた。



 (そうだよね。チカが頑張っている間にボクが“モモンのみ”を探すことに専念すれば良いんだ!ありがとう……………)



 先ほどアサナンを助けた場面を思い出し、ボクは先手を行く。今のチカなら大丈夫。もしダメだったら彼女の方から助けを求めてくれるだろう。とにかく信頼してあげなきゃダメだろうと思った。




 とはいえその後もなかなか見つけることが出来ずにいた。このままだと本当にココドラからの依頼は失敗で終わってしまう。さすがに“メモリーズ”の中に焦りの色が出てくる。祈る想いで、そして隅々まで見落とすことなく“モモンのみ”を探し続けた。



 …………最後まで絶対に諦めない!!


 …………それが私たち“メモリーズ”なんだ!



 「あっ!!見つけた!!」

 「ホントに!?」

 「うん!!この草の影になっていたよ!」

 「良かった~!!これでココドラの依頼も完了だね!!」



 想いが少しだけ神様に届いてくれたのかもしれない。思わずホッとしてしまうボクがいた。とても柔らかい木の実ということで、形が崩れないようにチカも「よいしょ」っと掛け声をし、そのまま“モモンのみ”を慎重に道具箱へと運んでいった。



 と、そのときだった。赤いスカーフにつけたバッジが光を放ち始めたのは。



   ポワァァ………………

 「あ、バッジが…………」

 「目的を達成出来たから、いつでも脱出機能が発動できるようになったんだね♪」



 少し驚いてしまった自分に、チカが笑顔で説明をしてくれる。



 (そうか…………だとしたら、きょうももう少しでチカと一緒にいる時間も終わってしまうんだな)



 そのように考えると、一段と寂しさが増してくるのを感じた。だけどここで変に弱い姿を見せてしまったら、彼女に迷惑をかけてしまう。きょうはちゃんと笑顔で別れようと自分に誓った。



 「ユウキ、とりあえず早くここから脱出しよう!依頼主のポケモンたちを待たせる訳にもいかないから!」

 「うん、そうだね!!」



 ボクは笑顔でチカに返事をした。それを見て安心したのか、彼女もハッとした後にニコっと笑う。ボクたちはバッジを空高く掲げる!!次の瞬間、温かく優しい光が体を包み込み、ダンジョンから脱出させてくれたのであった。







 「アサナンを助けてくれてありがとう!大した珍しいものではありませんが、お礼です!」

 「僕からもお礼です!“モモンのみ”を見つけて貰えてありがとう!」



 場所は変わって“ペリッパーれんらくじょ”入り口付近にある掲示板前。昨日と同じように、ここでボクたちは依頼主さんたちからお礼の言葉、それからアイテムやお金などを受け取った。



 「こちらこそありがとう♪こんなに喜んで貰えて………私たちも頑張って良かったよ!それじゃあ、帰り道に気をつけてね♪」

 『うん!』



 その後チカはボクを連れて、受付のペリッパーに依頼の成功の証となる“ふっかつメール”を提出した。きょうは同時に二つ依頼を成功したということで救助ポイントも10ポイント入手することが出来た。



 「また少し“メモリーズ”の評価が上がった♪凄く嬉しいな!」

 「良かったね、チカ♪」



 チカの嬉しそうな表情はいつ見てもボクの心を癒してくれる。そして何より可愛いのだ。本当にこのときのために自分は頑張っていると言っても過言じゃないし、これからも彼女のために力を尽くしていこうと気持ちを引き締めてくれた。だが、そんな幸せな時間は長くは続かない。



 (あと少しで、また独りになってしまうんだなぁ…………)



 あと何日この寂しい気持ちを味わう必要があるのだろうか。チカは気を遣ってボクのそばにいてくれた。それもずっと笑顔で。しかも基地にたどり着くまでの間、しっかりと手を握ってくれたのである。



 「私たち基地に着いたね。きょうも一日頑張って疲れちゃったし、早く帰って休もうね」

 「うん。ありがとうね」



 そうして基地に帰って来たときには、夕方になっていた。チカは何にも気にしてないように振る舞っている。でもきっと彼女自身だって苦しいはずなのに。



 「また明日も頑張ろうね♪」



 チカは最後に一言このように言うと、足早に帰途に着いた。ボクは彼女の姿が見えなくなるそのときまで、基地の入り口から離れなかった。少しでもチカの温もりを感じていたかったから。



 「行っちゃった…………」



 ふと呟いたボク。そうしてから空を見上げてみると、夕焼け空に混ざって夜空が広がりつつあった。わずかではあるけども星も輝きを放ち始めている。



 (そういえばここに来てから星空って観たことなかったかも知れない………キレイだなぁ)



 ボクはその夜空にしばし不安な気持ちを委ねていた。人間時代の自分はこんな風に空を見上げて感動などしたことがあったのだろうか?それを確かめる方法は今はまだ無いけれど、何だか少しずつ気持ちが前向きになるのを感じた。



 「よし、ボクも寝よっか♪明日からもまだまだ救助活動は続くし、朝になればまたチカにも会えるしね♪」








 「きょうもちゃんと依頼が成功出来て良かった♪ユウキも頑張っていたし、これで悩みが消えてくれたら良いなぁ………」



 ユウキと別れた後、私はいつものように木の幹の中で丸くなっていました。眠りにつく前一日の振り返ることがいつしか習慣になっていたのですが、その中で私は依頼を成功出来たこと、あるいはユウキのサポートが上手く出来たことよりも、昨日よりユウキに元気が戻ってきたことが一番嬉しかったんだなって理解したのです。



 (ユウキはどんな風に考えているのかわからないけれど、やっぱり一生懸命救助活動をしているときが一番カッコいいな………)




 私は自然と顔が赤くなっているような感じになりました。意地っ張りなところ、ときには物凄く甘えん坊なところ。そのひとつひとつの表情が自分の頭の中から離れませんでした。特にダンジョンの中で強敵に立ち向かうときの表情。それは最も印象深く、自分の心に刻まれていたのです。



 (そりゃそうだよね。だって初めて冒険したとき、あの表情を見たから一緒に救助隊になりたいって思ったんだから………)



 そんな彼の小さな願いひとつも叶えられずにいる私。少しずつ力にはなることは出来ているかも知れないけど、心にはまだ“おくびょう“な自分が存在し続けている証拠なのでしょう。



 (やっぱりあの山火事で“ライ”に、それからエーフィさんにも見捨てられたことが、自分のダメージになっているのかな?だとしたら、本当に悲しいな………)



 いつしか私は涙を溢していました。ユウキならそんな酷いことをしないことくらい、ここまで過ごした時間を考えればすぐにわかることなのに、信じきれない自分がいることが悔しくて情けなくてたまりませんでした。



 (まあ良いっか。明日もまたユウキと救助活動だ。その中でしっかりと力になれるように頑張ろう…………)



 せめて彼と一緒のときは笑顔でいたい。そのように考えながら、私は眠りにつくのでした。





 うわああああああああああ!!

 きゃあああああああ!!!



 「熱い!熱いよ!パパ、ママ!!何が起きたの!?」

 「きっと町の近くにある山が爆発したんだ!!その爆発で飛んできた岩や煙で森の木々に火が付いて火事になってるんだよ!」

 「みんな、早く逃げましょう!!」



 悲鳴や怒号が飛び交う中、私は両親と共に故郷を燃やす猛火から逃れようと懸命になっていました。普段はのどかで町のみんなに笑顔が溢れているのに…………。私たちピカチュウが作り上げた“ピカピカタウン”の思い出は全て猛火に包まれてしまうのでした。もちろん私が生まれて育った家や思い出も容赦なく。



 「えーん!パパ、ママ!どこー!?」

 「すみませーん!誰かー!誰か私の子供たちを見ませんでしたかー!!?誰かー!!」



 炎から逃れる途中、あちらこちらから大切な家族からはぐれた子ども、はぐれた子どもを探す大人の悲鳴が聞こえてきました。みんなの無事を祈りつつ、悲鳴から目を背けるように私は自分を握ってくれている母親の手を離さないように必死になったのでした。



 …………と、そのときでした!!立っていられないほど大地が激しく揺れたのは!



  ゴゴゴゴゴゴ!!

 「きゃっ!?地震!?」

 「そうだね!ママ!チカ!木から離れて地面に伏せて!!倒れてくるぞ!!」

 「でも後ろから炎が近づいてきてるのよ!?」

 「いいから!!僕の言うことを聞いて!」

 「いやあああああああああ!!」



 このとき私はただ父親に言われるがまま、出来るだけ木から離れ、その場に頭を伏せていました。あまりの恐怖に身体の震えが止まりません。当然この間にもどんどん炎は背後から近づいていたわけですから、揺れによる倒木、それから火事による熱気の震え……………その両方の恐怖に耐えていかなければならなかったのです。



 ……………そして、最悪の結末が私に待ち受けていたのです。




        …………メモリー46へ続く。