ソラとココロの溝がこれ以上広がらないように願って決めた「“パートナー”二匹」システム。きっと動揺はあるだろう。だけどこれが“トゥモロー”が少しでも成長できるきっかけになれば良いな。
「なんだよあのカラカラ!威勢が良かったわりには全然弱いじゃねぇか!!」
「こりゃあ滑稽だな!!きっとあのヒトカゲもピカチュウも大したこと無いぜ!」
「楽勝楽勝!!さっさと片付けてしまおうぜ!!」
ココロをいとも簡単に倒してしまった三匹のニドリーノは、完全にぼくたちのことを見下していた。しかもジリジリっと自分たちのところて近づいてくる。
(このままだとやられてしまう………!なんとか反撃しないと!!この悪い雰囲気を変えないと!!)
「ススム!?」
そばにいたソラが驚くのも無理はない。無我夢中でぼくはニドリーノたちに向けて突撃したのだから!!直接触れてしまうと“どく”状態になってしまう「どくのトゲ」を持っている彼らに対して、あまりにも無鉄砲すぎる作戦だと思われても仕方ない気がした。
「鬱陶しい奴め!!返り討ちにしてやるわ!」
「かかったな!!」
「!?」
ぼくがまず狙ったのは中心にいるニドリーノ。恐らくポケモンとしての風習がそうさせているのかも知れないけど、今までグループで襲撃するポケモンの多くがその中心にボスがいるような気がした。ということはこのボスさえ倒してしまえば、一気にグループのまとまりが崩壊するのではないか…………そのように作戦を練ったのである。
「食らえ!!“ひのこ”!!」
「!?アチチ!!」
大きく腕を振り下ろして渾身の“ひっかく”………ではない。トゲに触れなくてもダメージを与えられる得意技、“ひのこ”をニドリーノに向けて発射したのである。これには相手も堪らず怯んでしまう。だが、これではまだ決定打とはならない。すかさずぼくは次の攻撃をしかける!!
「“ひっかく”!!」
「ぐあっ!!」
「まだまだぁ!!もう一度“ひっかく”!」
「ぐあっ!!」
一旦攻撃のリズムを崩されたニドリーノに反撃の余地を与えまいと、ボクはリスクのある“ひっかく”を立て続けに食らわせる!!メラメラと闘志が燃えていることが“どくのトゲ”さえも防御しているのでは無いのか………そんな風に錯覚させてしまう程、今の自分は何も寄せ付けてないような気がした。
「(よし、このまま頑張ればコイツらに勝てる!!)トドメだあぁぁぁ!!」
「待ちやがれ!!」
この時点では、正直のところぼくも勝利を確信していた。そのせいか周りのことが疎かになってしまっていたのである。無論、大切な二匹のパートナーのことも…………。
「そこのヒトカゲ、なめんじゃねぇぞ!」
「仲間がどうなっても良いのか!?」
「え!?」
「やめてください!!」
「助けてぇぇ!!」
背後からココロ、それからソラの悲鳴が飛び込んできた!!慌ててリーダー格のニドリーノの攻撃を止めて後ろを振り返ると、残りの二匹によって彼女たちが拘束されているのが確認できた。
「ギャハハ!迂闊だったな!お前らが来る前に拾っていた“てきふうじだま”が思わぬところで役に立ったぜ!!」
「く、ソラやココロから離れろ!!」
「おっと!少しでも動いてみろ?オレが“ばくれつのタネ”を食べて爆発を起こして、この二匹に醜いケガをさせてやるぜ?」
「ひっ………!!」
“ばくれつのタネ”を前脚でチラつかせてニヤリと嫌な笑みを浮かべるニドリーノ。そんな彼と視線があったソラが身に迫る恐怖を感じてガタガタと震えていた。ココロはまだダメージが治っておらず、十分に体力が回復しきれてないせいか、息を苦しそうにしながらどこか諦めにも似た表情をしていた。
(なるほど。“てきふうじだま”か。確かどこかでソラとココロが教えてくれたっけ。使えばフロアにいる全ての敵ポケモンが「ようすみ状態」という無気力状態に変えて、動きを封じてしまうって…………。だから彼女たちは特に体にキズを負っていたり、別の技で縛られている訳でもないのに抵抗している素振りが無いんだな)
二匹のパートナーを護れなかったことに唇を噛むぼく。本来なら自分も“ようすみ状態”になっても不思議ではなかったけれど、多分“どくのトゲ”を防いでくれたように、メラメラと闘志が燃えていたことで防御してくれたのかも知れない。ひとまずここは彼女たちに危険が及ばぬように、ニドリーノの言葉に従って次なる行動を自重した。
「イヒヒ…………。良いぞ、賢明な判断だ」
「そのままじっとしておけよ」
「たっぷりとお返しさせてもらうぜ!」
「ぐあっ!!?」
ぼくの動きが止まったところを見計らって、リーダー格のニドリーノが“たいあたり”をしてきた!!激痛がぼくの腹部に襲いかかり、衝撃で倒れ込んでしまう。お腹を庇ってうめき声を上げていると、さらに“にどげり”によって壁へと蹴り飛ばされてしまった!!
「ぐあああああああ!!」
「どうだ!?壁にぶつかった感想は!!」
「痛そうだなぁ!!こりゃ滑稽だ!!」
「ギャハハハ!ざまあみやがれ!」
「ススムーーー!!」
「そんな…………」
彼らの言うようにぼくはトゲ状の岩肌の壁にぶつかってしまい、その衝撃で跳ね返って再び地面に叩きつけられた。串刺しにならなかったことだけまだマシだろうけど、それでも急激にダメージは増えていった。当然のことながら痛みも酷くなる。
(このままじゃ、ソラとココロを助けられないまま倒れてしまう……………!)
「ううう…………いやあああああ!!」
「な、何しやがるんだ!!」
「ススムにこれ以上酷いことしないでぇ!私たちを離して!!」
「うるせぇんだよ、この女!!」
「ソ…………ソラ!!?」
私は何とか電撃を放とうと必死になりました。ところがいくら技を出そうとしても未だに「ようすみ状態」が治らず、単に声だけの抵抗になってしまうのです。この行動は当然ニドリーノたちを刺激することになり、この直後“ずつき”をぶつけられてしまいました。私の………特に顔には鈍いながらも激痛が走り、小さく悲鳴を出して気を失うことになったのです…………。
「ギャハハ!!可愛らしい顔に傷が残っちまうだけなのに、何が“ススムに酷いことしないでぇ~!”だよ!もしかしてこのヒトカゲとデキてるのか?」
「仲間も助けることが出来ないヤツのどこが良いんだ!?ギャハハ!!」
「好き勝手なこと言うなぁ!!」
「?」
ソラさんが倒れた後、ニドリーノたちは一斉に彼女のことを貶して大笑いをしていました。その言葉を聞いてあたしは激怒せずにはいられなかった。仲間が傷つけられたことよりも、ソラさんがススムさんと「デキている」と推測されたことが悔しくてたまらなかったのです。
「なんだぁ?カラカラちゃんもこのピカチュウの二の舞になりたいのか?」
「それとも…………まさかお前もヒトカゲのことが気になってるとか?」
「なるほど~。だからさっきのピカチュウよりも良いところを見せようとムキになってるんだな?仲間のくせにバラバラなんだな?」
「うるさい………//////!あなたたちには関係ないことでしょう!?」
「顔が赤くなってやがる!!図星か!ギャハハハ!これは傑作だ!」
ススムさんへの好意がバレてしまい、茶化されてしまうあたし。何とか伏せようとした自分の意識に反して露になっていくことに、情けなさと悔しさを感じずにはいられませんでした。しかもおかげでススムさんの足を引っ張ることになり、ソラさんまでも襲撃される惨状。
つまり、せっかくススムさんが気遣って提案した「“パートナー”二匹」システムが機能出来てないことを意味するのでした。
(何とかしなくちゃ…………!あたしのせいでソラさんに、ススムさんに迷惑をかけてしまったんだから!あたしが何とかしなくちゃ!)
二匹が動けなくなっている今、この悪い状況を打破するには自分が動くしかありませんでした。だけどまだ「ようすみ状態」からは脱出出来そうもありません。そんな状況であんな強気な態度を見せてしまったのですから、ニドリーノたちを刺激することになったのです。
「まあ、どうでも良いや。お前ら三匹まとめて“ばくれつのタネ”の餌食にしてやる!」
「や、やめろーーー!!」
「お前はうるせぇんだよ!!」
「ぐあっ!!」
「ススムさん!!」
ススムさんはあたしたちを守ろうとしてるのか、傷ついた体で懸命に動こうとしました。しかし実質「3対1」という現状。別の方向からニドリーノが“たいあたり”をされてしまい、彼は地面に強く叩き付けられることになったのです。
(なんて無力なの…………。どうしたら?どうしたら良いの?)
もし自由に行動できたら、ススムさんに寄り添って“オレンのみ”を食べさせたり、代わりにニドリーノたちとバトルすることが出来るのに………。そのように考えると悔しさで涙が溢れて来ました。そして何も解決策が見つからないまま、あたしたち“トゥモロー”のメンバーはトドメを刺されることになったのです…………。
ドガアアアァァァァァァァァン!!
「ぎゃあああああああああ!!」
「きゃあああああああああああ!!」
“ばくれつのタネ”を持っていたニドリーノがそれを口に運んでしまったのです。直後に引き起こされた大爆発にあたしたちはもろに巻き込まれてしまい、衝撃と爆風でそれぞれ別方向に弾き飛ばされてしまったのでした。もちろん大ダメージを受けることになり、その苦痛のためにしばらく地面にうずくまって動くことが出来ませんでした。
「ギャハハ!ざまあみやがれ!愚かな探検隊め!」
「これに懲りたらさっさとこの山からいなくなることだな!」
「あばよ!」
最後に微かに聞こえてきたのは、ニドリーノたちのこんな言葉でした。油断と連携の悪さも絡まり、完全に「敗北」してしまったのです。
それからどれだけの時間が経ったのだろうか。ニドリーノを前に「敗北」した事実を突き付けられたぼくもソラもココロも…………無力感に包まれながらトボトボとダンジョン内を歩いていた。幸い他のポケモンに遭遇することはなかった。恐らくニドリーノたちが「探検隊を倒した」として、他のみんなに伝えているのではないのだろうか。ぼくはそんな気がしたけど、残念ながらそれを確かめる方法は無い。あくまでも推測で留まるだけだった。
(まあ、それならそれでも良いけどね。先に進みやすくもなるし。それに…………)
ぼくは自分の右側を歩くソラの方を向いた。彼女の肩からは道具箱が提げられている。しかし、その中にあった回復アイテムは先ほどのバトルでの傷を癒すため、たった1つ“オレンのみ”が残した状態になるまで使い果たしてしまった。それでもダンジョン突入時の状態にまで完全に回復できたかと追及されたら、かなり疑問が残ってしまう。技のエネルギー………つまり“PP”と略される“パワーポイント”に至っては、ほとんど回復できずにいる。
つまり、ぼくたちはいつまともにバトルが出来なくなるかわからない状態にまで追い詰められていたのであった。
(もし………こんな状況で他のポケモンに襲われたら………ぼくたちどうなっちゃうんだ?)
疲れていたり、気持ちが弱っているときにはついついネガティブな発想が浮かびがちなものである。でも“リーダー”である自分が不安を表面に出していたら、“パートナー”であるソラとココロはますます不安に感じてしまうだろう。事実歩むスピードが落ちてしまった自分を気遣って、二匹が「大丈夫?」「何かあれば声をかけてくださいね?」などと、寄り添ってくれた。だけどいつものような笑顔ではない。彼女たちもまた不安そうな表情だった。
そんな重い雰囲気を前に、ぼくはこのままじゃいけないと一掃しようと考えた。そしてある覚悟を決めて、二匹のパートナーへと次のように話しかけた。
「ソラ、ココロ。ここからのバトルは全部ぼくに任せてくれ!」
「え!?どうして?私、ススムに力を貸したいよ!」
「そうですよ、ススムさん!!危険な判断になりかねません!ただでさえ体力的には厳しいんですから、逆に三匹で一緒にバトルした方が…………」
「いや、別行動にしたい。ちゃんと理由もあるんだ」
『?』
ぼくの発言に二匹は反論をした。もちろん彼女たちの不安な気持ちはよく理解できる。そこでぼくは頭を下げてから落ち着いて彼女たちに意図を説明したのである。
「ゴメン、変に不安にさせてしまって。ソラやココロの気持ちはよく理解しているつもりだから、そこは安心して欲しい。というのは、君たちもわかっているように、既に道具箱の中身はほとんど空っぽに近いよね?だから、ソラとココロには木の実とか栄養ドリンクとか………ぼくたちの体力を回復する道具を探して欲しいんだ。その間にぼくは襲ってくるポケモンたちとのバトルをしたり、階段を探したりする。そうすれば、残りひとつしかない“オレンのみ”を温存出来ると思うんだよね」
自分の説明を聞いても彼女たちはすぐに頷いてはくれなかった。まあ仕方ないことだろう。でも頂上付近まで近づいてきた今、ここで変に誰かが倒れることだけはどうしても避けたかった。何せ頂上でルリリを拉致しているスリープは、他のチームでさえも手こずる「おたずね者」。ヤツと対峙するときは三匹全員の力がひとつにならないと厳しいと、ぼくは思ったのである。
「大丈夫だよ。何とかするから。それにぼくはこのチーム………“トゥモロー”のリーダーなんだ。だから君たちを危険から守らなきゃいけないんだ。無茶なお願いだと思うけどゴメン。わかってくれ…………」
「ススム………」
「ススムさん…………」
最終的にぼくは”パートナー“たちに頭を下げた。それだけの覚悟があるから。ここまで来ると受け入れるしかないと諦めの気持ちもあっただろう。ココロが重たい口を開いた。
「…………わかりました。だけどこれだけは約束してください。もし自分でダメだと思うときにはすぐにソラさんやあたしの力を借りることを」
「そうだよ!だって私たちだって、ススムと一緒に探検活動をするって決めた“トゥモロー”のメンバーなんだから!!あなたに全てを背負わせたりしない!」
ソラも怖くて不安な気持ちを抑えて、ココロに続いた。ぼくはハッとして彼女たちの瞳をまじまじと見つめる。
「ココロ………ソラ………。うん、ありがとう!そうだよね。ぼくも含めてみんなが同じ“トゥモロー”なんだ。力を合わせて頑張らないとね!」
下手くそなウインクだったが、ぼくは彼女たちの気持ちに応える。それを目にして安心したのか、ようやく二匹に笑顔が見られた。
(今はまだ全てが思い通りって訳じゃないけど、こうやって力を貸してくれる仲間がいるんだ。何がなんでもルリリを助けて、マリルの所に戻さないとね!)
その後、ぼくたちに襲撃してくるポケモンが現れることは無かった。もしかしたらニドリーノたちが自分たちを“撃退”したことを広めたり、噂になっていたりして安心しているかもしれない。もし本当にそうだとしたら、それはそれで助かる。何せぼくたちはもうギリギリのところなのだから。余計なバトルをしないで体力を温存できれば、ほんのわずかでも気持ちに余裕が生まれてくれる。
まぁ、これって自分の都合の良い考え方なんだけど。今はそれに頼らないといけない状態なのだ。何度も言うように…………。
「なかなか見つからないね、木の実や食べ物…………」
「ダンジョン内にも暮らしているポケモンがいる以上、仕方ない部分もあるかもですね。彼らにとっても貴重な食糧。それをあたしたち探検隊が勝手に採取してるだけですから………」
「……………」
ココロの言葉にソラがしょんぼりとする。自分が憧れ続けて、思い描いてきた“探検隊の理想像”と“現実”の差にショックを隠すことも疲れてきたのかもしれない。
(ソラ、辛いよな。あの日の海岸で目を輝かせて探検隊のことを語っていたときはきっと、探検活動が楽しいものになると信じていたはずなんだから…………。まさかダンジョン内に住むポケモンから冷たい目で見られるなんて考えて無かったよね)
ソラにはずっと笑顔でいて欲しいぼく。なぜなら自分の心を癒してくれるから。それが彼女に恋愛感情を抱かせてくれた理由。だから寂しい表情や悲しい表情をされてしまうと、それを目にしている自分もなんだか辛かった。
………まあ、そんなこと彼女に直接口にすることなんて出来ないけど。
「そうだよね。さっきのニドリーノたちだってここに住むポケモンたちや、自分たちの生活を守るために私たちに攻撃をしてきたかも知れないよね。何でも自分たちの都合の良いように解釈しないで、落ちているアイテムを拾ったときは、ちゃんと譲ってもらっているんだって感謝しないといけないね」
ソラはさすがだ。普通であれば納得出来なくて文句が出てきても不思議ではない場面。しかし彼女は逆に、何度も自分を襲撃してきたダンポケモンたちの言い分を受け止める気でいたのだ。ぼくはますます彼女に惚れてしまった感じがした。一方でココロは少しだけ面白く無さそうな表情を浮かべているのも目にしていたので、その辺は申し訳ない気持ちになったけれど。
(やっぱり優しいなぁ。自分も見習っていかなきゃダメだよね、きっと)
(なんなのよ、ソラさん。そうやってススムさんの気を引こうって言うの?ズルいわ)
その後、ココロもソラに負けじと隅々までアイテム探しに奮闘している様子が伝わった。理由はどうであれ、ぼくのことを考えてくれていることは本当にありがたい。ソラへの想いが強い今、さすがに恋人関係にはなれないだろうけど、彼女にもちゃんと誠意を見せなきゃいけない。
(でも、ぼくの本音をココロに伝えたらどう思っちゃうんだろう。きっとガッカリさせちゃうだろうな。それって本当の意味での幸せって言えるんだろうか…………)
ぼくの中ではココロにその“本音”を伝える場面が見当たらない。むしろ中途半端に彼女からの優しさを受け取っているような気がした。それがかえって彼女の気持ちに大きな傷跡を残すことも知らずに。
(まあ、今はそんなことを考えても仕方ないよね。三匹で力を合わせて頑張らなくちゃ)
自分の中に巻き付いている迷いを打ち消す為にも、とにかく先を急ぐことにした。と、そんなときだった。
「あ、階段だ!先に進めるね!!」
「やった!!」
「この調子で頑張りましょう!」
『オーーーーー!!』
ようやく見つけ出すことが出来た階段。途端に全員が笑顔になる。そしていつものようにハイタッチを交わしつつ、勢いよく昇るのであった。
「7階かぁ。ようやくって感じだなぁ」
「そうですね。その代わりもうボロボロって感じですけど…………」
7階にたどり着いたが、雰囲気はあまり変わらない。もう少しで山の頂上ってのは理解している。でも疲労が溜まっている今の状態では、階段を見つけたときのようなテンションの高さを維持するのは難しい。だからぼくもココロもネガティブ感情になりつつあった。
「でも、まだみんなが揃って探検活動出来ているだけマシだよ!…………だから二人とも前向きに考えよう?みんながいればきっと何とかなるよ♪」
そこへソラが声をかけてきた。恐らくぼくたちの様子を受けて気を遣ってくれたのかもしれない。その証拠に彼女は笑顔だった。ぼくたちと変わらないくらいスカーフもボロボロに汚れて、傷も出来ていたのに。
「うん、そうだね。外で待っているマリルはきっとぼくたち以上に不安なはずだ。早くルリリを助けて安心させてあげなきゃ。その為にここに来ているんだから」
「ソラさん、気合いを入れてくれてありがとう♪」
「いやいや、そんな!…………恥ずかしいよ…………/////」
ソラの気遣いのおかげで、ぼくやココロはまた気持ちを入れ直すことが出来た。その事をココロがお礼をすると、彼女はビックリした様子で謙遜している。だけどこうやって陰でチームを支えられる存在がいることに、ぼくは嬉しさと頼もしさを感じていた。
「よし、がんばろう。動き方はさっきと同じだ。ぼくがバトルに専念している間に、ソラとココロはアイテム探しを頑張ってくれ」
「わかりました。行きましょう、ソラさん!」
「え、ちょっと!?みんなで一緒に行動した方が良いんじゃないのかな!?」
「良いから!良いから!」
ぼくの指示を聞いて何を思ったのか、ココロはソラを連れてどこかへ行ってしまった。ソラもいきなりのことで何がなんだかよくわからず、動揺した様子だった。そんなこともお構い無くココロが引き連れたものだから、あっという間に二匹はぼくの目の前からいなくなってしまった。
「ココローーー!ソラーーー!!あ~あ…………どうしよっか………」
ぼくも二匹を呼び止めようとしたが、時は既に遅し。あっという間にシーンと静まり、急に寂しさが募るのであった。
「でもまあ、先に進むしかないや…………」
そう。“二匹のパートナー”のことが心配になろうと、ここで歩みを止めるわけにはいかないのである。とにかく二匹に何事も無いよう願いながら、先を急ぐのであった。
「………ねぇ!ちょっと待ってよ、ココロちゃん!!一体どういうつもりなの!?」
「ここまで来たら良いかな?」
「?」
私はココロちゃんの突拍子も無い行動に不満を感じながら、後を追いかけました。時間にして五分………、いや十分ほどでしょうか。しばらくして彼女はキョロキョロと何かを警戒するかのように、周りを確認してから歩くのを止めました。それから私に向かってこのように話しかけてきたのです。
「驚かせてゴメンなさい。でも、これもススムさんを思ってなんです」
「どういうことなの?」
ココロちゃんの言葉を不思議に思う私。彼女はさらに話を進めました。
「あたしたちがそばにいたら、彼だって気を遣って自分のことに集中できないような気がするんです。だから別行動になった方が、負担にならずに済むんじゃないかって思って…………」
「そうなんだ…………」
確かにココロちゃんの言う通りかも知れません。だってススムはいつも私やココロちゃんのことなら自分を犠牲にするタイプだったから。
「あたしたちは“パートナー”ですから。常に“リーダー”を支えられる存在にならなきゃいけません。ススムさんのこと、癒せて尽くせる存在になりましょう?」
…………お互い、彼のことが好きな女性としてね…………。
少し鋭めの視線。そこには私を“恋のライバル”として負けたくないって決意、それから“同じ役目”だから一緒じゃないと寂しいって意志が入り混ざって複雑な気持ちを表現しているような気がしました。
「…………うん、そうだね。私だってススムには笑顔でいて欲しいから。少しの間寂しい気分にさせちゃうのが不安だけど、きっと彼なら大丈夫だよね」
私はススムのことを想うばかり、浮かんでくるネガティブな気持ちを抑えようと考えました。そうですよね。お互い離れていたとしても気持ちが離れることは無いでしょうし、「きっと大丈夫」って信頼してあげなきゃ、逆に心配されてしまうことになるでしょうから。
「そうですよ。それよりあたしたちは彼から与えられた役目をしっかり全うしていきましょう?後で合流したとき、目一杯喜んで貰えるように」
「わかった。頑張っていこうね、ココロちゃん!」
そうして私とココロちゃんは再び道具探しを始めたのです。少しでもススムの力になりたかったから。
「いたぞ!探検隊のヤツらだ!!」
「まだこの辺りをウロウロしているのか!?しぶといヤツらめ!!」
「早く追い出せ!!」
「くっ、早速来たわね!!」
「あなたたちには悪いけど、ここで負けるわけにはいかない!」
まだ自分たちが“トゲトゲやま”に残っていることが広まっているのかも知れません。目の前に姿を現したワンリキーたちもきっと同じでしょう。本当なら変にバトルをするのはダメなことかもしれないけど、彼らを始めとするダンジョン内のポケモンたちが、私たちを“侵入者”として敵視するならば、自分たちも追い払うまででした。
「うるさいヤツだ!”けたぐり”!!!」
「くらえ!“からてチョップ”!!」
「“ちきゅうなげ”!」
三匹は合同で攻撃してきました。それもそれぞれ違う技で。私は最初ビックリしたけれど、怯んではいけないと必死に我慢しつつ、赤いほっぺたからバチバチと電撃を放ったのです!!
「“でんきショック”!!」
「うわっ!!」
私が放った電撃は、“からてチョップ”を繰り出して最も接近してきていたワンリキーへと命中!それだけに留まらず、一時的に他の二匹の動きも止まることになったのです。
この一瞬の隙を見逃さなかったココロちゃんが、骨を振りかざしてすかさず追撃をしたのです!!
「これ以上みんなには迷惑かけたくないんだから!“ホネこんぼう”!!」
「なっ!?ぎゃっ!!」
「ちくしょう………覚えてろよ!!」
さすがに私とココロちゃんの勢いに観念したのか、三匹のワンリキーたちは逃げ出したのです。
「勝った…………良かった…………」
「まだまだよ。“パートナー”としてススムさんを支えるためにも、強くなる必要があるのよ。もっと………もっとね」