メモリー43:「本当は私だって」の巻 | 天然100%!今日もがんばるオレンジブログ!

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基本的にはポケモンの二次小説で、時折色んなお話を!楽しく作りたいですね!

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 またひとつチカの気持ちを理解できて幸せに感じる。人間の世界に戻りたいのは確かだけど、チカとも離ればなれになるのも嫌だなぁ。ちょっとでも笑顔な彼女がそばからいなくなると寂しく感じるから……………。


  ダーテングとワタッコの間に起きた問題を解決し、周りのポケモンたちからの尊敬の言葉を浴びながらフーディンたちがボクたちの前を通って立ち去ろうとしたときだった。


 「…………!!」
 「わわっ!な、何か!?……」


 何かを思い出したかのように、突然フーディンがボクの方へ振り返ったのである。ハスブレロはまたしてもビックリ仰天した様子だ。異変に気付いたリザードンが「どうした?」と尋ねるが、彼はしばし沈黙したままでいた。しかし、


 「…………。いや、なんでもない。行くぞ」


 ……………と、一言言い残すと今度こそは立ち去ったのであった。


 「ひゃ~!ビックリしたなあ!もう!」
 「カ、カッコイイ…………」


 フーディン率いるチーム“FLB”が立ち去った後、ハスブレロやチカがこんなことを呟く。ボクは二匹のように変な緊張感や尊敬の気持ちは特には感じなかったけど、最後にこちらを振り返ったことだけは妙に気になった。しばらくその場でボンヤリと考え込む。するとそんなボクにチカが呆れた感じでわめき始めたのだった。


 「ううっ、ユウキ!!ユウキってば~!!」
 「あ、ゴメン………。どうしたの?」
 「どうしたのじゃないよ!私たちも負けてられないよ!“メモリーズ”を絶対に一流の救助隊にしようね!」
 「え、ああ…………うん。そうだね。頑張らないとね」
 「なんだか乗る気じゃないなぁ…………」
 「え!?気のせいだよ!気のせい!がんばろ!ね!!さぁ、きょうも頑張るぞー!!」
 「あっ………………////////」


 チカの怪訝そうな表情に気まずさを感じたボクは苦笑いを浮かべつつ、さりげなく彼女の手を引いてその場を後にするのだった。そのときチカがほんのりと顔を赤くしていたことなど知らずに。


 「…………そうはさせるかよっ!ケケッ!」
 「頼むわよ。あのお調子者ピカチュウをイジメてあげて」
 「任せとけって!しかしまぁ、アンタも悪いヤツだな~!」
 「どうでもいいわ、そんなこと。………あの娘に私たちの真実がバレる前に、救助隊を諦めさせないとね…………ウフフ」
 「ひでぇヤツ♪………にしても、あのピカチュウが“チカ”だったとはねぇ~…………ビックリだよ」
 「そうね。何となくそんな気もしたけど、正体を知ったらますます生かしておくわけにはいかないわ」


 ……………あの山火事であの村に暮らしていたピカチュウたちは全て落としていたハズなんだから……………。たった1匹を除いてね。


 遠くの木の影にいる何者かによって、ボクたちの幸せが壊されそうになっていた。刻一刻と。



 「いつ来てもこの場所は気持ち良い場所だなぁ~」
 「多分森の中だからリフレッシュ出来るんだよ。私だって小さいときは森の中で暮らしていたから、こういう場所の方がリフレッシュ出来るんだ♪」
 「そうなんだ」


 “ちいさなもり”のダンジョン入り口に近づくに連れて、チカが嬉しそうに話をする。ボクはそんな彼女の姿を見ていると、なんだか複雑な気持ちになってしまった。“メモリーズ”を結成したあの日に紹介してくれたあの基地は、もしかしたら彼女が決して住みやすいと言える環境ではなかったから、ボクに譲ってくれたのでは無いかと推測してしまったから。


 (チカは今でもあのエーフィたちと生活しているのだろうか?彼女が救助隊になることを断固として反対していたのに………。色々気を遣ってゆっくりと休めていないんじゃないだろうか)


 チカと出逢ってきょうで8日目。しかしボクは初日以外に彼女から“モーニング”と名乗っていたチームの話を聞いてないことに気付いた。お互い共同生活をしているのに、その日の救助活動を終えて帰宅しても何も会話していないとでも言うのだろうか。確かに不穏な雰囲気をエーフィたちから感じたものの、なんだかおかしい。


 (いいや、ちょっとチカに聞いてみよう)


 せっかく楽しそうに話をしているチカにそんな話を聞くと、多分空気を読めていないと思われるだろう。でも万が一彼女が無理に我慢して共同生活をしていたとしたら、そっちの方がボクには耐えがたい。どうなるかわからない不安はあったけど、深呼吸をしてから質問することにした。


 「ねぇチカ?」
 「どうしたの、ユウキ?」


 案の定チカはキョトンとしていた。そんな表情を見せられてしまっては、ボクも質問することを一瞬辞めようかと躊躇してしまった。だけどこのままじゃきっと落ち着いて救助活動なんか出来ないだろう。そのように感じたボクは覚悟を決めた。


 「いや、大したことないことだろうけどね…………あれからエーフィたちとは上手くやれてる?初日に散々言われようだったけど」
 「え?……………ま、まあ。何とかね」







 (まさかユウキがエーフィさんたちのことを質問してくるなんて…………)


 私は内心ちょっと焦ってしまいました。何とか笑ってごまかせたけど、彼はどこか納得出来てない表情をしていました。


 「そうか。いや、それなら良いんだ。キミからエーフィたちの話を聞いてなかったから気になってね。もしかして住んでるところを追い出されていたり、救助活動の妨害をされているんじゃないかって。ボクの考えすぎだよね、ゴメン」


 あぁ、そこまで勘づかれているのかなぁ。これ、いつかバレてもおかしくないよね。でも本当のことはまだ言えないけど。


 「ユウキは私のこと心配してくれてるんだね。ありがとう♪優しいね、ユウキ」
 「どういたしまして。もし何かあってエーフィのところに居づらくなったら、こっちで一緒に暮らしても良いんだからね?」
 「うーーーーん、大丈夫だって。ユウキってば、やたらと私と暮らすことばっかりに拘っているね?なんか変だよ?どうしたの?」
 「それだけ夜一匹でいるのが寂しいんだよ。今朝のボクを見てるんだから、それくらいわかってるだろう?」


 真実を隠した笑顔でごまかすと、ユウキは残念そうにしていました。本当は彼の提案に従うことが私にとって良かったのに、どうしても素直になれませんでした。でも仕方ないですよね。だって………、


 「ユウキ、気持ちはわかるけどね。やっぱ私には男の子と一緒の部屋で暮らすって抵抗あるよ。せめてベッドが二つあればまだ良いかも知れないけど、一つしか無いんだよ?やっぱり無理だよ。ユウキを疑っている訳じゃないけどさ…………」



 私はユウキを少し引き離そうと思いました。異性とチームを組めばどこかでそういう恋愛感情が芽生える…………みたいな話も聞いたことはあったけど、私にはまだ展開が早すぎました。それでも彼は諦めきれなかったのか、しばらくは困惑したように私の「OK」サインを待っていたのです。さすがにこうなっては私も多少イライラしてきました。嘲笑しながら、それも強い口調で「なんなの?男の子らしくないね?ユウキのこと、少し見損なった!いい加減にしないと電撃をぶつけるよ!?」と言い放って警告したのです。その言葉を受け止めた彼が涙目になっていることなんて知らずに。


 そうです、最初に彼に甘えていいって言ったのは自分の方だったのに、自らの保身のために私は彼を強引に避けたのでした。サイテー。



 でも結果的に彼はその後しばらくの間、「一緒に暮らそう」ということを口に出さなくなりました。私がまだエーフィさんと暮らしているというウソを信じてくれたのか、それとも最悪自分と別れて独りぼっちになることを恐れたのか…………理由はよくわかりませんでした。でもこれで救助活動に集中出来そうなのは間違いありませんでした。


 (それくらいあの山火事で“ライ”に見捨てられたのがキツかったんだろうな。ゴメンね、ユウキ。あなたは悪くないのに傷付けてしまうことを言って……………)


 昨夜の気持ちは私の本当の気持ちです。人間に戻りたいって話すユウキに“パートナー”として尽くしていけば、もしかしたらこの世界に残りたいって気持ちが出てくるかも知れない。そしたら私も一緒に暮らそうと言う気持ちを素直に言えるかも知れないから。


 だから彼が寂しがっていたり、甘えたいときにはその気持ちが無くなるまでしっかりと優しく接するつもりでした。そんな気持ちを騙してしまうほど、あの山火事で当時一緒にいた彼氏に見捨てられた出来事が邪魔をしていたのです。


 いずれにしても、それからしばらくユウキが 私の顔色を伺いながら接していたことには変わりありませんでした。








 「とりあえず依頼主のヒノアラシを助けられるように頑張ろう!どうやらこの森にダンジョンがあるのがわからなくて迷いこんだみたいだよ。場所は地下3階だから…………奥まで入ってしまってるね!」
 「そうだね。早く助けてあげないとね!」


 
 こんなに何度も気まずい雰囲気になっても、気持ちを入れ直すのは早い。その辺はさすがにここまで“メモリーズ”として頑張ってきている仲間として認めあっているんだな、と感じさせる。ボクとチカはお互いに右手で握りこぶしを作って空に突き上げた。自然と気合いが入っていく。そして楽しさまで感じていた。


 そしていつものように、彼女は笑いながら言うのである。


 「がんばっていこうね、ユウキ♪」


 チカの笑顔は目にする度に何か不思議な力をもらっているように感じる。今はボクのせいでまだ心の距離がかなり離れているようにも感じるときもあるけど、少しずつでもそういうものが無くなれば良いなと願わずにはいられなかった。


 「あの赤いスカーフ!さては救助隊だな!?先には進ませないぞ!!」
 「うわっ!!」


 “ちいさなもり”はこれで三度目の突入となるが、やはり以前とは雰囲気がところどころ変わっている。ダンジョンは突入する度に構造が変化するから当然だけど。相変わらず住んでいるポケモンたちは神経質だったし。この場面でも早速ポッポが二匹、“つばさでうつ”でボクとチカに突撃してきた。一瞬ビックして怯んだボクたちではあったが、何も知らなかったあの頃とは違う。



 「ぎぇっ!!」
 「大丈夫かお前!!そうか!ピカチュウの“せいでんき”のせいか!?」
 「そうだよ!!迂闊に私の体に触ったら痛い目に遭うんだから!!」


 ただでは転ばなくなった。特にチカは。すぐに気持ちの切り替えや追撃が出来るようになったのだから。自信のみなぎる表情が何よりの証拠だ。すっかり怖じ気づいたポッポたちはその場から逃げようと懸命になる。


 「これでキミたちも動けないだろう!?くらえ!“ひのこ”!!」
 「あなたも逃がさないよ!“でんきショック”!!」
 『うわああああああああああああああ!』


 しかしボクたちはポッポたちが逃げ出すその前に、お互い特意としている技をぶつけた。次の瞬間、彼らは体から黒い煙を立てながら目を回して倒れたのである。


 「よし!先に進もう!!」
 「うん!!」


 何となくだけど技のパワーが強化された感じがする。それだけではない。体の動きや反射神経も良くなっている感じもした。


 (これがポケモンのレベルアップってことなのかな?何だかそのうち人間だったことを忘れちゃいそうだぞ?…………?)



 ボクは正直この変化を喜んで良いものかと困惑してしまった。ポケモンとして成長をする反面、人間としての自分を否定している感じもしたからだ。まぁ出逢ったときのチカの反応を見る限りでは、この世界に人間は存在していないだろうから、現時点で人間としての自分を考えても仕方ないような気もするが。


 「どうしたの、ユウキ?」
 「へ!?いやいや、何でもないよ!」
 「そうなの?何だかボッとしている感じがして心配だったけど……………何にもないなら安心だね♪」
 「うん」


 背後から語りかけてくるチカの笑顔がいつにも増して可愛い感じがしたのは何でだろう。やっぱり少しずつ気持ちが傾いているのだろうか?不安から逃げたくなったときに甘えさせてくれるから?それともボク自身が、常に彼女の為に何か出来ることが無いかと考えてしまうから?とにかくこの二人っきりの時間が幸せでたまらなかった。



 (本当にずっとずっとそばにいてくれたら良いのにな、チカが)


 ボクの本音は何一つ変わってない。むしろその気持ちが強くなる一方だ。だけどさっき彼女から一種の牽制を受けてしまったことで、その気持ちを素直に出すタイミングは完全に無くなってしまった。恐らく今度タイミングを間違えたら、ボクは確実に彼女から失望されてしまうことになるだろう。



 (そうか。ボクは多分不器用なんだろうな。想像以上に。それを周りに見せたくなくて強がろうと無意識に演技しているのかもしれない)


 これでボクが段々弱くなっているような気がした原因を理解できた。そういう意味では訳のわからない不安から解放されて、ようやく迷いを捨てて前進できるような気がした。


 (チカとの関係を今考えても仕方ない。今は“メモリーズ”の名前を広めていかないとね!それが彼女との約束なんだから…………)


 必要以上に自分の心に言い聞かせるボク。わずかな時間でもチカの笑顔を見たくて仕方ないのかもしれない。


 そうしている間にもボクたちは他のポケモンたちと度々バトルを繰り広げた。それだけでなくこれから先の救助活動にも必要になるであろう、木の実やリンゴもいくつか拾って道具箱へと入れた。ポケもいくらか落ちているのを見かけたので、それらも貴重な蓄えとして地道に集めていく。


 「あっ、階段だ!!これで次に進めるね!」
 「うん、一歩前進だ!」


 ボクとチカは笑顔でハイタッチを交わす。いつしか階段を見つけたときのパターンとなっていた。この時間がまた自分にとっては幸せの時間。まだまだ頑張らなくちゃって気持ちになれるくらいの力を受け取れるから。









 「そう言えばユウキ?」
 「ん?どうしたの、チカ」


 地下2階に降りた直後だった。チカが何かを思い付いたように話しかけてきたのだ。


 「私、さっきアイテムを拾っているときに気が付いたんだ。もしかしたら仲間を入れなくても良かったかも知れないって」
 「また急にどうしたんだい?」



 昨日まで仲間を増やしたいと意志表示をしていたのに、ここにきてチカは突然ボクに同調してくれたのだ。一体なぜなんだろう…………そんな風に考えているとチカはこのように教えてくれたのである。


 「仲間が多いってことは、それだけ道具をたくさん使う可能性があるってことだよね。それって救助活動が長期化すれば不利になる可能性もあるって意味だと思うんだ。もしかしたら全員に必要としているアイテムが届かない可能性だってあると思うし……………」
 「そっか…………そうだよね」
 「あんまり考えたくないけど、それで仲間割れが起きちゃうかもって不安が浮かんできちゃった。もし本当にそんなことになったら、私…………凄く悲しい気持ちになっていたかもしれないね………」
 「そうだね。ボクはそこまで深く考えていなかったけど、チカの感じている不安が全く起こらないって保証はないよね」



 チカは先のことを読まずに意見を通そうとした自分を責めているのだろうか。かなり落ち込んだ様子でボクを見ていた。だからと言って彼女にマウントを取ろうとは思わない。もし本当に何かしらの原因で“仲間割れ”が起きたとしても、それはチームをまとめきれない“リーダー”の自分が未熟と言うことを意味しているのだから。


 さらに彼女はこんなことも言った。

 
 「ユウキならそんなことしないよね。むしろ無理してでも困っている私を助けようとしてくれた。だからあなたと一緒にチームを結成出来て本当に良かった。色んな不安を感じずに済んでいるし。これってある意味奇跡に近いなって。だから…………」


 …………私、もっとあなたを支えられるように頑張るね♪すべての時間は無理だとしても、私と一緒にいる間は不安や寂しさを感じずに済むように…………。


 また同じことを繰り返しちゃったな。もう読者さんも呆れちゃってるかも知れないな。でもちゃんと気持ちを伝えないと。私の気持ちををユウキが理解しようって頑張ってるように、私もユウキの気持ちを少しでも理解出来るように。


 私の話を聞いているとき、ユウキはちょっと恥ずかしそうにしていたと思います。だって然り気無く近付いたら視線を反らしたのですから。でもその姿がなんだか可愛く感じて、ますます自分の中に彼を支えたい気持ちが強くなっていくのでした…………。


 …………地下2階ではチカがケムッソに糸を吐かれて身動きを出来なくなるアクシデントがあったけど、そこも経験だろう。以前なら震えるばかりで助けを求めることしか出来なかった彼女も、この場面は落ち着いて“でんきショック”で糸を焼き切ってすぐさま反撃に転じたのである。もはやこれくらいの出来事ならボクがサポートしなくても対処できるくらい、彼女も強くなっていたのである。もちろん嬉しいのは確かだったけど、何となく寂しさも感じた。彼女が強くなるということは、逆に言えばボクから離れていくような気もしたのだ。


 一方のケムッソはチカの行動に怯んでしまったのか、悲鳴を上げながらその場から立ち去ったのであった。


 「追わなくていいの?」


 ボクはケムッソを見送るチカに尋ねてみる。すると彼女はこのように答えたのである。


 「いいんだよ。だってケムッソから戦意が無くなっているようだし、多分イタズラだったと思うからさ。それに出来るだけバトルでの被害を出さないためにもね。彼らと私たちは同じ“ポケモン”だから」
 「そうか……………」



 救助活動のためにダンジョン内に住んでいるポケモンたちを必要以上に傷つける行為は、救助隊の評価を下げることにつながる…………そのことはチカから何度も聞かされたことだった。そして彼女も必死にその“暗黙の了解”を守ろうと必死だった。


 「“悪者扱い”されなきゃ、私たちも今よりずっと救助活動がラクになると思うし、エアームドのような犠牲者を減らすことも出来るはずだから。本当は争いなんてこの世界には無かったことだから…………さ、行こう?」


 チカに言われてボクもまた歩き始める。そうだよね、チカはみんなが安心して暮らせる世の中にしたいって言っていたもんね。だからなるべく話し合いで誤解を解こうと必死に行動していた。強さよりも優しいが欲しいって言っていた。その全てがきっと本音なんだよね。


 (なれるよ、きっと。キミの望んでいる世界に。だから頑張っていこう。ボクも頑張るから)


 チカの言葉に小さく頷き、ボクはまた先を歩いていく。ボクとチカ、二匹だけのチームだけどボクたちの熱意はどのチームよりも強いと思いたい。



 「いたぞ!よくのうちの子供に手を出してくれたな!!」
 「救助隊の仕業だったのね!?許さないわよ!」
 「ドクケイルとアゲハント!?…………ってことは!?」
 「さっきのケムッソの親ってこと!?」


 そんなボクたちの前に姿を現したのは、どくがポケモンと呼ばれる種族のドクケイル。それからちょうちょポケモンと呼ばれる種族のアゲハントだった。チカの発言通り、種族が異なるこの二匹のポケモンはどちらもケムッソが成長を遂げた姿である。


 思わずボクもチカも動揺してしまう。何せこれまで二度の冒険ではケムッソは住んでいることは把握していたけれど、まさかその進化形まで姿を現すなんて思いもしなかったのだから。想定外にもほどがある。


 (だからといって逃げるわけにはいかないや!!タイプの相性的にはボクたちの方が有利だし、普通にやれば倒せる相手だろう!!)


 ボクはグイッと赤いスカーフを軽く引っ張りながら、キッと視線を鋭くさせて二匹に照準を合わせる。横に並んでいたチカもボクのそんな姿で察したのだろう。同じような動作をしてバトルへと気持ちを合わせていく。………そうしてお互いに息を合わせ………叫んだ!!!


 『うおおおおおおおおおおおお!!』


 ボクは口から炎を、チカは赤いほっぺたから電撃を繰り出した!!エネルギーのチャージに要する時間が短縮してきているところから推測するに、やはりボクたちのバトルはレベルアップしてるのだろう。


 「私たちが炎や電気が苦手だからって甘く見ないで欲しいわ!!“ぎんいろのかぜ”!」
 「俺も“ぎんいろのかぜ”!」
 『!?』


 進化形はやはり違う。ボクたちの技に臆すること無くすぐさま迎撃してきた。しかも繰り出した技は部屋全体に影響を与える“ぎんいろのかぜ”。二匹が羽をバタバタ扇いだ風に乗って銀色の鱗粉が散らばっていく。


     バチッ!!バチッ!!
 「うっ…………くっ!!」
 「イタッ!!」


 それほど大きなダメージにはならないけど、体や顔に当たると痛い。おかげで集中力にも欠けてしまい、戦意も奪われる感じがした。でもそれだけじゃ済まされなかった。


 「“つばめがえし”!!」
 「“サイケこうせん”!!」
 「な!?早い!?うわあああああ!」
 「きゃああああっっ!!」


 なんとボクたちがもたついている間に、更なる攻撃を二匹から受けることになったのである。いや、もたついていた訳ではない。反撃への準備は出来ていたが、その前に攻撃をされてしまったのだ。ということは相手の“すばやさ”がアップしていることを意味している。


 「どうだ!“ぎんいろのかぜ”で全ての能力がアップしたら、相性の良さも関係無くなるだろう?」
 「子供を攻撃したこと、この場所を荒らしたことを後悔することね!!」


 二匹はこのように言うと更に攻撃を仕掛けてきた。…………でも、今のボクたちはこんな程度では怯んだり怖じ気づいたりはしない。そのことをチカが言葉に出して二匹へと放った!!


 「動きや能力が一時的にアップしてもそれを封じてしまえば問題ないよ!!“でんじは”!!」
 「続けて“えんまく”!!!」
 「きゃあ!!」
 「なっ!!!」


 チカの機転がこの空気を変えた。でも“でんじは”だけではどちらかの動きしか封じることは出来ない。この場面ではアゲハントの動きを封じることが出来たが、ドクケイルはそのままだった。そのためボクは彼に向かって“えんまく”を放つ。視界を奪ったことで技が全く命中しない“からぶりじょうたい”へと陥ったのである!


 「よし!このチャンスを活かすよ!!もう一度、“でんきショック”!!」
 「そうだね!“ひのこ”!!」
 「きゃああああああ!」
 「うわあああああああ!」


 チカの一言で再びボクも技を放つ。結果的に二匹はその一撃で倒すことが出来たのである。彼女はやっぱり頼もしい存在になっていた。1週間前、この場所で出会ったときとは比べ物にならないほど落ち着いて、むしろボクの方が導かれているような…………そんな気がした。だからこそ安心してボクも精一杯の力を出しきることが出来たと思う。


 「よし、先を急がなくちゃ!!行こう、ユウキ!」
 「え!?あ、うん!!」


 真剣な眼差しのチカに促されて、ボクはまた先を歩く。彼女はあくまでも“パートナー”としてサポートに徹してくれた。「あくまでもあなたが中心なんだよ」と言わんばかりに、決してボクの前を歩こうとはしなかったのだ。以前二匹で決めた基本的なフォーメーションを守ってくれているだけかもしれないけど、ボクの気持ちを尊重してくれていることが何よりも嬉しかった。でもすべてが満足できているってわけじゃない。


 (救助活動だけでなく、たまにはオフというかプライベートな時間でも一緒に過ごせたら良いのにな…………)


 もし、こんなことを口にしたらチカに二度と口を聞いてもらえなくなる可能性があったので、ボクはもどかしい気持ちを抱えるしかなかった。この救助活動が終わって連絡所で任務完了を届け出したら、自分はまた独りぼっちの夜を過ごさないといけない。そう考えると、なんだか足取りが重くなってしまった。


 「もうっ、ユウキってば。ボッとしちゃダメだよ?!」
 「えっ?あ、うん。ゴメン」


 そんなボクの背中をチカが軽く押してきた。優しさが溢れる満面の笑みを浮かべて。その姿を見ていると自然と気持ちが癒されていく。本当に彼女には助けられてばかりだ。


 (…………そうだよね。ずっと一緒だもんね。ずっと一緒だから朝早くからボクのこと迎えに来てくれるし、困ったときや辛いときに寄り添ってくれるんだ。他に誰も友達がいないこの世界で、それだけでも十分幸せなことなんだ…………。噛みしめていかないとね………)
 「え?」


 気がついたらボクはチカの手を握りしめていた。キョトンとした様子で彼女はそんなボクを背後から見つめている。せめてこのダンジョンを歩いている間、一緒に救助活動を頑張っている間くらいは彼女のことを離したくはない。そんな気持ちが強くなっていたのだ。


 ……………芽生えてしまったこの想いは、きっとボクが人間に戻る日が来たとしても消えない記憶になるだろう………。



 「見て!階段だよ!!」
 「やったね!いよいよ次は地下3階!ヒノアラシが待ってる場所だよ!!」
 「あともう少しだ。頑張っていこうね!!」
 「うん!」


 ボクたちは笑顔でハイタッチを交わすと、その階段を足早に降りていくのであった……………。



         …………メモリー44ヘ続く。