27Days:「隔だりを生む決断~トゲトゲやま#4~」の巻 | 天然100%!今日もがんばるオレンジブログ!

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基本的にはポケモンの二次小説で、時折色んなお話を!楽しく作りたいですね!

 なんだか緊迫感が無くなってきてるのは気のせいかなぁ。もうひとつのポケダン小説、「めもダン」はあんなにダンジョン内の冒険が緊迫感溢れる様子なのに、なんでこっちはこう毎回毎回ちょっとずっこけた感じになるんだろうな。


 ……………教えましょう。それは探検活動という名のピクニックと化してしまってるからだ!!


 …………はいすみません。冗談です。


 「もうムックルもドードーたちも姿が見えなくなってきたね」
 「そうだね。きっとさっきの私の電撃のことも噂で広がっているだろうし、他のポケモンが来たとしても対処できる余裕も生まれたからね」
 「余裕?」
 「ええ。あたしたち自身がポケモンバトルを積み重ねてきた経験値が実力のレベルアップに繋がってきてる感じがしますよね?技のパワーアップだったり、バトルの時の動きだったり。こうやって少しずつ一流の探検隊に近づいていくんですよ」
 「そうか…………」


 ぼくはソラやココロの説明を聞いて、ふと自分の手を見つめる。自分じゃよくわからないことだけど、きっと周りから見たらぼくだってそれなりにレベルアップをしている可能性はあるのかもしれない。どんな理由であれ、今は“ヒトカゲ”としてこの場所にいるのだから。


 「それでもさっきのソラさんの電撃はいくらなんでも強すぎな感じがしましたけどね。集団で襲ってきたムックルを一度の攻撃で撃退するなんて、実力のあるでんきタイプのポケモンでも難しいのに」


 そんな中、ココロが苦笑いを浮かべながらさっきのソラの攻撃のシーンを振り返る。確かに普段の彼女ならあんなに強力な電撃を繰り出しているシーンはそれほどないだろう。ぼくも何となく気になってはいた。それに対してソラはそんなぼくたちにニッコリと笑ってこのように答える。


 「さっきのはね、作者さんがいつまでもシナリオを進めてくれないから特別に強くしといたんだよ♪」
 「いやいや、そんな簡単にパワー調節出来るんだったら、このあとの“あすダン”の話がわざとらしく感じるじゃん…………」
 「エヘヘ…………」


 まさかの内容にぼくはひやひやしてしまう。しかしこれがわざとではなく、ただ純粋に答えているだけだろうから、ぼくも彼女のことを変に責め立てることは出来なかった。


 そうこうしている間にぼくたちは4階のほとんどを歩いていたようだ。その間にダンジョンに住むポケモンたちと何度かバトルをすることにもなったが、これらも落ち着いて乗り越えることが出来た。それはさらにぼくたちのバトルの実力がさらにレベルアップしていったことも意味していた。


 「なんだかお腹が減ってきたな………」
 「大丈夫?」


 ダンジョンを歩き回ると自然に体力を回復できる代わりに、空腹になりやすいデメリットがある…………確かそのように教わったことがあったけど、こうも簡単に空腹を感じやすいものだろうか。ソラが心配してぼくの顔を覗き込んできたわけだが、なんとも情けなく感じるのは恐らく気のせいではない。


 「我慢しなくて良いんだよ?ちょっと休んでさっき拾った“あおいグミ”でも食べよう?」
 「ごめん、そうさせてもらうよ」


 ソラの計らいでぼくたちは一旦休憩することになった。まだまだ先は長い。無理に強がって苦しい目に遭うよりはマシだろう。先走るぼくの気持ちに問いかけてくれた彼女には感謝だ。さすが“パートナー”を自負するだけのことはあるなって思った。


 「ちょうどよく3つ見つけてたんだ。みんなで一緒に食べよ♪はい、ココロちゃん」
 「あ、ありがとうございます……………」
 「はい、ススム♪」
 「ありがとう」


 ぼくたちは大きめの部屋に地面に座り込むようにして“あおいグミ”をムシャムシャと食べ始める。正直あんまり好みの味ではない。どうやらその種族のタイプによって好みのグミは異なっているらしく、例えばぼくみたいなほのおタイプには、こないだの“あかいグミ”の方が好きな味のようである。でも、せっかくソラが見つけてくれたんだ。何より今の空腹な状態ではワガママを言うわけにもいかない。このあとだっていつ食べ物にありつけるのかわからないのだから。


 (ダンジョンの中を探検するって、想像以上に大変なんだな……………)


 改めてだが、ぼくはこのとき探検隊の大変さを思い知ったような気がした。



 「ごちそうさま♪これで少しお腹は満たされたかなぁ」
 「そうですね。少し元気が出てきました」
 「先を目指して頑張ろうか!」


 階段を見つけたのはそれから間もないときだった。一気に表情が明るくなるぼくたち。いつものようにハイタッチを交わして次のフロアへと向かった。







 5階になっても特に雰囲気は変わらない。なんとなく不気味さが増した感じもするが、それも恐らく気のせいだろう。それよりも段々頂上に近づいて来ているというなが、ぼくたち“トゥモロー”の心の支えになっている感じもする。同時に絶対にマリルの元へルリリを戻さないといけない…………失敗は許されないというプレッシャーも強まってきているせいか、何となく緊張感が高まっている印象が強かった。特にソラに関しては元々怖がりな部分があるせいか、人一倍不安を感じているみたいだ。思わずこんなことをボソッと口にする。


 「だ、大丈夫だよね。私、ちゃんと探検隊の役割を果たせているよね?」
 「急にどうしたんですか?大丈夫ですよ。ソラさんは要所でチームに貢献出来ていますから、自信持っても大丈夫ですよ♪」
 「そうだね、ココロの言うようにソラだって頑張ってる。困ったときのフォローには本当に救われているよ?」
 「ススム…………」


 安心感を覚えたのか、ソラの目にはうっすらと涙が浮かぶ。そして何度もぼくたちに向けて「ありがとう」と感謝の気持ちを口にしていたのである。しかし、直後にそれは悲鳴へと変化した。何事かと思ったが、近くにポケモンの姿は見当たらない。しかし、ここでココロが彼女のそばに落ちていた小さな石ころに注目した。


 「これは…………“いしのつぶて”!ススムさん、もしかしたら近くにポケモンが潜んでるかも知れません!気を付けてください!!」
 「え!?」


 彼女のその言葉にぼくは一瞬動きを止めた。と、その次の瞬間だ!そのとき左右に伸びる通路に一足入っていたがために、ぼくは真横から何かの衝撃で吹き飛ばされてしまうことになったのである!!


 「うわあああああああ!」
 「ススムさん!?」
 「いやあああああっ!!」


 その光景を目にした二匹…………特にソラが悲鳴を上げてしまう。しかし、そうして意識をぼくの方に向けていたために、ぼくにとって最愛のパートナーにも危険が及んだ。


 「きゃあ!!何これ!?た、助けて!!」
 「ソラさん!!」
 「っっ!?」


 気が付いたときにはソラの体に糸が絡んでいたのである。しかもそれだけでは終わらなかった。その糸を吐き出したポケモンのレベルが高かったのかまるでその糸自身が意図を持つように、“まきつく”や“しめつける”のように彼女の黄色い体をキツく締め付けていたのである。


 「く、苦しい…………!助けて!!死にたくない!死にたくない!!」


 このままでは冗談抜きでソラが糸で圧迫されて窒息する危険があった。焦りと恐怖と息苦しさで完全に彼女は冷静さを失っていた。本能的に電撃を繰り出してもがくばかり。


 「落ち着いて!大丈夫!大丈夫ですから!」
 「んー!んー!…………!?」
 「ソラァァァァァァ!!」


 ココロが必死になってソラを落ち着かせようとしたが、その間にも糸の締め付ける強さは増していたようで、とうとう彼女は声を出すことすらままならないくらいになっていた。絶望を感じて死が過ったのか、そのつぶらな黒い瞳は見ているぼくたちの方でさえ、気持ち悪くなるくらいに大きく見開いていた。


 …………このままでは本当にソラが死んでしまう!………そのように結論付けたぼくは、なんと彼女の体を飲み込む勢いの巨大な炎を浴びせたのである!!これにはココロも目を疑っていた。体力を急激に奪われたソラにとって致命的なダメージにならないかと不安を覚えたからだった。


 「きゃああああ!!熱い!熱い!いやあっ!」
 「ソラさん!!ソラさぁぁん!!ああ…………なんてこと………」


 炎に包まれたことでソラの苦しみは二重になった。一瞬暴れた後に彼女は倒れた。その光景を眺めることしか出来なかったココロは絶望しか感じてなかった。まさか仲間どうしでこんな地獄絵図のようなことが起きてしまうなんて、想像したくなかったのだろうから。


 …………でも、ぼくはこうするしかソラを助け出す方法は無いと思ったのだ。彼女を助け出す方法を探している時間なんてなかった訳だし、ああいう糸は恐らくむしタイプのポケモンが吐き出したものと断定して間違いないだろうから、だったら丸ごと炎で焼いてしまう方が手っ取り早いに違いないから。


 (許してくれ…………許してくれ)


 それでもソラへの罪悪感が無かった訳ではない。むしろぼくのことを好きと言ってくれてる女の子に酷いことをした自分が憎たらしかった。これで彼女のぼくに対しての気持ちが変化しても文句は言えない。


 ……………だからこそ!!!


 「えっ……………//////////!?」
 「………………!!」


 ぼくは傷ついたソラの体を強く抱きしめた。青空のようなスカーフさえも黒焦げになってしまうほど、哀しい現実を突き付けられた彼女を強く守り抜くんだって強い意志を言葉でなく、行動で伝えたい一心で。一人の男として。


 ココロは悲しかったかもしれない。そんなぼくの姿を見て、自分には気持ちが向いていないことを悟ってしまって。自分も目の前にいるヒトカゲが好きでたまらないのに、愛することも愛されることも許されない現実を見せられてしまったのだから。


 (あたしは………やっぱり孤独なんだ)


 決して仲間外れにされた訳ではない。むしろ目の前で愛しあってるヒトカゲとピカチュウは温かくて自分に存在価値を与えてくれたのだから、感謝でいっぱいだった。でも、自分には足を踏み入れてはいけない境界線が存在している……………そんなことを考えてはいけないのだろうけど、考えずにはいられなかった。そういう意味ではココロが心理的な孤独を感じるなんて無茶にも程があった。


 …………つまり、ぼくはこのときソラだけでなくココロのことまでも傷付けてしまったことを意味していた。









 「うううう………………」
 「大丈夫?ゴメン、本当にゴメン!」


 ソラはまだ腕の中で苦しんでいた。その度にぼくは彼女を抱きしめる力をより強くする。離ればなれになって不安にならないように。いつでも自分がそばにいることを示すために。幸いにも彼女を苦しめていた糸は先程の一撃で焼きちぎれていた。だけど炎を浴びた代償は予想よりも大きく、苦しそうな呼吸をぼくは感じていた。…………そんなときだ。


 「ススムさん、この場所にいては危険です!先程の攻撃も誰がどこからしてきたのかわからない以上、またやられる可能性は否定できませんから!!」
 「そ、そうだね…………!!」
 「ソラさんのことはあたしに任せてください!!」
 「…………!!」


 その時のココロの表情をボクは忘れられない。わずかな時間ではあったが、彼女の瞳は確かに涙が溢れていたのだ。


 (ココロ…………ゴメン)


 そうだ。ぼくを好きでいてくれる女の子はソラだけでは無かった。ぼくは心の中でこのように呟いた。さっきみたいなソラだけを庇うような行動は控えなきゃいけない…………だってココロだってぼくを何度も助けてくれた存在であることに間違いは無いのだから。


 (ぼくは二匹のことを守っていかないといけないんだ。例えどちらかと運命の赤い糸で繋がっていなかったとしても…………)


 読者さんからは苦言を呈されたり、もしかしたらここで読むことを止めてしまうかもしれない。或いはバッシングを浴びる可能性もあるかもしれない。でも、ぼくはこのような決意を固めてしまったのだ。


 (誰かを好きになるってこんなに辛いんだな…………)


 人間時代の記憶が全く無いので、過去に自分が恋愛経験があるかどうかはわからない。けれどもっと輝かしいものかもしれない恋愛のイメージは、この時点で脆くも崩れ去ったのである。



 何はともあれ、まずはこのピンチを脱出しないとどうにもならなかった。ココロのアドバイスに従ってぼくたちはその場所から退避する。しかし、どこから相手のポケモンたちが攻撃してくるか全くわからない。ひとまずソラのことはココロが“オレンのみ”を食べさせてくれたので、ある程度傷は回復出来ていた。でも万全とは言い難いので引き続き彼女がソラに付き添ってもらうことにした。


 (ダンジョンの中を歩いていけば、バッジの効果で少しずつ体力は回復できるはずだ。逃げることとソラの回復。一石二鳥だな)


 危機的状況だったが、少し時間が経って気持ちが落ち着いたような気がした。そのおかげで冷静に物事を考えられるようになったのは良かった。思惑通り、ソラの傷が少しずつ癒えていく。呼吸もだんだんラクになってきたのか、今はまるで寝息のようになっている。ココロもそのことに気付いたのだろう。緊張感があった表情がだんだん和らいでいくのがわかった。


 「ス…………ススム?ココロちゃん?」
 「ソラさん!?」
 「気が付いたんだね!良かった…………」


 そうしている間にソラが目を覚ました。ココロもぼくもホッと安心した。しかし問題はここからだった。ぼくと目が合った瞬間、ソラは「ひぃ!!」という悲鳴を上げてブルブルと震え始めたのである。


 「怖い………怖いよ!!来ないで!!熱いよ!!」
 「え…………?」
 「ソラさん!大丈夫ですよ!!落ち着いてください!ススムさんは敵じゃないですから安心してください!」


 ソラのその振る舞いにぼくの頭の中は真っ白になってしまった。ココロが声をかけて必死に落ち着かせようとするが、パニックになっているソラには全く届いていないようだった。そう、優しくて癒しの笑顔をもたらしてくれるソラは姿を消してしまったのである。彼女にとって今のぼくは自分を襲う敵としか見えていないのかもしれない。


 (ぼくは…………ソラを助けたかった…………その一心で行動しただけなのに…………)


 このときぼくは理不尽さに爆発しそうになっていた。さっきまでの罪悪感なんてどこかに飛んでいってしまうほどに。じゃあキミはあのとき糸に締め付けられたままで良かったの?ぼくだって好きで炎を浴びせた訳じゃないのに。どうしてそんなに拒む必要があるんだよ。


 (やっぱり周りなんか信用できない。せっかくその人の為に頑張って行動しても、その意味を受け入れてもらえないから)


 自分のモチベーションは一気に落ちてしまった。同時に気持ちが独り善がりになりそうな感じがして嫌になった。何となくだけど、自分の中に潜んでいる“もう一人の自分”とリンクする気がして、気持ちがますますネガティブな方向へ動いていくのを感じていた。


 (やっぱり自分は人間だったんじゃなくて、時折顔を覗かせるあの姿が本来の姿なのかもしれないな…………)


 どうしようもない不安がのしかかる。一度は忘れることが出来た不安が。ピクニック気分から一転、ぼくたち“トゥモロー”は重い空気が支配することになり、三匹の間に何か隔たりが出来てしまうことになったのである。










 その後、ぼくたちの目の前に正体不明だった相手ポケモンが姿を現すことになった。それは次の6階へと続く階段を見つけたときだった。


 「きゃ!!」
 「ココロちゃん!?」
 「ココロ!?大丈夫か!?」


 突然背後からココロの悲鳴が飛び込んできた。ソラがぼくを敬遠していたのを気遣ってくれ、彼女を守りながら共に行動していたココロとは必然的に距離が離れてしまっていた。その結果、ココロのことも危険から守ることができなかったのである。慌てて背後を振り返ると、そこには顔色を悪くして苦しそうにしているココロの姿があった。


 「もしかして…………また毒が!?」


 すぐにぼくは勘づいた。この雰囲気は1階のときの同じだと言うことに。だとしたら、すぐに“モモンのみ”を食べさせないといけない!


 「ソラ!!ココロに“モモンのみ”を食べさせてあげて!!」
 「いやあっ!!」


 ぼくは決断をすると、ソラへ指示に指示をした。道具箱を提げて大切に管理しているのは彼女だったから。だが、当の彼女はぼくと目線が合っただけで、何か化け物にでも襲われているかのように悲鳴を上げた。しかもその後に「お願い!来ないで!」ブルブルと震えながら、ぼくが近付くのさえも拒んだのである。この状態で不用意に近付いたら、防衛本能が働いているであろう彼女から電撃を浴びてしまうかもしれない…………と、ぼくは思った。ピカチュウとは自分が危機的状況になると、本能的に電撃を放つ種族なのだから。


 (だとしたら早くあの階段を上らなきゃ!次のフロアにさえ進めばココロの毒だっけ抜けてくれるはずだから…………)


 ぼくはそのように決めるとココロの右腕を肩に乗せて、二人三脚のような感じで階段を目指すことにした。今いる場所から100mあるかないか。だけど万全ではないココロを庇いながらの移動だったこと、ソラのことも気にして背後を確認しながらの行動だったので、実際にはかなり距離があるような感覚だった。しかもどこからどのポケモンが襲ってくるかもわからない状態。今までも何度かあった危機的状況にまたしてもぼくたちは遭遇してしまうこととなったのである。


 (せめて相手のポケモンがどこに潜んでいるのかさえわかれば…………!!)
 「きゃあああああ!!」
 「な、ソラ!?」
 「ソラさん……………」


 突然ソラの悲鳴が飛び込んできた。ハッとしてぼくとココロが後ろを振り返る。その光景に絶望すら感じてしまった。なぜなら彼女は足元か突き上げる形で吹き飛ばされていたのだ。恐らく“あなをほる”だろう。地面に叩きつけられた衝撃に苦しんでる間に、またその足元から同じように“あなをほる”の攻撃を受けてしまうという悪循環。回避なんてほぼ不可能な状態。



 「うぐっ!!助けて!お願い!やめて!!」
 「誰がやめるかってんだ!!トドメにこれをくらえ!!!」
 「や、やめろーーーーー!!」


 襲撃していたポケモンはイシツブテの進化系、ゴローンだった。彼が手にしていたのはこのダンジョンの壁を作り上げている尖った岩石。自慢のスピードを活かした動きを封じられている今の彼女にとって、あんなものを避けられる余裕は恐らくない。ぼくは焦りを隠せなかった。


 だからと言ってココロを置き去りにしてゴローンの方へ向かうことなんて出来ない。やむを得ずぼくはその場から炎を放つことをしたのである。さっきの出来事ですっかり本能的な恐怖を感じてるソラには申し訳ないが、このピンチを切り抜けるにはそれしかない。


 (勘弁してくれ、ソラ!!)
 「!!?」
 「ひ!!いや!!熱い!!怖い!!やめて!やめてーーーーー!!!」


 巨大な炎がゴローンの体を飲み込んだ。知らず知らずのうちに、まだ正体がよくわかっていないあの「もう一人の自分」が出てきたようで、火力が恐ろしいほど強くなっていた。いくらほのおタイプの技に耐久性があるゴローンでも相当なダメージになっている感じがする。もちろん…………ソラにも。


 「あちぃ!!てめえ!!やりやがったな!アリアドス、やっちまえ!!」
 「!!?」


 ゴローンがそのように指示をすると、天井から糸が落ちてきた。でも何か様子が変だ。


 (糸に何か刺さってる!?これは…………“どくばり”か!?)


 ぼくは慌ててその糸から離れた。一本だけではなく小さな針が何本も刺さっていたので、不用意に触れるだけでも毒が回る危険性がある。しかし、問題はここからだった。


   シュパッ!!
 「うわっ!!」
 「逃がすかってんだ!探検隊なんかにこの山を荒らされてたまるか!」


 天井からアリアドスが何度も糸を発射してきたのである。勢いも相当なのだろう。「ガン!!」と床に突き刺さる音が何度も聞こえては、その場所に小さな穴ができた。


 (あんなのに巻き込まれたらひとたまりもないぞ!!何てヤツだ!!)


 ぼくは天井を這っているアリアドスを見て恨めしくなってきた。しかし、ここで立ち止まる訳にはいかない!ココロを助けるためにも!ソラからの信用を取り戻すためにも…………階段を上って6階にいかないと!


 「負けるもんか………………ぐっ!?」


 再びココロを肩に担いで出発しようとしたときだった。ぼくは何かが背中にチクリと刺さったような痛みを感じた。一瞬“どくばり”かと思いヒヤリとしたけど、その割には体に痛み以外の変化は感じない。だとしたら?


 「簡単には逃がさねぇよ!!“ミサイルばり”でじわりじわり痛ぶってやるぜ!!」
 「く………出来るならやってみろ!!」


 “ミサイルばり”ならば致命傷にはならない。だけど“どくばり”やあの猛烈な糸をランダムに発射している以上、見分けるのは難しい。しかもヤツは天井を這って移動しているので、頭上から狙い撃ちされる可能性があった。


 (とにかく早く逃げないと…………!ココロとソラを連れて!!)


 ぼくはココロだけでなく、ソラのことも気になって仕方がなかった。相変わらずぼくに対して異常な恐怖感を感じたままなのか、あるいはゴローンに放った炎の余熱によるダメージが残っているのか、原因は定かではなかったけれど彼女はまだ動けないままでいた。ダメージを負わせてるとはいえ、まだゴローンを倒しきれた訳ではない。となればきっとソラに何らかの危険が及ぶ可能性は十分存在した。


 (よし…………意地でもソラも連れていくぞ!みんな一緒のチーム、“トゥモロー”のメンバーだから!!)


 気まぐれなリーダーって思われても仕方ない。けれど、やっぱりぼくにはメンバーが全員揃わないままで階段を上るなんて出来なかった。なんだかんだ言いつつも、階段を見つけたときに三匹でハイタッチを交わすあの場面が好きだった。だからこそ、ここもみんなで階段を一緒に上りたい……………そんな気持ちが出てきたのである。



 「オラァ!!いつまでそこでじっとしてるつもりだ!?」
 「ひいっ!!」
 「お前が何もしねぇって言うなら、こっちから攻撃させてもらうぜ!!」
 「いやぁ!!」


 ゴローンはますます荒ぶっているように見えた。のっしのっしと近づく度にソラが頭を抑え、体を丸くしてその場でブルブル震えながら悲鳴を上げている。このまま無事で済まされるような気配はしなかった。


 (だからと言ってここで炎を放つのは厳しいな。これ以上ソラに辛い気持ちにさせる訳には……………!!でもゴローンは離れた場所にいるし、ココロを担いでいる今はそんな素早い動きは不可能だ………。一体どうすれば良いんだ………!?)


 歯がゆい想いをぐっと食いしばって打開策を模索するぼく。そんなときだった!!毒に体を蝕まれ、呼吸も苦しそうなココロが「えーい!」と一声出して握りしめている骨をゴローンに向けて投じたのは!!


    ガツン!!
 「ぐあっ!!!」
 「ふぅ………ふぅ………あたしだって仲間のピンチを見過ごす訳にはいかないですよ!ふぅ………ふぅ………この“ホネブーメラン”、あなたにはかなりダメージになっているでしょう!?」
 「生意気なヤツだ!このクソ女が!!」
 「!!?」


 技名にブーメランってあるだけあって、ココロが投じた骨はゴローンの体に直撃すると再び彼女の元へ戻ってきた。一方で骨が直撃したゴローンはその場に一瞬うずくまったがすぐに起き上がって、より攻撃的な視線でココロを睨んだのである。しかも“ホネブーメラン”はじめんタイプ。いわタイプのゴローンには“こうかはばつぐん”だった。そのこともますます彼の怒りを増幅させてしまい、その感情に身を任せた“すてみタックル”を繰り出してきたのである!!


 逆に言えば、この動きのおかげでソラに迫っていた危険は回避されたことになるのだが。


 「こっちに近づくな!!」


 ココロの機転をここで無駄にするわけにはいかない。そのように考えたぼくは迫ってくるゴローンに向けて思い切り炎を放ったのである!!もうソラのことを考えなくても良くなったこの場面。迷いはどこにもなかった。


  ゴオオオオォォォォォォォォ!!
 「うわあああああああ!!」


 “ひのこ”と呼ぶには火力が強すぎるその炎はゴローンを再び飲み込んだ。悲痛な叫びがフロアに響く。しかもこれだけでは終わらない。彼の後ろからソラが何か“ふしぎだま”を取り出したのだろう。天井へと掲げたアイテムは目も眩むほどの眩い光を放った。次の瞬間、ぼくやココロの視界がハッキリしたそのときに目にしたのは、岩肌がトゲのように剥き出しになった壁のギリギリ前までゴローンが吹き飛ばされ、そのまま完全に倒れていた様子だった。


 効果が切れたことを示しているのか、ソラが天井へと掲げた“ふしぎだま”は空のような青さから一転、曇天のようにグレー色になって力無く地面に落下したのである。


 「ソラ…………大丈夫?」
 「ススム…………」


 ぼくはソラに恐怖感を与えないように気遣いながら、ある程度の距離を保って声をかけた。無表情なところを見ると疲れもあるのだろう。いつもなら自分に駆け寄ってくる彼女も、その場から一歩も動かなかった。


 「あれは…………“ふっとびだま”?」


 あたしはそんな二匹のやり取りを見ながらポツリと呟いたのです。



          …………28Daysへ続く。