鼻の下を短くしたいというご希望の患者様が私のもとには多く来られます。
鼻の下を短くする手段の1つとして、人中短縮術(リップリフト、Lip Lift)という手術があります。
人中短縮にも幾つかの方法がありますが、鼻下を直接切開する人中短縮術が最も一般的です。
内容ですが、ざっくり言うと、小鼻の端から端まで皮膚を切開切除することで鼻下の長さを短縮する、というものです。
この手術ですが様々な問題点があります。
【1】傷
あらゆる美容外科手術のなかでも、傷が特に目立ちやすい手術と言えます。
なるべく目立たなくなるように様々な工夫は行っておりますが、どの程度目立つようになるのかは個人差となります。
よって、私は患者様に「生涯に渡って人前でノーメイクになれない可能性があります」とご説明しています。
【2】口唇の形の変化
この手術では、口唇の真ん中が特に吊り上がります。逆に、口角の位置は全く変化しません。
それにより口唇の真ん中だけが分厚くなり、いわゆる「富士山型」の上唇となります。
これは基本的には良い形状とは言い難く、鼻の下は短くなったものの綺麗でなくなった、という可能性があります。
また、口角の位置が変わらないのに中央が吊り上がるため、口角が下がったように見えます。
さらに、口唇の上下の厚みにもバランスがあります。
このバランスも変化して、悪い方向へ行く場合もあります。
【3】鼻の形の変化
唇側を鼻側へ押し上げるような形になるので、術後は小鼻がかなり広がります。
数ヵ月単位で徐々に落ち着いていきますが、最終的に術前と比べるとわずかに小鼻が広がる場合もあります。
また、鼻柱(鼻の穴と穴の間)部分が下に引っ張られます。
これは整容的には良い場合もありますが、術前の状態によっては鼻の穴が目立ちやすくなる可能性があります。
ですので、適応の判断が極めて難しい手術であり、どの美容外科医でも出来る手術ではないと言えます。
【4】ダウンタイムの長さ
この手術は、術後にかなり腫れます。
また、口唇の真ん中周囲が強く吊り上げられ、かつ口も非常に閉じにくくなるので、術後数日の見た目は本当に酷いものです。
自分の執刀例でも1例ありましたし、他院での執刀例でも術後2~3日目くらいに、あまりの見た目の醜さに錯乱状態になって来院された患者様を何人か診察した経験があります。
術後1週の抜糸の時点でもまだ口は閉じにくく、腫れも少しは改善するもののまだ強い状態です。
術後1ヵ月でかなり腫れは収まり、術後3ヵ月程度でようやく95%くらいの完成となります。
よって、腫れを隠すために人前ではマスクの着用が必須であり、術後3週~2ヵ月程度は人前でマスクを着用しなければいけない可能性があります。
【5】後戻り
そもそも、鼻の下が長い人短い人がおられますが、今の鼻の下の長さは、基本的に口を問題なく閉じるために必要な長さです。
すなわち、鼻の下が長い人は上あごの骨や歯など、骨格自体が長い、或いは前方に突出しているため、それでも楽に口が閉じるために鼻の下が長いわけです。
事実、私のもとに鼻の下が長いのが気になると相談に来られる方の90%以上が上顎前突(ほとんどの方は上下顎とも前突しています)という状態です。
骨格を変えずに皮膚や皮下組織のみを短縮した場合、もちろんですが口が閉じにくくなります。
そうすると困るので、ある程度楽に口が閉じるようになるまでは後戻りする傾向があります。
どの程度戻るかは、術後早期から数ヵ月のアフターケアを如何に頑張るかにもよりますが、30~70%程度は戻る印象です。
上記【1】~【4】のようなリスクを冒しているにも関わらず、ある程度戻ってしまうのです。
これらの理由により、鼻の下短縮希望で私のもとに来られる患者様のうち、9割程度の方はお断りする形となります。
鼻の下が短く見える代替手段は幾つかあり、こちらの適応の方が遥かに良いというパターンも多いのですが、鼻の下の長さに固執する患者様にはこちらの提案を受け入れて頂けないことも多く、歯痒い思いをすることもしばしばです。
鼻の下を短くする手術は、ご自身での適応の判断が極めて難しく、また、正確な判断が出来る美容外科医も極めて限られているため、まずはカウンセリングにお越しいただくことを強くお勧めします。