秘密
ある町の旧家に美しい娘が家族と暮らしていた。
その娘に一目惚れした男が是非嫁にと思い、間に人を立てて見合いを申し込んだ。
しかし、娘は見合いの席に出ることを拒否し、話は流れた。
だが男はどうしても諦め切れない。
対面して結婚を断られるなら諦めもつくが、会ってさえくれないのはなぜななのか?
その理由が分かれば結婚は諦められるかもしれない。
そう思った男は、ある興信所に娘の調査を依頼した。
探偵は早速調査を開始した。
そして調査を進めるにつれて、その娘が過去にもたくさんの縁談を断っていたことが判明した。
だが不思議なことに、その理由が全く浮かび上がってこない。
既に婚約者のような立場の男がいるのでは?
という一番の可能性は、聞き込みによって否定された。
周囲の評判も悪くないし、悪い仲間がいるという訳でもない。
縁談を断るだけで、ことさら男を毛嫌いしている風も見えない。
頑なに結婚を拒否する理由がどうしても見つからないのだ。
興信所では鳩首協議の結果、「女性にしか分からない何かがあるのかもしれない」
という結論に達し、調査を女性の探偵に委ねることにした。
女探偵は対象の女性を尾行するうちに、彼女が銭湯の利用者であることを発見した。
「何かつかめるかもしれない」。
そう考えた女探偵は客を装って銭湯に入り、それとなく彼女に接近した。
だが目立つ傷跡もなければ刺青の類もない。
ここまで調査したのも無駄だったかな・・・と諦めかけた時、
彼女の足先を見て愕然とした。
足の指が全部で六本あるのだ。
次の瞬間、女探偵はすべての事情を理解した。
彼女は夫になる男性にこれを知られたくないために、縁談をことごとく断っていた
のに違いないと。
興信所で調査員をしていた知人が、上司からこんな話を聞いたのは、
もう40年以上も前のことであった。
謎の「せいたみせ」
5年ほど前、川崎市の某所で働いていた。
田園都市線の二子新地駅から歩いて行くのだが、その途中に「せいたみせ」
という小さな食料品店があった。
勤め先からの往き返りの度に、その不思議な店名が気になった。
「みせ」は店だろうが、「せいた」がわからない。
「せいた」という人が経営者なら、「せいたの店」か「せいた屋」と名付けるのではないか?
それとも「急いた店」か?いや、そんなことはあるまい。。。
などと考えながら、店の前を通り過ぎると他の事に考えが移ってしまう日々が続いた。
だがある日、どうしても店名の由来が知りたくなり、思い切って店のドアを開けた。
そして店番をしているおばあさんに、その質問をすると、こんな答えが返ってきた。
「うちがここで商売をする前に、「せいた」という人が住んでいた。
そして商売を始めたのですが、近所の人が
”せいたさんがいた所なんだから「せいたみせ」がいい”
と言ったので、店名にしたのです。」
私はこの答えを聞いて、ア然とせざるを得なかった。
自分の名前を店名にするのなら分かるが、前住者の苗字をそのまま名前にしてしまうというのは、聞いたことがなかったからである。
しかも、「せいた」でも「せいた屋」でも、「せいたの店」でもない。
そのままストレートに「せいたみせ」なのだ。
店の名前の由来にはいろいろあるが、こういう形のネーミングはちょっと例がないのではないか?
だが、有名企業の名前の由来にも、こうした意表を突いたものが多いようだ。
いくつか例を挙げると、
・ブリジストン:創業者の石橋氏の石(ストーン)と橋(ブリッジ)をひっくり返した
・サントリー:創業者の鳥居さん→さん鳥居→サントリー
・カルビー:カルシウムとのカルとビタミンのビを結合
などがよく知られている。
また、飲食店のネーミングにも「え?」と思うようなものがある。
例えば広尾にあるレストラン「アガリ」は、「お上がりください」に由来。
秋葉原のカレー屋「トプカ」は、トップカレーを縮めたもの。
横浜の中華料理店「上重朋文」は、店主の名前をそのまま使っている。
こうして見てくると、「せいたみせ」はそんなに特異な命名ではないのかもしれない。
しかし、店名の与えるインパクトは、上記の各社を上回るものがある。
それは、上記の各店のような機知やヒネリが全く見られないからであろう。
そんな「せいたみせ」の発展を祈念致します。


