終戦前後の都市伝説(3) 「食べていい?」
以下に記す都市伝説も、戦後の混乱期に流布していたものらしい。
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家事に追われて忙しく働く母の耳に、隣の部屋から子供の声が聞こえた。
「お母さん、食べていい?」
声のした部屋には二人の子供がおり、おやつを食べながら遊んでいるはずだった。
「ああ、いいよ。いちいち聞かないで好きに食べな。」
母はそう返事をした。
炊事・洗濯などに時間を費やしてホッと一息ついたとき、何かおかしいことに母は気付いた。
子供の声がしないのだ。
なんとも言えぬ不安感を胸に、子供のいる部屋のふすまを開けた母の目に、信じられない光景が飛び込んできた。
畳に座り込んだ小学生の兄が、横たわった幼い弟の二の腕に、むしゃぶりついているのだ。
あたりには大量の血だまりが出来ていた。
母は悲鳴を上げながらも兄に飛び掛り、グッタリとなった弟から引き離した。
そして兄に向かい、「おまえ、なんてことするの!」と叫んでその頬を叩いた。
兄は頬をさすりながら答えた。
「だって食べていいって言ったじゃないか・・・」
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この都市伝説も米軍ジープの話と同様、真偽のほどは不明である。
まるでブラックユーモアのようなオチがついており、全くの創作かもしれない。
しかし、戦後混乱期の厳しい食糧事情を伺わせる内容で、その意味では価値のある話かもしれない。
終戦前後の都市伝説(2) 米軍ジープの恐怖
戦後混乱期のある街に、米軍のジープがやって来た。
自動車自体が珍しかったこともあり、近所の子供たちがあっという間にジープを取り囲んだ。
米軍人は用事でどこかへ行ってしまったので、子供たちは悪戯の限りを尽くした。
だがそのうちにある子供が部品を壊してしまい、彼らの間に戦慄が走った。
そこに運悪く米軍人が戻って来た。
部品を壊されたことを知った彼は激怒し、犯人の子供を探してジープに乗せ、アクセルを踏んだ。
向かった先は近くの外科病院だった。
彼は子供を医師の前に突き出し、
「コイツの手を切れ。二度と悪さができないようにな。」
と怒気も露わに命令した。。
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この話はここで終わっており、医師が本当に子供の手を切断したのかどうかは
伝わっていない。
また実話かどうかも分からない。
しかし、この都市伝説の元になるような事件は、きっと山ほどあっただろう。
当時の米軍=GHQが、国民からいかに恐れられていたか、それを察することのできる話ではある。
終戦前後の都市伝説(1) 謎の地下トンネル
昭和20年の終戦の前後、世間には奇妙な噂話がいろいろ流布していたらしい。
大正生まれの親から聞いたそんな話を書いてみようと思う。
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戦局が悪化し、本土決戦も避けられないと予想した軍部は、長野県松代に大本営を移設する事を計画し、大掛かりな工事が開始された。
戦争末期、この事に関連したある噂が世間に流れていたという。
「皇居と松代大本営は、秘密の地下トンネルで結ばれている」
という突拍子もない噂である。
親からこの話を聞いた時、あまりの荒唐無稽さに、ア然とする他なかった。
江ノ島と富士山を結ぶ地下道があるとか、東大寺のお水取りで使う井戸水は福井県から地下を伝わって来たものだとか、そういった伝説と同じ種類のもので、全く信じる気にはなれなかった。
しかし、6・7年前にある本を読んでから、
「噂話として一笑に付すことは出来ないかもしれない・・・」
と考えるようになった。
その本は、秋庭俊の「帝都東京・隠された地下網の秘密」である。
内容はかなり複雑で、文章表現も真相をぼかしたような記述が目立つが、
著者が言いたい事の核心は、
「現在の東京の地下鉄網は、戦前にその原型が出来ており、皇族・政府高官・
高級軍人などだけが利用していた。」
ということになるだろう。
にわかには信じられない内容で、トンデモ本の一つに加えられることもあるのだが、かなり真実が含まれているという印象を受けた。
特に目を引くのが、築地から皇居の地下を経由して、中央線の新宿に至る
「新宿線」の存在である。(現在の新宿線とは別の路線)
有事の際にはこの路線を利用して、皇族が避難するのを主目的として建設された地下鉄であるらしい。
もし帝都に大きな災害が起きた場合、皇族はこの新宿線を利用して新宿まで逃れ、そこから中央線で松代の大本営へ・・・というルートも想像される。
そう考えた時、上記の都市伝説が思い出されるのだ。
この「皇居-(地下鉄新宿線)-新宿-(中央線)-松代」というルートが、「ここだけの話」として人から人へと伝えらて行くうちに、「皇居と松代の間には地下トンネルが造られている」という都市伝説に成長していったのではないか?
このように想像をふくらませてみたのだが、これを信じる人はほとんどいないだろう。
しかし、上で紹介した「東大寺の井戸水は福井県を源流とする」という伝説は、東大寺の荘園が福井にあったという事実を元に生まれたとも言われている。
つまり、「火のないところに煙は立たぬ」という格言が当てはまるのだ。
だとすれば、戦時中の地下トンネル伝説も、何らかの事実を基礎にして生まれた可能性もあるわけだ。
この問題に関してはまだ書きたい事があるのだが、今回はこの辺で。
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