居酒屋の神様
家の近くに、長く続いている小さな居酒屋があった。
腰の曲がったおばあさんが一人で切り盛りをしている店だった。
カウンターにはいつもお茶の入った湯呑み茶碗が置いてあった。
しかし、おばあさんがそれを飲むのを見たことがなかった。
ある時気になって、
「その湯呑みは何か意味があるのですか?」
と訊いてみた。
すると、おばあさんからこんな答えが返ってきた。
「お店の神様に飲んでいただこうと思ってね」
数年前におばあさんは亡くなり、今は別の店になっているが、
その前を通る度に、あの湯呑みを思い出す。
店が長く続いたのは、そんなおばあさんの心がけがあったからと思われてならない。
「雨男」考
グループでどこかへ行く時に、ある特定の人物が参加していると必ず雨が降る・・・といったことがある。
彼らは雨男・雨女と呼ばれ、歓迎されない存在となっている。
この現象は単なる偶然に過ぎないのか、それとも雨男・雨女に、雨雲を呼ぶ力が備わっているのであろうか?
私はこの現象についてあれこれ考えて来たが、現在のところ以下のような仮説を立てている。
彼らは、雨に誘引される「何か」を備えており、本人の意思とは無関係に雨の降る場所に引き寄せられてしまうのではなかろうか?
つまり、上記のように彼らが雨雲を呼ぶのではなくて、雨雲が彼らを引き寄せているのではないかと思うのである。
以前、ある女性モデルがかかわると、その関係者は皆不幸になるという話を聞いたことがある。
しかしこの場合も、彼女が周囲のものを不幸にする魔力を持っていると考えるよりも、将来不幸になる人々に吸い寄せられてしまう「何か」を備えていると考えた方が自然ではないだろうか?
無論、雨雲を呼ぶ能力を持った超人や、他人を不幸にする魔力をもった怪人が、全く存在しないとは言い切れない。
だが割合から言うと、こうした能動型は少数派であって、ほとんどの場合は上に記したような受動型ではないかと思っている。
地震の前兆を感じて興奮したナマズが、地震の元凶のように誤解されて来た過去があるが、この現象は雨男・雨女を考える上で大変参考になると考えている。
これらの事に関連して、まだ書きたいことがあるが、眠くなったので別の機会に譲ろうと思う。
ポンポンおじさん
1980年代後半から90年代前半にかけて、日本はバブル景気の真っ最中だった。
この時期に不思議なおじさんたちが何人も登場したことは、以前オペラおじさんの項に書いた事がある。
そうしたおじさんの中に、ポンポンおじさんがいた。
彼は朝のラッシュアワー時に鉄道の沿線に立ち、チアガールのポンポンを持って電車の乗客に向かって振っていたのだ。
人々の好奇心に応えるようにテレビも彼を取材したが、その番組によると、
・名前は金城博吉、沖縄県出身のクリスチャン。
・神学を学ぶために上京し、東京の大学に入学。
・ポンポンを振るのは通勤・通学の人々を応援するため。
といったプロフィールだった。
つまり彼の奇行の原動力は宗教心に基づいていたらしいのだが、そこで思い出されるのがオペラおじさんである。
私は「オペラおじさんの情熱」を書いた際、彼が駅のホームで大声で賛美歌を歌うのはキリスト教の布教が目的ではないか?と推測したが、ポンポンおじさんの告白はその考えを補強してくれるように思うのである。
とにかく、この二人のおじさんの共通点にキリスト教があることは、大変に興味深い事実であるが、活躍の時期までがほぼ同じというのもおもしろい。
90年代の半ばにバブルがはじけ、景気が悪くなると共にオペラおじさんは姿を消したが、このポンポンおじさんも人々の前から消えて行った。
だが今から10年ほど前に、ポンポンおじさんはテレビに再登場した。
彼は郷里の沖縄に戻り、今度は道路沿いに立ってポンポンを振っていたのだった。
それから大分経つが、その後の消息は伝わって来ない。
だが彼は幸福な晩年を過ごしているような気がする。
ポンポンおじさんに幸いあれ!
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