秋の星空は夏や冬に比べて寂しい。夏の大三角(ベガ/アルタイル/デネブ)や冬の大三角(シリウス/プロキオン/ベテルギウス)のような明るい一等星がほとんど無いからである。
アンドロメダ、カシオペア、ペガサス、ペルセウスなど、秋にはロマンチックな星座が多いが、これらには一等星がない。秋の星座で一等星と言えば、みなみのうお座のフォーマルハウトだけである。この黄色く輝く一等星は、別名「みなみのひとつ星」とも呼ばれる。
そんな「みなみのひとつ星」が遠くに輝く星空の下、ある四角いもの(炬燵である)を神輿のように担いで運ぶ3人の男たちの姿があった。
PのマンションからZの下宿まで、片道10分ほどだった。とにかく、麻雀するためには炬燵をPのマンションまで運ぶしかなかった。
その日、麻雀が始まったのは午後9時を過ぎていた。だが、麻雀をしてわかったのは、Pが麻雀のルールすらちゃんと知らなかったことである。どうも「いつも自分が親だ!」と勘違いしているようだった。当然にして、東・南・西・北の場風もよく間違えた。
「何やねんこいつ!ほんまに高校時代雀荘を渡り歩いたんかいな?!」それが真実なら、Pの一家は一財産失っていただろう。我々の間で、Pに対する呆れと苛立たしさが、次第に怒りへと変わっていった。Pのチョンボが多発する中、無意味な夜は更けていった。
Pの部屋には大型の冷凍冷蔵庫があった。中にはビールやワイン、また生ハムや瓶詰めのアスパラガスなど、我々貧乏学生には見慣れない食材が詰まっていた。Pは麻雀しながらそれらを飲み食いしていたが、我々も「これもらうで!」と勝手にいただくことにした。
Pが手づかみで食材を食べるので、新品の麻雀牌が油でベトベトになった。この男、行儀も全くなってなかった。それがまた我々の乾いた笑いを誘った。
午前5時くらいに、ついにPが「もうやめよう!」とギブアップした。再三のチョンボとドボン、また我々の口撃にも疲弊しきっていた。一人負けのうえに、冷蔵庫も文字通り空っぽになっていた。
だが、我々にはなすべき仕事が一つ残っていた。炬燵運びである。通勤・通学が始まる前に運び終えなければ、神輿のように炬燵を担ぐ姿が、子どもたちの記憶にまで刻まれることになる。
麻雀を終えた帰り道、東の空が白み始める中、西に傾くオリオン座が、神輿を担いで帰る我々を、ただ静かに見つめていた。