英語遊歩道(その71)-銀閣寺の怪人③-炬燵と神輿 | 流離の翻訳者 青春のノスタルジア

流離の翻訳者 青春のノスタルジア

福岡県立小倉西高校(第29期)⇒北九州予備校⇒京都大学経済学部1982年卒
大手損保・地銀などの勤務を経て2008年法務・金融分野の翻訳者デビュー(和文英訳・翻訳歴17年)
翻訳会社勤務(約10年)を経て現在も英語の気儘な翻訳の独り旅を継続中

5月末、E2の同級生からLINEが来た。地元の神社のお祭りの手伝いをするらしい。「明日はお神輿(みこし)を出せそうです!」と楽しそうだった。

 

田植え前のこの時期の祭りは「御田植祭」と呼ばれ、豊作を祈願するものが多い。「神輿」とは、お祭りの時に神様が地域内を回る為に乗る「輿(乗り物)」のことを言う。「神輿」は英語でportable shrineと言う。

 

因みに、「山車(だし)」は、神様を迎えたり、神様が通る道を清めたりする役割を担っている。神輿が神様の乗り物とされるのに対し、山車はその神輿を先導する存在とされる場合もあるらしい。こちらは英語ではfestival floatという。

 

祭りで、人が神輿を担いだり山車を引いたりするのは、神社に鎮座している神様を「動かす」ことで、地域を清め、加護を得るためで、信仰心に基づくある種の奉納行為である。だが、人は時に、全く意にそぐわない物を担がさせられることがあるようだ。

 

 

Pとの麻雀の面子探しを始めたが、そんなときに限って中々見つからないものである。いつもの雀友たちはバイトや先約があるなどで捕まらなかった。携帯もメールもない当時、大学のキャンパスの中をひたすら探し回るしかなかった。

 

 

そんな中、やっとのことでひとりの面子が見つかった。たぶん北部生協辺りではなかったか。出席番号が隣り合っていたこともあって、以前から彼とは何かと縁があった。以後、Yと呼ぶことにする。

 

「今日、麻雀せえへん?!」と聞くと「ええでぇ!何処で何時からや?」と答えた。それに答える前に「あと一人おらへんかな?」と尋ねた。Yは「ちょっと待って!高校の同級生で工学部の奴がおるかも知れへんなぁ?」と答えて、彼に連絡をとって、どうにか面子が揃った。

 

それから、Pとの約束の夜8時まで、どう過ごしたのか記憶にない。夕食を食べた後、Yの下宿で時間を潰したのか。Yの下宿には学生時代に一度か二度行っている。Yが全30巻くらいの「徳川家康」を読んでいた記憶が残っている。

 

 

ともかくも、夜8時にPのマンションに全員が集合した。さすがはバス・トイレ付きの冷暖房完備のマンションである。我々の下宿とは大違いだった。Pは「生協で麻雀牌を買ってきたよ!40,000円くらいしたよ!」と自慢げに披露した。

 

「さて!麻雀を始めるか!」と室内を見渡したが、麻雀するのに絶対に必要な肝心なあるものが無かった。「炬燵」である。

 

 

Pに「炬燵は何処っ?!」と尋ねると、彼は平然と「今から買いに行こうかと思ってた!」と答えた。もちろん、「ドン・キホーテ」があるような現代の話ではない。

 

 

Pの非常識はさておき、とりあえず、残りの3人で善後策を検討した。「どないする?!」と協議した結果、Pのマンションから最も近いYの工学部の友人、Zの下宿から3人で炬燵を担いで持ってくることになった。

 

今思えば、何故「今日は止めにするか!」とか「雀荘でやるか!」という話に至らなかったのかが不思議である。若さゆえの結論ではあったが、このとき、既に祭りは始まっていたのである。