英語の迷い道(その175)-文芸翻訳への挑戦-村上春樹『ノルウェイの森』 | 流離の翻訳者 果てしなき旅路

流離の翻訳者 果てしなき旅路

福岡県立小倉西高校(第29期)⇒北九州予備校⇒京都大学経済学部1982年卒
大手損保・地銀などの勤務を経て2008年法務・金融分野の翻訳者デビュー(和文英訳・翻訳歴16年)
翻訳会社勤務(約10年)を経て現在も英語の気儘な翻訳の独り旅を継続中

翻訳には大きく分けて文芸翻訳産業翻訳がある。随分前のNHKの朝ドラ「花子とアン」日本の文芸翻訳の草分けの話だった。

 

文芸翻訳では、海外の小説などの外国語を和訳するケースが圧倒的に多いが、これには文才が必要となる。従って翻訳者は日本語ネイティブ(日本人)であることが殆どである。

 

一方で、日本の小説などを外国語訳する文芸翻訳もある。この場合も上記と同じ理由から翻訳者は外国語のネイティブである場合が殆どである。

 

 

翻訳者を志したとき、最初に頭に浮かんだのは文芸翻訳だったが、自分に文才など無いことはもとより、また昔から英文解釈よりは英作文の方が好きだったこともあって、文才ではなく、当該分野の専門知識が生かせる産業翻訳の道を選択することになった。

 

気が付けばそんな道に入って早や17年目となった。

 

 

以下の大阪大学/外国語学部の問題は、日本の著名な作家、村上春樹氏の小説『ノルウェイの森』の一部を受験生に英訳させようという試みである。

 

同書を読んだことがある受験生には有利だったかもしれない。ともかくも男女の間の情景を想像しながら淡々と英文を綴ってゆくほかはない。随筆などよりは、ある意味難しかったのではないだろうか?

 

 

(問題)

次の日本文の下線部(1)~(3)の意味を英語で表しなさい。

 

(1)駅の外に出ると、彼女はどこに行くとも言わずにさっさと歩きはじめた。僕は仕方なくそのあとを追うように歩いた。直子と僕のあいだには常に一メートルほどの距離があいていた。(2)もちろんその距離を詰めようと思えば詰めることもできたのだが、なんとなく気おくれがしてそれができなかった。僕は直子の一メートルほどうしろを、彼女の背中とまっすぐな黒い髪を見ながら歩いた。彼女は茶色の大きな髪どめをつけていて、横を向くと小さな白い耳が見えた。時々直子はうしろを振り向いて僕に話しかけた。うまく答えられることもあれば、どう答えればいいのか見当もつかないようなこともあった。何を言っているのか聞きとれないということもあった。しかし、僕に聞こえても聞こえなくてもそんなことは彼女にとってどちらでもいいみたいだった。(3)直子は自分の言いたいことだけを言ってしまうと、また前を向いて歩きつづけた。まあいいや、散歩には良い日和だものな、と僕は思ってあきらめた。

(村上春樹『ノルウェイの森』)

(大阪大学/外国語学部・2009年)

 

 

(拙・和文英訳)

(1) Getting out of the station, she started walking quickly without saying where she was going. I had no choice but to follow behind her. There was always a distance of about one meter between Naoko and me. (2) Of course, I could have narrowed the distance if I wanted to, but I couldn't because I felt somehow hesitant to do so. I walked about one meter behind Naoko, looking at her back and straight black hair. She wore a large brown barrette, and when she turned to the side, I could see her small white ears. From time to time, Naoko looked back and talked to me. Sometimes I could answer her well, but other times I was at a loss how to answer her. Occasionally, I couldn’t even hear what she was saying. But she didn’t seem to care about whether I could hear her or not. (3) After Naoko said only what she wanted to say, she continued to walk forward again. Leave well enough alone, it was a good day for a walk anyway, I thought, and I gave up.