英語の迷い道(その63)-中野信子「空気を読む脳」から-「褒める」は危険 | 流離の翻訳者 果てしなき旅路

流離の翻訳者 果てしなき旅路

福岡県立小倉西高校(第29期)⇒北九州予備校⇒京都大学経済学部1982年卒
大手損保・地銀などの勤務を経て2008年法務・金融分野の翻訳者デビュー(和文英訳・翻訳歴16年)
翻訳会社勤務(約10年)を経て現在も英語の気儘な翻訳の独り旅を継続中

幼い頃、両親、特に父から褒められたことはほとんどなかった。何かいつも叱られていた気がする。勉強だけでなく生活態度についても。

 

高校に上がったくらいから叱られることはほとんどなくなった。成績が良かったわけではないが、勉強のレベルが父の制御を越えてしまったからだろう。

 

 

中野信子「空気を読む脳」に、子どもを「褒める」のは危険という話が出てくる。

 

まず、子どもたちにあるテストを受けさせ実際の成績は秘匿して「あなたの成績は100点中80点だ」と全員に伝える。

 

テストを受けた子どもたちを3つのグループに分け、成績以外に子どもたちに伝えるコメントを以下のように変える。

 

◎グループ1 「本当に頭がいいんだね」と褒める。

◎グループ2 「努力のかいがあったね」と褒める。

◎グループ3 何のコメントもしない。

 

次に、子どもたちにさらに課題を与える。ここでは2つの課題から1つを選んでもらう。1つは難しく平均的な子どもたちには解けないかもしれない水準の難易度のもの(問題A)もう1つはずっとやさしいもので、さくさくと解けてしまうようなもの(問題B)

 

どちらの問題を選んだかのグループごとの結果は以下の通りとなった。

 

        問題A       問題B

グループ1   35%       65%

グループ2   90%       10%

グループ3   45%       55%

 

「本当に頭がいいんだね」と褒められた子どもたちは、難しい問題を回避した割合が高くなった。これは「頭がいいね」と褒めることが、子どもたちから難しい問題をやろうとする気力を奪い、より良い成績を大人たちに確実に見せられる、やさしい問題を選択させるという圧力として働いていたからだと考えられる。

 

この2つの問題では、成績に大きな差がついてしまい、「頭がいいね」と褒められたグループ1の子どもたちのほうが、何も言われなかったグループ3の子どもたちよりはるかに成績が悪かった

 

これについて、実験者からは、以下のような見解が示されている。

◎「頭がいい」と褒められた子どもは、自分は頑張らなくてもよくできるはずだと思うようになり、必要な努力をしようとしなくなる。

◎「本当の自分は『頭がいい』わけではないが、周囲には『頭がいい』と思わせなければならない」と思い込む。

◎「頭がいい」という評価から得られるメリットを維持するため、ウソをつくことに抵抗がなくなる。

 

従って、褒め方には注意が必要で、その子どものもともとの性質ではなく、その努力や時間の使い方、工夫に着目して評価することが、挑戦することを厭わない心を育て、望ましい結果を引き出す、と研究チームは結論づけている。

(「空気を読む脳」p124-p135から抜粋・引用)