音の異なる仮名四十七文字を歌にした「いろは歌」だが、その作者については空海、柿本人麻呂、源高明など様々な説がある。このうち柿本人麻呂説では「いろは歌」の中に作者、柿本人麻呂の暗号が埋め込まれているという俗説が古くから流布されている。
いろは歌は「いろはにほへと ちりぬるを わかよたれそ つねならむ うゐのおくやま けふこえて あさきゆめみし ゑひもせす」(色はにほへど 散りぬるを 我が世たれぞ 常ならむ 有為の奥山 今日越えて 浅き夢見じ 酔ひもせず)という七五調だが「金光明最勝王経音義」という音義(経典に記される漢字の字義や発音を解説するもの)ではこれを七五調区切りではなく、以下のように七文字毎に区切って表記している。
(七文字目) (五文字目)
いろはにほへと いろはにほへと
ちりぬるをわか ちりぬるをわか
よたれそつねな よたれそつねな
らむうゐのおく らむうゐのおく
やまけふこえて やまけふこえて
あさきゆめみし あさきゆめみし
ゑひもせす ゑひもせす
この七文字表記の七文字目(左・下線部)を縦に読むと「とかなくてしす(咎無くて死す)」、また五文字目(右・下線部)を縦に読むと「ほをつのこめ(本を津の小女)」となり、これがいわゆる「人麻呂の暗号」と呼ばれるものである。
その意味は「私は冤罪(えんざい)により殺される。本書を津(地名)の妻の許へ届けよ。」というものになる。
万葉歌人、柿本人麻呂の生涯には謎が多く、高官であったが政争に巻き込まれて刑死したという説も伝えられている。人麻呂の暗号は、いろは歌に限らず百人一首やその他の和歌の中にも残されているという説もあり、その信憑性はともあれ、こんな古代史ミステリーに興味がある御仁は、以下の書を読まれてみることをお勧めする。
①「水底の歌-柿本人麻呂論」(梅原猛著1972年-大佛次郎賞受賞作)
②「猿丸幻視行」(井沢元彦著1980年-江戸川乱歩賞受賞作)
③「人麻呂の暗号」(藤村由加著1989年)