令和が始まってもうすぐ4年になる。一昨日くらいからフェーン現象が発生しているようでかなり気温が上がった。四月とは思えない暑さである。
万葉集に以下の歌がある。
「春過ぎて夏来きたるらし白栲(たへ)の衣乾したり天の香具山」 持統天皇
教科書にもある有名な歌で、ちょうど今の時節を詠んだものと思われる。通常は「いつの間にか春が過ぎて夏が来たようですね。あの天の香具山に白い衣が干されているのが見えていますよ。」のように口語訳されている。
新元号『令和』を考案した万葉学者、中西進氏の自叙伝が以前ある新聞に連載されており、その中でこの歌の解釈に言及している件(くだり)があった。
「……(前文略)……そもそも聖なる山の香具山に洗濯物など干すでしょうか。おまけに藤原宮跡から香具山を見ても洗濯物まで見えるはずはない。そこである時から、まだら雪に覆われた冬の香具山を見て詠まれたものと解釈しています。雪化粧を『白栲の衣』と虚構し、春どころか夏が来たように感じる。そう思うとユーモアも感じますね。……」
和歌の口語訳も翻訳の一種と思われるが、我々のような産業翻訳者の場合、和訳であろうが英訳であろうが、原文からかけ離れて思い切った意訳をすることを躊躇(ためらい)がちだ。
しかし、時には中西氏のような大胆な発想による別解が、原作者の真意へ到達する近道かも知れない。