時節は啓蟄を過ぎて水道の水の冷たさが少し緩んできた。まさに「水温む春」である。
英作文の面白さは、基本ちょっとひねった日本語を如何に手持ちの構文や語彙で処理していくかにある。とくに動詞や形容詞の選定が面白い。
予備校の頃の英作文の講師は、覚えたばかりの難易度の高い妙な語彙を使って英文を作成することに対して我々を厳しく戒めた。そんな英文に限って意味が頓珍漢なものになっていた。
「スッキリした構文で適切な語彙を使って書く」ことを英文の「膿を出す」と呼んでいた。かなり印象的な講義だった。
受験英作文の場合、こなれた日本語なので意味不明なところはないが、これが産業翻訳となると全く異なる。原稿に誤字・脱字もあれば意味不明な箇所も多々ある。これを逐一顧客やコーディネーターに問い合わせていたのでは仕事にならない。
よほど不可解なものでない限り、翻訳者がある程度の推定や創作によって製品化する。そのような処理を行った箇所は「訳者コメント」として一覧表にして提出する。そんな作業を行った頃が今は懐かしい。
以下はいかにも京大らしいかなり古い問題である。日本語の語彙もさほど難しくはない。京都やフローレンス、ヨーロッパの大学に思いを馳せながら処理したい内容である。
(問題)
京都とフローレンスは類似点が多い。いずれもよく知られた古い都市である。双方とも丘に囲まれ、冬はひどく寒く、夏は耐えがたいほど暑い。ともに自国の文化の中心とみなされ、観光客にとっては尽きせぬ宝庫である。
(1972年 京都大学)
(拙・和文英訳)
There are many similar points between Kyoto and Florence. Both are well-known and old cities. Because the both cities are surrounded by hills, it is terribly cold in winter, while it is intolerably hot in summer. As the both cities are regarded as the cultural centers of Japan and Italy, they have been playing a part as everlasting sightseeing reservoirs for tourists.
(B)
(問題)
ヨーロッパの古い大学の多くは大都市の喧騒を離れた美しい田園か小さな町にあった。時代の目まぐるしい変化から一定の距離を保ち、思想と瞑想のうちに過去の文化遺産を検討し、次第に新しい文化をつくりあげていった。
(1992年 京都大学)
(拙・解答例)
Many universities in Europe were in beautiful countryside or small towns away from the busy and noisy environment of large cities. Scholars in the universities had studied cultural heritages in the past amid the thoughts and meditation, and gradually developed a new culture, while keeping a certain distance from the hectic changes of the times.
ハイデルベルク大学(ドイツ)
ソルボンヌ大学(フランス)