続・英語の散歩道(その83)-日中韓三カ国環境大臣会合②-「古色」(Patina) | 流離の翻訳者 青春のノスタルジア

流離の翻訳者 青春のノスタルジア

福岡県立小倉西高校(第29期)⇒北九州予備校⇒京都大学経済学部1982年卒
大手損保・地銀などの勤務を経て2008年法務・金融分野の翻訳者デビュー(和文英訳・翻訳歴17年)
翻訳会社勤務(約10年)を経て現在も英語の気儘な翻訳の独り旅を継続中

秋晴れが続く中、街路樹の緑が少しずつ赤や黄色に色づいている。空の青に葉の緑。青緑ならぬ緑青と書いて「緑青(ろくしょう)」と読む。銅の表面に生じる緑色の錆のことで、寺社仏閣の屋根や銅像の表面に見られ風雅な味わいを醸し出している。

 

 

 

この「緑青」、銅に空気中の水分と二酸化炭素が作用して生じる塩基性炭酸銅などを主成分とするものでほとんど無害で、その化学反応は以下の化学式で表される。

 

2Cu + O2 + CO2 + H2O → CuCO3・Cu (OH)2

 

 

「緑青」を英語でpatina [pətíːnə]というが patina を英英辞典で引いてみると第2義に以下の定義がある。

 

Patina:

The patina on an old object is an attractive soft shine that has developed on its surface, usually because it has been used a lot.

 

「使い込まれて古びた物の表面に生じる魅力的で柔らかな光沢のこと。古色。」

 

英語では「緑青」という語自体が「古色」の意味をもつ。古色蒼然とした佇まいの寺社や仏閣。紅葉の見頃はこれからである。

 

 

 

 

「日中韓三カ国環境大臣会合(TEMM21)」歓迎レセプション会場の「リーガロイヤルホテル小倉」に入り北九州市環境局スタッフの控室に向かった。控室では数名のスタッフがレセプションの準備に慌ただしく動いていた。

 

中国語と韓国語の同時通訳者が早めに到着した。英語の逐次通訳者が一人、また一人と到着していた。暫くすると学生や若手ビジネスマンの市内視察に同行した中国語と韓国語の逐次通訳者が戻ってきた。

 

環境関連施設や「いのちのたび博物館」での専門用語の通訳に苦労したらしく二人ともかなり疲弊していたが、ある意味開き直ってもおり安心感が持てた。

 

 

女性通訳者が集まると何かと喧しい(まあ喋るのが商売なので仕方ないが)。やや気圧されていたが、顔馴染みの英語の男性通訳者が到着して味方を得た。

 

控室にはサンドイッチやおにぎり、またペットボトルの飲み物を市環境局のスタッフが用意しており女性通訳者が我先にとパクついていた。「やはり通訳は体力なんだ!」と改めて思い知らされた。

 

 

夕刻が近づき宴会場へと入った。宴席の後ろには多くのマスコミが待機していた。通訳者の配置などは環境局スタッフの指示に従った。あとは各通訳者に任せる他なかった。

 

程なく歓迎レセプションが始まった。挨拶の順序は、①北九州市長(ホスト・開会の挨拶)⇒②中国の環境大臣⇒③韓国の環境大臣⇒④日本の環境大臣(小泉進次郎氏)⇒⑤福岡県知事(挨拶+乾杯)だった。

 

挨拶の文言は1センテンス毎に、日本人のスピーカーであれば、①日本語(スピーカー)⇒②韓国語(日韓通訳者)⇒③中国語(日中通訳者)という形で逐次に通訳された。同時通訳というよりは正式な逐次通訳である。

 

事前に挨拶の原稿は渡されているものの誤解が生じない通訳、臨機応変な対応および度胸が必要だと感じた。市環境局の担当者が「同時通訳レベルの通訳者が必要!」と言っていた理由が何となく理解できた。

 

 

ただ中国・韓国の環境大臣が同伴してきた中日・韓日通訳者の日本語レベルは決して高くはなく「その程度か?!」と思えるところもあり妙な安心感を覚えた。

 

中国語・韓国語の同時通訳者は問題なく北九州市長および福岡県知事の挨拶の通訳をこなし歓談が始まった。中・韓・英の逐次通訳者は首尾よく歓談のサポートを行った。

 

私は円卓をはしごしながら各通訳者の様子を見て声を掛けてまわった。来賓に声を掛けられることもありその日に交換した名刺は50枚を超えた。午後9時頃、歓迎レセプションは無事終了し解散となった。

 

 

それにしてもコーディネーターとは面倒な仕事である。ただ本通訳は私にとっても貴重な経験となり、以後「大概の通訳は怖くない」と思えるようになった。