続・英語の散歩道(その78)-三好達治「乳母車」-昭和の秋の夕暮れ | 流離の翻訳者 青春のノスタルジア

流離の翻訳者 青春のノスタルジア

福岡県立小倉西高校(第29期)⇒北九州予備校⇒京都大学経済学部1982年卒
大手損保・地銀などの勤務を経て2008年法務・金融分野の翻訳者デビュー(和文英訳・翻訳歴17年)
翻訳会社勤務(約10年)を経て現在も英語の気儘な翻訳の独り旅を継続中

昨日から朝冷えるようになった。朝歩くと指先が少し寒い。今朝はこの秋一番の寒さだったところもあるようだ。これも「放射冷却(radiative cooling)」によるものらしい。

 

年末の話題がちらちら聞こえ始めるこの時期、そろそろ「鍋」が恋しくなる季節である。

 

 

母が亡くなって三年余り、時々三好達治の詩「乳母車」が思い浮かぶことがある。この詩は昭和の秋の夕暮れを思い起こさせる。「紫陽花いろのもの」が何かわからないが薄紫や薄いピンクの光のかけらみたいなものように思われる。

 

思えば昭和は遠くになったものだ。

 

 

 

 

「乳母車」  三好達治

 

母よ――

淡くかなしきもののふるなり

紫陽花(あじさい)いろのもののふるなり

はてしなき並樹のかげを

そうそうと風のふくなり

 

時はたそがれ

母よ 私の乳母車(うばぐるま)を押せ

泣きぬれる夕陽にむかって

轔轔(りんりん)と私の乳母車を押せ

 

赤い総(ふさ)のある天鵞絨(びろうど)の帽子を

つめたき額にかむらせよ

旅いそぐ鳥の列にも

季節は空を渡るなり

 

淡くかなしきもののふる

紫陽花いろのもののふる道

母よ 私は知っている

この道は遠く遠くはてしない道