続・英語の散歩道(その77)-和文英訳・中訳・韓訳・越訳-多言語翻訳への挑戦 | 流離の翻訳者 青春のノスタルジア

流離の翻訳者 青春のノスタルジア

福岡県立小倉西高校(第29期)⇒北九州予備校⇒京都大学経済学部1982年卒
大手損保・地銀などの勤務を経て2008年法務・金融分野の翻訳者デビュー(和文英訳・翻訳歴17年)
翻訳会社勤務(約10年)を経て現在も英語の気儘な翻訳の独り旅を継続中

翻訳会社と印刷会社は関係が深い。様々なドキュメントの翻訳を印刷会社経由で請け負っていた。観光スポット関連のもの、会社案内やパンフレット、地方公共団体関連のドキュメントなどが多かった。

 

 

地場の大手印刷会社N社から北九州市のお隣りの京都郡苅田町(みやこぐん・かんだまち)の案件の見積り依頼が入ったが2018年の夏の終わりごろだった。原稿は「苅田町生活情報ガイドブック」というものだった。

 

翻訳の方向は、和文英訳、和文中国語(簡体字)訳、和文韓国語訳、和文ベトナム語訳の4方向だった。見積り提示後、秋口には同案件を受注した。

 

英語、中国語(簡体字)は自社の登録翻訳者、韓国語は付き合いが長い大阪の韓国語専門の翻訳会社、ベトナム語は福岡の大手翻訳会社に再委託した。とにかく品質を最優先して翻訳を進めた。

 

 

苅田町には日産自動車、トヨタ自動車、三菱マテリアル、日立金属など大手の製造業、さらにその下請け会社などが数多く存在する。それらの企業で働く外国人が多く、今回の案件は彼ら外国人向けに町役場が町内での生活便利情報を提供するものだった。

 

 

 

 

原稿は苅田町の役人の方が作ったものだったが、最も苦労したのが地名や企業名や施設名(病院・学校など)などの固有名詞だった。

 

地名(漢字)の場合、中国語は問題ないが、韓国語、ベトナム語では、英語同様に日本語での読み方がわからないと翻訳できない。特に細かい地名や寺院などの読み方の調査に苦労した。

 

一方で、中国語は固有名詞内のひらがな・カタカナの処理に苦労した。日本語では漢字表記のものでも医院名などではひらがな、カタカナを使用しているケースがある。例えば「やまだクリニック」とか「サイトウ皮膚科医院」のようなケースである。

 

このような場合、表音文字が無い中国語では、名前の中の固有名詞部分を原則アルファベットの大文字で表記し、一般名詞部分は中国語(簡体字)に翻訳して表記する。上の例では以下のようになる。

 

◎「やまだクリニック」⇒「YAMADA诊所」

◎「サイトウ皮膚科医院」⇒「SAITO皮肤科医院」

 

もし「やまだクリニック」を「山田诊所」と訳すと中国人が医院の看板を見ても判りづらいからだ。「山田」=「やまだ」と認識しづらいからである。まだアルファベットのYAMADAの方がわかりやすいのである。

 

そんなことも知ったのもこのときが最初だった。

 

 

因みに、中国語の簡体字・繁体字の違いについて書いておくと、簡体字は従来の漢字(繁体字)を簡略化した字体をいい、中国本土、シンガポール、マレーシアで使用されている。英語では Simplified Chinese と表す。

 

繁体字は正字、正体字とも呼ばれ、簡体字や日本の漢字に比べても圧倒的に画数が多いのが特徴で、台湾、香港、マカオで使用されている。英語では Traditional Chinese と表す。

 

 

 

 

そんな苦労があったが翻訳は無事終了し、2018年12月初旬に納品することができた。

 

 

2020年1月から外国人技能実習生の監理団体に職を得たが、その団体の職員たちが外国人技能実習生の監理・指導にこの「苅田町生活情報ガイドブック」を有効活用していることを知り、過去の自分の仕事が誇らしく感じられた。

 

https://www.town.kanda.lg.jp/_1021/_1058/_5657.html