続・英語の散歩道(その61)-通訳者派遣のリスク-人材流出と派遣詐欺 | 流離の翻訳者 青春のノスタルジア

流離の翻訳者 青春のノスタルジア

福岡県立小倉西高校(第29期)⇒北九州予備校⇒京都大学経済学部1982年卒
大手損保・地銀などの勤務を経て2008年法務・金融分野の翻訳者デビュー(和文英訳・翻訳歴17年)
翻訳会社勤務(約10年)を経て現在も英語の気儘な翻訳の独り旅を継続中

今はちょうどこんな季節だ。台風が過ぎるまで今年の夏は終わらない。

 

「あかあかと日はつれなくも秋の風」 松尾芭蕉

 

(現代語訳)

秋の風が吹き始めていることを知ってか知らずか残暑の夕日が赤々と燃えている。

 

この句ついて幾つかの英訳が見つかった。

 

(英訳)

1) Glowing red

    Merciless the sun yet

    A wind in the autumn

 

2) Reddy, reddy the sun shines heartlessly.

    But the wind is autumnal.

 

3) Red, red is the sun.

    Relentless, still

    The autumn wind

 

4) Red and bright

    The pitiless sun

    And yet the autumn wind

 

 

 

通訳者の派遣にはリスクが伴う。2016年そんな2つのリスクケースを体験した。

 

(ケース1)

2016年3月。下関市のK社から派遣中の通訳者についてある連絡があった。「通訳者のMBさんを正社員として採用したい ……」と。彼女がやり手なことはわかっていた。K社の判断もまあ当然のことだった。

 

結局、彼女の年齢や資質、また本人の希望等について面談し「ここでK社の正社員になっておいた方が彼女にとってベター」と判断して彼女の背中を押した。

 

S社⇔K社間の契約は紹介予定派遣ではなく一般派遣であるため基本的に手数料(紹介料)は請求できない。今思えば、利益を削って派遣単価を下げ少しでも派遣契約を継続させるなどの手があったかもしれない。

 

結論的に言えば、派遣契約には貴重な人材を社外に流出させるリスクがあるということである。

 

 

 

(ケース2)

2016年夏。新日鐵関連のE社から米国アラバマ州C社への2回目の通訳者派遣の案件が入ってきた。今回は季節が悪い。現地は毎日35℃を超える猛暑だという。高齢のUさんの再度派遣は難しかった。

 

適当な男性通訳者の手持ちが無くネットで募集をかけることにした。茨城県のT市の60代前半の男性Aから応募があった。

 

歳は食っていたがAの「職務経歴書」によればそれなりの工業系通訳の経験を有しているように思われた。とりあえず「一般ビジネス」および「工業技術」の和訳・英訳のトライアルを実施して翻訳能力をチェックした。60%程度の出来だったが技術会議の議事録等の作成は可能と判断した。

 

さらに通訳者のUさんを茨城県のT市に赴かせ直接Aと面談させた。通訳能力をチェックする必要があった。Uさんの判断は「まあ大丈夫だろう」というものだった。

 

これらの結果を受けてAを契約社員としてS社で雇用しE社に派遣する手続きを進めた。2016年7月にAの採用面接をS社の本社で実施し8月上旬にAを渡米させた。

 

私が受けたAの印象は「人が好い田舎者」といったもので決して悪い印象はなかったが ……、この男渡米後に豹変した。

 

E社のプロマネから国際電話で連絡(クレーム)が入ったのはAが渡米して間もなくの日本の盆休み前のことだった。クレームの内容は、①Aに全く通訳の能力(やる気)が無いこと、また②Aに工場構内の通訳に耐えうる身体的能力(体力)が無いこと、だった。

 

①ついては、逐次通訳の際にAは「全然わかんねぇ!」などと平気で口走るらしい。プロの通訳者たる意識が無い、と言うか全然真面目にやっていない。②については現場が35℃を超える猛暑で建屋が3階建でエレベーターも無いなど過酷であることは事前にAに説明済みだったが、年齢的に厳しかったのかも知れない。

 

プロマネが言うには「Aが作業中脚を引きずるような仕草をするため労災でも起きやしないかと心配でならずとりあえずホテルで待機してもらうことにした」とのことだった。これも演技(仮病)かも知れないが日本から連絡してもAに繋がらず問い質すこともできなかった。

 

とにかくAを一刻も早く帰国させて雇用契約を解除しようと思ったが、雇用契約は簡単に解除できない。少なくとも30日前の解雇予告(または解雇予告手当)が必要となる。

 

今回のように労働者(派遣通訳者)側に悪意がある場合、実に面倒な交渉や結果的に無駄なコスト(損失)が生じることとなった。このときは自社の総務グループリーダーが対面で対応してくれた。男気のある人だったが大変な負荷をお掛けしてしまった。

 

私のAに対する調査不足が今回のトラブルの原因であることは明らかだった。後に判ったことだが、Aはある派遣詐欺グループのメンバーだったようである。

 

このとき、派遣契約・雇用契約は安易に締結してはならないこと、また赤の他人を簡単に信用してはならないことを肝に銘じた。

 

 

 

2016年の夏は休暇を取って旅行に行くこともなく後悔の念の中で虚しく過ぎていった。その一方で、私はこのトラブルが生じる前から将来に備えてある分野の勉強を密かに進めていた。