中国四大奇書の一つに「水滸伝」がある。英語で「水滸伝」を Heroes of the Marshes とか Water Margin ともいう。Marsh は「湿地・沼地」のことであり「水滸伝」の物語の主たる舞台となるこの marsh は「梁山泊」と呼ばれた。
「梁山泊」の英訳を調べてみたが説明的な訳語しか見つからなかった。
Place of assemblage for the bold and ambitious
「大胆で野望に燃えた英雄・豪傑たちが集うところ(塞)」
「水滸伝」ではいわゆる好漢たちが中国全土を旅して一芸に秀でた者など見どころのある英雄・豪傑を仲間にして最終的に「梁山泊」に集結させる。彼らのスローガンが「替天行道」(天に替わって道を行う)というものだった。
「替天行道」の英訳を探してみると
Enforce justice on behalf of the Heaven
というものがあった。
「梁山泊」で軍隊を組織・訓練して悪徳官吏を倒して勢力や領土を拡大し最終的には勅令を得て殿帥府太尉である奸臣・高俅を打倒するストーリーとなっている。
私が翻・通訳者の戦力の増強を本格的に開始したのは2014年に入ってからのことだった。当時特に必要としたのが環境分野を含めて工業・技術分野の英訳がこなせる翻訳者だった。2014年当時、受注案件の7割くらいが工業・技術および環境分野から入っていた。
翻・通訳者はネットを通じて全国から募集した。翻訳者には翻訳トライアルを課し、通訳者には面接を実施した。当初の翻訳トライアルは一般ビジネス・工業技術・環境の3分野について英文和訳および和文英訳の計6種類の問題を準備した。
毎回、募集を掛けて3日間くらいで20名ほどの応募があった。応募者には履歴書・業務経歴書を提出させたが皆様々なキャリア・資格・経験を持っていた。さながら「水滸伝」の英雄・豪傑集めを彷彿とさせるものだった。
トライアルの提出には一週間程度の納期を定めたが納期厳守とはしなかった。トライアルの和訳・英訳を見て初めて応募者の真の実力が判明した。まあいつも玉石混淆といった感じだった。
英検1級など上位資格を持っていても英訳で基本的な動詞の使い方すら間違っている者もいた。「少しは辞書で調べりゃいいのに!」と思った。
そんな中でも毎回2~3人はトライアル合格者がおり2014年~2019年の6年間で40名余りの翻・通訳者登録することができた。言語は英語、中国語、韓国語、ロシア語などで翻訳者が凡そ6割、通訳者が4割ほどだった。性別でいえば女性が7割、男性が3割程度だった。
トライアルでは素晴らしい英文を提出してきたのだが、実際の案件を英訳させると品質が極端に低い者もいた。正直言って「騙された!」という感じだったがそういう者には2度と仕事を依頼することは無かった。結局、どんな案件でも安心して依頼できる翻訳者は10名ほどで、いつもそのくらいのメンバーで案件をこなしている状況だった。
いずれは翻訳者の能力を高めて翻訳者軍団を組織し、同業他社を凌駕して市場から大型案件を受注しよう(「替天行道」)などと夢をふくらませていたが、現実はそんなに甘くは無かった。
翻訳・通訳部門の責任者となった2014年10月頃、そんな現実が見えるようになった。夢を追うよりは、まずは「どのように翻訳・通訳の営業を行うか?」が課題だった。