続・英語の散歩道(その40)-入札と「官製談合」 | 流離の翻訳者 青春のノスタルジア

流離の翻訳者 青春のノスタルジア

福岡県立小倉西高校(第29期)⇒北九州予備校⇒京都大学経済学部1982年卒
大手損保・地銀などの勤務を経て2008年法務・金融分野の翻訳者デビュー(和文英訳・翻訳歴17年)
翻訳会社勤務(約10年)を経て現在も英語の気儘な翻訳の独り旅を継続中

日鉄エンジニアリング㈱からの工業・技術関連の仕様書や要領書、またKITAの環境(省エネ)関連の英訳を日々こなしながら2011年の秋が過ぎていった。

 

 

そんな2011年11月のある木曜日の午後、北九州市の国際○○局から翻訳の入札を行うという連絡が入った。EU関連の和文英訳の案件だという。16:00に説明会を行うというので市庁舎まで赴いた。

 

説明は国際○○局の女性課長が行った。本入札には北九州市からS社(私)とA社の2社、福岡市からH社の合計3社が参加した。同業他社の人間と初めて顔を合わせた。

 

女性課長は「各社の翻訳品質をチェックするために、これから和文英訳のトライアルを実施して委託先を決定します!」と我々に告げた。

 

彼女はトライアル用のサンプル原稿を我々に渡した。A4用紙3枚にびっしりと日本語が書かれていた。約4,000文字程度か。英訳すれば2,500ワードくらいになるだろう。

 

さらに、これを「明日(金曜日)の朝10:00までに提出してください!」という。私は「えっ!明日ですか!?」と驚いて反応した。

 

これから帰社して一次翻訳者に原稿を渡しても出来あがりは頑張って翌朝、さらにチェックして、またネイティブチェックまでかければどう考えても納期に間に合わないのである。

 

女性課長は「我々も納期を急いでおりますのでとにかくよろしくお願いします」とだけ告げると説明会を散会した。

 

 

私は福岡市のH社と顔を見合わせ「御社はどうしますか!?」と尋ねてみた。彼は「いやぁ~応札は時間的にちょっと難しいですねぇ」と答えた。私も「上司に相談してみますがうちも厳しいと思います」とこちらの本音を話した。

 

その時A社の営業マンと目が合った。彼はニヤッと笑うと「皆さんには納期が厳しいですか?」と他人事のように言うと説明会の会場から出ていった。「何じゃ!あいつは!?」と思った。

 

 

帰社して上司のGさんに今回の入札の経緯について説明した。彼は「たぶん官製談合ですよ!」と言った。事前に北九州市・国際○○局⇔A社の間で翻訳委託の話がついているのである。結局「入札は形だけ」ということであった。

 

 

当日の夕刻、北九州市・国際○○局宛に「応札せず」のファックスを送って応札を辞退したが、あのにやけたA社の営業マンと生意気そうな国際○○局の女性課長の顔は今も覚えている。

 

 

官製談合(collusive bidding at the initiative of government officials)の罰則規定は5年以下の懲役または250万円以下の罰金となっているが、残念ながら、本件ついては5年の時効(duration of prescription)が成立しているようである。