この1988年という節目の年、親友2人が結婚したことを以前書いた。
一人目は西高「四人組」のR。東京工大・修士を卒業して新日本製鐵(現・日本製鉄)で技術者として勤務していた。奥様は日本航空の国際線のCAの方で、彼がロンドンでの会議に出席した帰途の航空機内で巡りあったと聞いた。
時期は1988年4月。場所は当時一番人気の赤坂プリンスホテル、愛称は「赤プリ」。バブルの幕開けを象徴するような煌びやかなホテルだった。Rの披露宴で覚えているのは、奥様の茶道の師匠が「飛行機の中で声を掛けてくるような人!やめときなさい!」と当初は新婦をたしなめた、という話である。「しかし、よく話を聞いてみると、なかなかしっかりした青年に思えました」と師匠は話を締めくくった。
「新郎の会社が作った鉄でできた飛行機で新婦がCAとして活躍する、それもなかなか良いですなぁ~」のような挨拶をした新日鉄の来賓の方もいた。
二人目は大学時代の親友H。時期は1988年9月。場所は「東京會舘」で料理が美味いことで定評のあるところだった。奥様との出会いは、大蔵省理財局勤務時の先輩の披露宴で二人並んで受付をしたのが縁と聞いた。媒酌人は理財局当時の上司の榊原英資氏ご夫妻だった。後に「ミスター円」の愛称で呼ばれた方である。
学生時代の友人の披露宴に出席すると、一言挨拶+大学同窓生で「琵琶湖周航の歌」を頼まれるケースが当時多かったが、さすが来賓が大蔵省と専売公社(旧・大蔵省専売局)で東大卒が大多数を占めるなか、肩を組んで歌う「琵琶湖周航の歌」もいつもより随分緊張したものとなった。
Hの専売公社の上司が、彼が新婚生活もそこそこ日本興業銀行に出向してニューヨークで2年間のトレーニーを受ける話を披露した。同時に、このように活躍できているのは決してH個人の力だけではなく会社(専売)のお陰なんだと、釘を刺すご挨拶をされたことを覚えている。かくして学生時代の親友H夫妻も1988年秋、ニューヨークへと飛びたっていた。
当時、昭和天皇の具合が悪い状況が続いており、安田火災は同年予定されていた創業100周年の記念式典を「当面延期」とし、また、全職員に対して常に弔事用の黒ネクタイを準備しておくよう通達が流れていた。
昭和天皇が崩御される日は全国的にも「Xデー」と呼ばれており、新元号が決まったその日に、保険証券などに表示される和暦(元号)の表記をどのように一斉に変更するかについて、部内、課内で検討が行われていた。
当時の安田火災のシステムには、日付を制御する汎用モジュールとして、西暦から和暦への変換を行うE9998、その反対の和暦から西暦への変換を行うE9999があった。
その他、システムにはジュリアン・デート(Julian Date)と呼ばれる日付があり ”YYDDD” 型の数値で表示されていた。1988年は閏年なので、例えば1988年12月31日はジュリアン・デートでは ”88366” となる。このジュリアン・デートから西暦へ変換を行う汎用モジュールがXY7170、その逆の西暦からジュリアン・デートへ変換するXY7171があった。
IBMのユーティリティなどシステムが持っている日付はジュリアン・デートか西暦で、システム内に元々和暦が存在しないため、ジュリアン・デートから西暦、さらに西暦の年号にプログラムで加算・減算を施して和暦を求めるというやり方が普通だった。
従って、E9998などをコールしているロード・モジュールを把握しておき、元号が変わった時点で、E9998などを「西暦から新元号の和暦に変換するモジュール」に変更する、という作業が必要になった。
具体的には、①新元号に対応する日付汎用モジュールを作成する⇒②日付を利用しているプログラムを①で作成した新・日付汎用モジュールをコールする形に修正する⇒③②および②をコールしてるプログラム全体を再度連係編集してロード・モジュールライブラリに登録(カタログ)する、という作業であった。
ロード・モジュールが、ダイナミック・コール(dynamic call)ではなくスタティック・コール(static call)の形態であるため、上記③のような作業が必要になった。また、当面は旧・日付汎用モジュールも使用されるため、新・日付汎用モジュールは別の名前で作らなければならなかった。
アプリ担当課ごとシステムごとに様々な対応が取られたが、電算オンライン課は、Xデー対応に関してはアプリの作業を支援するのみで、さほど作業負荷は掛らなかったように思われる。
かくして、長かった昭和の時代が終わろうとしていた。
当時よく聴いていたのが、1988年11月発売の松任谷由実のアルバム「Delight Slight Light KISS」の1曲目の「リフレインが叫んでる」だった。
なおこのアルバムのタイトルの ”Delight Slight Light KISS” とは「舌を入れないキス」のことらしい。