「職業」を表す英単語 Vocation には「(神から与えられたと感じられ使命感を持って行う)天職・聖職」という意味がある。今思えば「赤いガラス」の占い師が予言した「アルファベットを操るような仕事」が私の天職だったのかも知れない。
昨年来COVID-19に関連して「クラスター」という言葉をよく聞くようになった。この場合の「クラスター」は「感染者集団」の意味だが、当時(1980年代)の情報処理の世界にも「クラスター」という概念があった。
情報処理における「クラスター(Cluster)」とは「データ格納の基本単位」をいい、データセット(Dataset)とほぼ同じ概念である。
アクセス方式がVSAM(Virtual Storage Access Method=仮想記憶アクセス方式)のデータセットを作成する場合、IDCAMSというユーティリティで「DEFINE CLUSTER」というコマンドを使用した。これはデータベースの作成についても同様である。「クラスター」という言葉から、ふとそんなことを思い出した。
閑話休題……。電算課内には同期が一人いた。以後、彼をSKと呼ぶことにする。SKは新内二課出身だが司法試験の短答式試験に合格したと聞いていたので私と同じ事務管理部付に異動になったときは正直驚いた。その当時「保険会社では法律と数学ができる者が出世する」と言われており、彼の場合、他にも異動先は色々あったのでは、と感じたからである。
SKは運用管理チーム、スケジューラーチームに配属になった。スケジューラーチームが担当する業務は、一言でいえば、事務本部のホストコンピュータ(メインフレーム)で処理する全てのジョブ(コンピュータが処理する仕事の単位)のスケジュールを管理することだった。
ストレスが多い仕事で、各アプリケーション担当課からの要望、コンピュータ処理を実際に行うオペレータ(関連会社が担当)からの要望のほか、営業部門の部店長から直接、成績や請求書などの帳票の出力のスケジュールについて注文が入ることもあった。これらをうまく調整しつつホストコンピュータを運用してゆく必要があった。2年目社員には責任が重すぎる仕事であり、SKは毎日相当なストレスを抱えながら会社生活を送っていたものと思われる。
SKとは電算課内で隣同士のシマで机を並べ3年ほど一緒に仕事をした。その間、協力し合ったり、言い合って喧嘩になったり、また共通の敵と戦ったりなど苦楽をともにした。朝7:30(SKは7:00)には会社に着いて仕事を開始し、昼休みも時間を惜しんで仕事、夜もトラブルが起これば何時になるかわからない状況の毎日だった。苦しかったが何となく充実していて楽しかった。SKには私の短所・長所の全てを見られてしまった。
今から3年近く前、SKご夫妻が博多に来られて29年ぶりに再会した。苦しかった当時の思い出話に花が咲いた楽しい宵(酔い)だった。またのご来福を心待ちにしている。
ここで運用管理チームのもう一つのチーム、プロセスチームについて書いておく。プロセスチームは、本番ジョブのJCL(Job Control Language)を作成・管理・運用していた。「プロセス」とはPROCESS(Product Run Operation Control Execution Support System)の略で、各アプリケーション担当課からの申請によりJCLを自動的に作成するシステムの名称だった。
この「プロセス」は、我々より10年以上先輩の天才的なプログラマ(システムエンジニア)が企画・立案・作成したシステムで、基本DBとファイルDBと呼ばれる2つのデータベースから自動的にJCLが生成される仕掛けになっていた。当時、システムの運用管理に利用できるような汎用プログラムは殆ど無く「自前でよくこんなこと考えついたなぁ~?!」と感心させられるようなシステムだった。
因みに、この「プロセス」システムの生みの親のH氏は、その後、オンライン課と統合後の「電算オンライン課」の課長に任ぜられ、私もご指導を仰ぐことになった。